こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

聖女マリー・ルイスの肖像-【11】-

2017年09月09日 | 聖女マリー・ルイスの肖像


 さて、今回は自分がまだ見てないにも関わらず(笑)、エミリー・ディキンスンの映画をご紹介したいと思いました♪(^^)





 こちらが予告篇で、


 >>19世紀半ばのマサチューセッツ州。家族と離れ、マウント・ホリヨーク女子専門学校に通っていたエミリ・ディキンスンは、学校での福音主義的な教え方に神経質になっていた。そんなエミリを家族が迎えにやってくる。弁護士の父親エドワードは彼女をアマストの家に連れ帰り、エミリは両親、兄オースティン、妹ラヴィニア(ヴィニー)らと過ごすこととなった。夜の静寂の中で詩を綴っていたエミリは、父親の口添えもあり、地元の新聞に初めて自身の詩を掲載されるも、当時の編集長からは「女には不朽の名作は書けない」と皮肉な意見を返される。

 やがて、彼女は資産家の娘、ヴライリング・バッファムと友人となる。ユーモアにあふれ、進歩的なバッファム嬢にエミリは影響されていく。牧師との祈りの時、跪かなかったことを父親から注意されるもエミリは言い放つ。「私の魂は私のものよ」
 
 ハーバード大学に通っていた兄オースティンが父と一緒に弁護士の仕事をすることになり、美しい花嫁スーザンと隣の家に住むことになる。義姉であるスーザンとの友情、甥の誕生はエミリを喜ばせ、彼女にとって生家より素晴らしい場所は考えられなかった。しかし、外の世界は大きく変わりつつあり、南北戦争は60万人以上の戦死者を生み、奴隷制度は廃止されることになった。

「結婚して家族と離れることは考えられない」と言うエミリだが、心を揺り動かす男性も出現する。ワズワース牧師だ。説教に感動した彼女は彼を自宅に招待するが、彼には妻もいた。ワズワース牧師と自宅の庭を散歩しながら自作の詩を渡す。称賛の言葉を送る牧師に対してエミリは語る。「自分の作品が後世に残ってほしい」と。

 一方、親友バッファムの結婚にエミリは大きな喪失感を感じる。ワズワース牧師も別の土地に旅立つことが判明しエミリは衝撃を受ける。そして父親の死。3日間部屋にこもったエミリを心配しヴィニーがドアを開けると、喪中であるにもかかわらず白いドレスを着たエミリがいた。

 以降なかなか自分の部屋を出ようとしないエミリはやがてブライト病という不治の病をわずらう。病気がちだった穏やかな性格の母親も他界。深い喪失を抱え屋敷に引きこもる生活をつづけながらもエミリは詩作を心のよりどころとしていた――。

(映画『静かなる情熱~エミリ・ディキンスン~』公式サイトよりm(_ _)m)


 というのが映画のあらすじなのですが――たぶん、すでにわたしと同じようにエミリー・ディキンスンが大好きな方が見た場合……若干、奇異な印象を覚えるやもしれません(^^;)

 エミリー・ディキンスンという詩人を理解する上において大切な人物が、まず家族である両親と、兄のオースティンと妹のラヴィニアであり、またのちにオースティンが結婚することになる、エミリーやラヴィニアの友人でもあったスーザン、他には以前紹介したヒギンスン、サミュエル・ボウルズ、彼女が恋していたワズワース牧師、それから最後に両思いになった恋人のオーティス・フィリップ・ロード判事などがいるかと思います(もちろん、もっと他にもいますけれども、まあとりあえず^^;)

 これは映画見てないわたしの勝手な想像ですが、エミリーと彼女の家族関係、またエミリーを詩人として目覚めさせたベンジャミン・ニュートンあたりのエピソードは出てきそうな気がします。でも物語の主軸として、恋愛的な要素として採用されてるのが、ワズワース牧師との関係なのかな~と思ったんですよね。

 そのう……そのうちこのことは暇があったらブログの前文にも書こうかなって思ったりもしてたんですけど……エミリーとワズワース牧師の関係って、ようするにエミリーの妄想的恋愛である部分が大きく、彼女はこの片想いを通してたくさんの詩を書いているという意味では、ワズワース牧師って確かにすごく重要人物なんですよ(^^;)

