生きた証し
昨日の朝日新聞の「耕論」に、『人の生きた証し』と題して、3人の方の談話が載っていた。その中で、みずき書林運営者の岡田裕子さんの『未来の他者へと届ける言葉』というお話に、気持ちを動かされた。
岡田さんの夫、岡田林太郎さんは2018年に「みずき書林」という出版社を一人で創業し、2023年に胃癌で亡くなったが、その間に書いたブログを引用して、それについての現在の思いを綴った。そして、それを編集者が本にして死後に出版した。
林太郎さんは、本として出版することを、記憶や思い出とを、日記という自分だけの閉じ込めた世界から他者に投げかける行為と意味づけているという。
林太郎さんは、創業後出版した、太平洋戦争中に南マーシャル島で餓死した一人の日本兵が書いた日記が編集された本への思い入れが大きかったという。
死を目前にして書かれた無名の兵士の日記が偶然他者の目に留まって書籍化されたことから、迫りくる死を目前にして「未来の他者へ思い出を投げかける」ことの意味を、林太郎さんはあらためて感じたのではないかと、裕子さんは考えている。
(戦争というのは、「人の生きた証し」を消し去るものだ。それだけに、ここで紹介されている大川史織編『マーシャル、父の戦場―ある日本兵の日記をめぐる歴史実践』はすごい仕事だと思う。)
わたしもブログを書いている。書き始めたのは年賀状を出すのを止めたのがきっかけで、自分が存命していることの証明にしようと考えたのである。
幸いなことに、何人かの方がわたしのブログを訪れてくださる。中には、わたし自身が書いたことを忘れているような古い記事を読まれる方もいる。そんなときには、自分で読み返して、そんなことを書いていたのかと思い出すことがしばしばある。
「生きた証し」などということは考えたこともなかった。しかし、岡田裕子さんの談話を読んで、ブログというのは他者そして現在の自分に届ける「生きた証し」なのだと気づかされた。
黎 明
自宅ベランダにて撮影
STOP WAR!
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