にゃんこと黒ラブ

猫達と黒ラブラドール、チワックスとの生活、ラーメン探索、日常について語ります

明日、世界が滅びるとしても

2021-06-16 17:54:00 | 日常

 世界が混迷を極めたとき、自分を見失わずに生きるためには、どうすればいいだろうか。

 作家の開高健(1930〜89)の座右の銘を思い出した。開高は、色紙を頼まれると、「明日、世界が滅びるとしても、今日、あなたはリンゴの木を植える」と書いた。

 宗教改革のマルチンルターの名言といわれる。どうやらルター本人の発言ではない。ルーマニアの作家、コンスタンチン・ビルゲル・ゲオルギウ(1916〜92)の『第二のチャンス』の作中人物としてのルターの言葉らしい。

 オリジナルは「どんな時でも人間のなさねばならないことは、喩え世界の終末が明日であっても、自分は今日リンゴの木を植える」である。

 私たちは、未来の希望が現在の努力を支えると考える。しかし、年をとっても努力する人はいる。明日どうなるかわからないから、今日を頑張る。

 評論家の山崎正和は、この「無常観を覚えながら自暴自棄にならず、逆に今日を深く味わう生き方」を「積極的無常観」と呼んだ。どんな苦境にあっても、前向きに生きる考え方である。

 老若男女問わず、身につければ、大きなアドバンテージになるのではないか。実際に、そういう考え方をして、偉大な道を歩んだ人がいる。

 スティーブ・ジョブズ(1955〜2011)のスタンフォード大学卒業式のスピーチ(2005)が想起される。17歳のとき、「毎日を人生最後の日だと思って生きていれば、いつか必ずひとかどの人物になれる」という箴言(しんげん)と出会ってから、毎日「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日これからやろうとしていることを本当にやるか」と自問する。

 残念だが、彼の膵臓癌の経験(2003)は、その思考習慣を確信にする。彼は癌を受け入れて最後の1日まで前向きに生を全うする。彼が亡くなってから、息子がスタンフォード大学の医学部に進学し癌治療の研究に没頭する。何という繋がりある運命なのだろうか。

 命削るような無理はいらない。明日はないと思い今日できることを悔いなくやり切る。その毎日の積み重ねがリンゴの木を植えるということなのだろう。