 長くなるので、この件についてはまた前文で取り上げたいと思うのですが、なんにしても、この映画をきっかけにエミリーの詩のことを知った、彼女の詩集を手に取ってみた……という方がいてくださったとしたら、とても嬉しいなって思いました♪

 また、映画ポスターのこれは世界にあてたわたしの手紙です。私に一度も手紙をくれたことのない世界への――はもちろんエミリーの詩のことであり、


 >>これは一度も手紙をくれたことのない
 世間のひとびとに送る私の手紙です
 優しくおごそかに
 自然が語った素朴な便りです

 わたしが見ることのできない手に
 自然の言葉を委ねます
 なつかしい国の皆さん――自然のためにも
 わたしをやさしく裁いて下さい

(『ディキンスン詩集』新倉俊一訳編/思潮社より)


 おそらくエミリーは、後世の人々になんらかの形で自分の詩が残るかもしれない……と考えていた部分もあったと思うんですよね

 そして実際に彼女の詩は、人類の文学的遺産として残りました。エミリー自身が生前そうと考えていた以上に、現在では全世界的に受け容れられるに至っているというだけでなく、彼女の詩の中に人生の慰めや喜びを得るのと同時に――宇宙的な無限の広がりをも同時に感じ、その余韻に浸る……といった彼女の詩の愛好者がどれほどたくさんいることでしょう。

 画家であれば、ゴッホなどもそうかもしれませんが、その詩や絵を描いた詩人や画家の人生とその作品とが結びついて、なおのこと一層永遠的、芸術的色彩や輝きを放つ……エミリーは生前に彼女の才能に相応しいだけの扱いは<世>から受けませんでした。

 けれど、エミリーのような女性がその純真さを保つためには、結局のところこれで良かったのかもしれない、と思ったりもするんですよね(^^;)

 わたしも最初、エミリーの伝記などを読んだ時にはそう思いませんでしたし、彼女は自分の才能に相応しいだけの身分を生きている間に受けるべきだったと思いましたけれどその後、何度も彼女の詩を読んだりする過程で、「神さまも意地悪だなあ☆」とは、少しずつ思わなくなっていったかもしれません。ゴッホに対しては今も、「神さまは意地悪だなあ☆」と思ったりしますけども、エミリーの場合はあとにしてみれば、これが彼女にとっての「最善」だったのかもしれないと思ったりもします。。。

 ではでは、次回は「第7章 恐怖のヌメア先生」といったところでしょうか(笑)

 それではまた~!!



       第6章 ロンの誕生パーティ

 ロンの十歳の誕生パーティは、マリーもランディもココもミミも、またロン本人までもがまったく想像してもみないほど、盛大なものになった。確かに、誕生日当日の何日も前から、「今日は庭を整えるのに庭師が来るからそう思っておけ」と言われたり、工事現場の車両のようなのが何台もやって来たりと、子供たちが学校へ行っている間そうしたことは行われていた。

 だがまさか、ロンの誕生日の九月二十五日に、屋敷の広い庭に突然移動遊園地が現れるとは――誰もが思ってもみなかった。言ってみればこれはミニ・ディズニーランド……いや、ミニミニ・ディズニーランドのようなもので、花や風船で飾りつけられた門の脇にはミッキーマウスやミニーがいたし、そして庭の中へ一歩足を踏み入れると、今度はそこの緑が庭師たちによってうまくドナルドダックやグーフィといったキャラクターの形にうまく刈られているのを招待客は目にすることになる。

