新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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なぜWHOは非常事態宣言(PHEIC)を出さないのか

2020-01-24 11:11:47 | 新型コロナウイルス/COVID-19/SARS-CoV-2/武漢肺炎

繰り返しメディアのみなさまにいただく質問.

なぜWHOはPHEIC出さないの?
公式なPHEIC発出のプロセスはこちらに載っています(WHO)
https://www.who.int/ihr/procedures/pheic/en/

感染拡大が中国国内にとどまっているから。「面」としての感染拡大は中国内だけで、他国(日韓台泰米越・・)に「点」として輸入例があるだけ。というのが理由です。

しかしながら、この説明では納得できないから、WHOはぐずぐず小田原会議をやって・・というのが多くの人々の感覚でしょう。そんな人に対する、WHOのHPには書いていない”非公式”な背景説明。

1.かつては極めて迅速に発出したこともあった。
 2009年に(当時の)新型インフルエンザでは早々に発出されました。しかしながら、それで起こったことは・・・

2.H1N1の犠牲者が少なかったことから、経済的影響をこうむった筋から猛クレームがあった
 該当国からWHOへの報告義務なんてのはともかく、渡航情報(制限)を含む各種措置や社会不安にともない「大損こいた人」はたくさん発生します。その「大損こいた人々」と「犠牲者数が比較的少なく、軽症にとどまった事実」の組み合わせが、猛クレームという形になりました。感染おわって平時にもどって喉元すぎれば、各国メディアも、どちらかといえばWHOより「大損こいた人々」の方に味方して、疑問を呈する社説が出てきたりなんかします。そりゃあ、「最初は病態像もわからんのに、知ったことか!」と、管理人が事務局長だったら口走りそうですが(笑)、もちろん、ガラの良いWHO高官はそんな不規則発言はしません。

で、残ったのは「トラウマ」です。結果、PHEIC発出には慎重の上にも慎重になる。

3.2018年からのコンゴ民主共和国におけるエボラアウトブレイクでも、その「慎重さ」は発揮されます。
ここらへんのドロドロは当サイトでも何度か紹介しました。
https://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/fff5ba5dd2b7fdc5d8d7ce2c4267fa21
https://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/c5f21fa89dd03adf7d6172f9e66d2623
https://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/0425f7a35ee76c28fd573ef6d5ea34ea
https://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/31323312a34f1ab8eec709bf557f36c5

このプロセスを見ていた現地医療関係者のほぼ全てが、WHOの小田原会議(と彼らには映るであろうもの)にイラついていたはずです。結局、米専門家などにせっつかれ発出になりました。4回目の会議。

4.そういう背景下で迎えた2020年です。今後も、PHEIC検討会議は繰り返されるはずです。
そして、中国国外でも「面」としての拡大があったときに発出されるでしょう。それまでは、たとえ、「点」としての感染者ひとりが、TDLやUSJで歓声あげようとも、金閣寺や浅草寺を歩こうが、スカイツリーを登ろうが「まだ至らず」の発表が出続けるはずです。

 


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