 アコーディオンを弾きながら歩くピエロや手品をして歩くピエロもいたし、屋敷の中ではあちこちの部屋で小さなショーが行われていたり、他にオバケ屋敷やカラオケルームに温水プールなど、色々な催しものがあった。けれど、なんといっても子供たちは庭のアスレチックガーデンでターザンよろしく綱に捕まって移動したり、吊り橋を渡ったりといったことのほうを好んだかもしれない。女の子たちはメリーゴーランドやコーヒーカップに乗っては嬉しい叫び声を上げていたし、動物との触れ合いコーナーにはすぐ行列が出来、サーカス小屋も同様だった。また、庭中をダースベーダーやC-3POやヨーダなど、映画でお馴染みの人気キャラクターや、ディズニーキャラなどが歩きまわっているため、誰もが一緒に写真を撮りたがったし、みな色々なアトラクションやショーに夢中になるあまり、ロンに「お誕生日おめでとう!」と言うのも忘れ、マクフィールド家の広い庭を歩きまわっていたものである。

 そしてロン当人はといえば、クラスメイトの何人かに直接プレゼントを渡され、自分の家の中を案内したりした。ロンは「招待するのは男の子たちだけでいいよ」と言ったにも関わらず、学校の名簿を見てイーサンは女子にも必ず招待状を送るようマリーに指示していた。そこで綺麗なカードを送られた女の子たちはびっくりもし(普段ほとんど口を聞いたことがないだけに)、まるで女子一団の代表みたいにアン・ドネリーが「わたし、あんたを自分の誕生パーティに呼んでもいないのに随分親切ね!必ず行かせてもらうわ」と、つっけんどんに言ったものだった。

 そんなわけで、クラスの男の子も女の子も、都合のつかなかった数人の子以外は、みんなやって来た。そしてロンは何人かの男の子に取り囲まれながらアスレチックガーデンで楽しんだり、動物広場でうさぎを抱いたり、サーカスで空中ブランコや火の輪くぐりやびっくりするほど体の柔らかいインドの男を見たりして過ごした。とても楽しかった。こんなことをしても本当の友情は得られない……などと、暗く後ろ向きに考えていたロンだったが、そんなこともなかった。実際、一緒にいる男の子たちの言葉や態度からそのことを感じられることが、ロンは何より嬉しかった。

 一方、イーサンは五階の誰もやって来ない角部屋から双眼鏡を使って地上を眺め、すべてのことが大体のところ具合よくうまくいっているらしいと見てとっていた。何よりイーサンが心配していたのは天候のことであったが、その際には招待客たちには屋敷内のショーなどだけで我慢してもらおうとは思っていた。いわゆるプランBというやつである。

 ランディも友達を招いて楽しんでいたし、それはココも同様だった。ミミのことはマグダがリトル・プリンセスの格好をさせて、あちこち連れまわして遊んでいる最中であり――マリーはケータリングに頼んだ食事やジュースの数が足りているかどうかなどをチェックする傍ら、イーサンが鼻で笑った十九世紀の貴婦人ごっこを楽しんでいたといえる。

 といってもこれは、マリーが自分から進んでやりたいと申し出たことではない。イーサンから「金ならいくらかかってもいいから、あんたも何かひとつくらい担当しろ」と言われ、十九世紀風の服に女性に着替えてもらい(男性用の服もあったが、誰もやって来なかった)、十九世紀風の食事や裁縫や生活をする傍ら、十九世紀の文学をお互いに声に出して朗読する……ということをマリーは三部屋ほど使って行っていたわけであった。

 イーサンが「古くさい」と言って馬鹿にした企画ではあったが、マリーの部屋には何人ものその種のことが大好きな女性たちが集まり――話のほうはあっという間に盛り上がった。そしてこれはマリーもイーサンもまったく意図していないことだったが、今回のロンの誕生パーティは、近所の口さがない人々の口を封じるのに、実はかなりのところ役立っていたのである。

 ユトレイシア市中で一、二を争うほど地価の高い場所であるだけに、まわりに住む人々もまた、言ってみれば高級住宅街に住む高所得者ばかりといったところである。そのような社会の中でマクフィールド家はさんざん悪しざまに言われてきたわけだが、ロンの同級生の母親や、近くに住むランディやココの同級生の母も来ており、屋敷内にエレベーターの付いた豪邸内がどんなふうになっているのか知りたがっていた人々は中を見たことで満足し、以降は「そこそこまともなお宅のようよ」というように、その舌を毒に満たすことは控えるようになっていたようである。

 イーサンはこの日、この企画の最高責任者として実に忙しかった。何分、馬鹿なガキのひとりがアスレチックガーデンの綱から手を離して首の骨を折っただの、サーカスからライオンが逃げだしただの、動物広場の大蛇に噛まれただの――アクシデントなど、いくらでも起こりうると彼は考えていた。そして結局、そうした不幸な何がしかが起きてパーポーパーポーと救急車が呼ばれ、それと同時に人の群れが引いていった場合……「あの屋敷はやっぱり呪われているのよ」だの、「あの家の子となんてもうつきあっちゃダメ」だの、何を言われるかわかったものではないとイーサンは思っていた。

 そこでイーサンはロンが何人かの友達とアスレチックガーデンのほうへ走っていくのを見届けてからは、始終、あちこちの施設を順に歩きまわっては、何かおかしなことになってないか、悲劇の前兆が見え隠れしていないかと、心配しながら見て回っていたのである。

 この間、イーサンはアメフト好きの子にサインを求められたり、あるいは何人かの女性に執拗なほど話しかれられるのに辟易しつつ……その粘つく視線から逃れるようにして、慌てて屋敷内へと戻っていたものだった。もっとも彼の場合、多くの女性からこのような反応を示されるため、今更どうということもない。それでも、(やれやれ)と思いながら屋敷内へ戻ってきた時、十九世紀風の地味なドレスを着たマリーと遭遇し、彼はつくづく安心したものである。

(そうだ。マリーがああした女のひとりのようだったりしたら、実際俺だって困るものな。それで、別の意味ではこれがこいつのいいところでもあるんだ)

「意外にも十九世紀の時代錯誤ワールドは閑古鳥が鳴くでもなく、人気を博してるようじゃないか」

「ええ。わたしもびっくりしました。意外に十九世紀の文学や文化を愛好してる方って多いんですよ。さっきまで、ジェーン・オースティンの本をみんなで朗読したり……わたしもあなたとロンに感謝しなくちゃ」

 この時、水色のボンネットを外してマリーが屈託なく笑ったため、イーサンは一瞬ドキリとした。もちろん、これまでだって子供たちがああしたとかこうしたと話す時に、彼女が笑ったり微笑んだりしたことはある。けれど、それは本当に自分のしたいことをして充実した時間を過ごした者の心からの笑顔だった。そして彼はその場を立ち去り、今度は屋敷内を順番に何か点検でもするように見て回りはじめる。

(そうか。やっぱりあの女だって、専業主婦のような生活を送る傍ら、ああいうことが必要なんだ。俺は英文学については基礎教養程度しかないからな。となると、ルーディあたりにでもたまに話相手になってもらうとか……)

 だが、彼はマリーの写真を見て妙に興奮していた親友のことを思いだすと、その提案を即座に却下していた。そして、自分が何故そんなふうに思うのかと、深く思考を掘り下げるでもなく、リビングにある立食台からサンドイッチをひとつ失敬すると、五階の部屋まで上がってきて一息着くことにした。

 なんにしても、午後遅くなってからも天気が崩れなかったことを、普段はその存在をあまり認めていない神にすら感謝し、招待客たちが暗くなる一歩手前くらいのところでようやく帰ると――サーカス団やらホラーハウスの一団やら、あるいはミッキーマウスやダースベイダーなどの内臓役の人々らにお礼を言い、イーサンは今度は家族だけでロンの十歳の誕生日を祝うということにした。

「お兄ちゃんもおねえさんも、本当に本当にありがとう……!!」

 ロンが嬉し涙にかきくれるのを見て、当然イーサンもマリーもランディもココも、そのことを喜んだ。部屋や庭の掃除や後片付けは明日以降ということにして、その日は家族全員が和やかな気持ちで眠りに就いていた。ただし、ロンの誕生日会のあったこの夜、ちょっとしたアクシデントがないわけでもなかった。

 それはマリーが子供たちの部屋を見回り、最後に疲れて眠るミミの寝顔を見て、自分のベッドへ入ろうとした時のことだった。その時に足にごわごわした毛のようなものが触れて、足許にマリーが目を落としてみると――。

「キャアアアアーッ!!」

 昼間、ホラールームの係が使っていたような叫び声をあげると、それを聞きつけたイーサンはすぐにマリーとミミの部屋のほうへ駆けつけた。ランディとロンは五階の部屋ですでにいびきを立てており、それは同じ階にいるココも同様だった。けれど、イーサンだけは寝入りばなをくじかれたにも関わらず、パジャマ姿で走ってきたわけである。

「どうした!?」

「く、蜘蛛、クモが……たぶん、昼間、昆虫ショーか何かで使ってたのが逃げだして……」

 マリーが部屋の片隅に逃げこみ、微動だにしないのを見て、イーサンはおかしくなった。そこで、ベッドの下に落ちているタランチュラをその手のひらに拾い上げる。

「いやっ、やめてっ!!イーサン、そんなことしたらあなた死んじゃうっ!!」

「あのなあ、こりゃただのオモチャだ。昆虫ショーをやってた係の男が、欲しいと言ったガキどもにたたでくれてやってた代物だぞ。まあ、なんでこんなところに落ちていたのかはよくわからんが……」

 ――事の次第は実はこうである。ミミはタランチュラおじさんからタランチュラのおもちゃを受けとると、マリーの部屋でヌメア先生と闘わせていた。そしてその時、マグダがトイレから戻ってきたため、タランチュラを一旦ベッドの下あたりに隠したわけだった。

 イーサンはいつも真面目で四角四面なことばかりしか言わないマリーが心底脅えているのを見て……何かが愉快だった。そこで、小学生の男の子が好きな子をからかう時のように、「そら!」と彼女に向けてタランチュラを投げつけてやる。

「いやっ、キライっ。クモとかわたし、ほんとにダメなのっ!!」

 そちらを見るのも嫌だというように、マリーはタランチュラから顔と身を背けた。それから心底怖気立ったとでもいうように、自分で自分の両腕を抱く。

「馬鹿だな。ほら、こんなのただの冗談だろ?」

 人間、やはり魔が差すというのはあるもので、この時イーサンはマリーの体を自分のほうに引き寄せようとした。実際、これまで彼女を見てきた中で今が一番可愛いと思いさえした。そして「よしよし」というように、その体を抱いてやる。

「あんたも、そろそろ寝たほうがいい。なんだったら……」

 そしてイーサンがそこまで言いかけた時――「兄たん、なにしてるの?」と、眠い目をこすりながらヌメア先生を片手に、ミミがドアのところに立っていた。その一秒後、ミミはしゃっきり目を覚ますと、タランチュラに向かって一目散に駆けていく。

「だ、ダメよ、ミミちゃん。それには毒が……」

 先ほど、あれほど脅えていたに関わらず、マリーはミミの手からタランチュラを跳ね飛ばしていた。それからばっちいものにでも触れたというように、ミミの手をさすって寄こす。

「たらーんちゃら、ヌメア先生がミミのために倒すの。だからね、おねえさんも心配しないで……ねっ!」

 そんなミミのことを心底愛しいとでもいようにヌメア先生ごと抱きあげると、マリーは隣の部屋へいき、もう一度ミミのことを寝かしつけはじめた。イーサンは廊下で彼女たちの囁くような小さな声に暫く聞き入ったあと、すぐ自分の寝室のほうへ引き上げた。そして思った。

(あの女は実際、俺のことをどう思ってるんだろうな。俺がこの屋敷に帰ってくると言った時、マリーの反応はどう考えても少し否定的な感じだった。実際、気を遣って面倒だとの思いもあったろう。だがあれは、もしかしたら夜半に俺に襲われるかもしれないとかいう、そんなことを心配してる感じじゃなかった。実際はまあ、ちょっとしたきっかけさえあって、タイミングが合えば……そんなことになる可能性もあるってことだ)

 だがやはり、イーサンにはマリーの考えていることがわからなかった。少しくらいは男として自分のことを意識する部分もあるのかどうかという、そうしたことが。そしてこの時、イーサンはタランチュラと戦わされる気の毒なヌメア先生のことを思って、愉快に笑ってから眠りに落ちていったのだった。



 >>続く。





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