ある男がいた。
世界中大騒ぎしていた湾岸戦争時、
明けても暮れても、
湾岸戦争の話題一色の世相にあって、
この男は、
全く無関心に、
自家製ラーメンの味を追求することのみに、
心を奪われていた。
世界中の人々が、
愛と平和を求めていた時に、
この男は、
ただただ、
美味いラーメンを求めた。
それ故、
彼は、
多くの人々から、
ヒマジンと呼ばれた。
2001年9月に同時多発テロが起こった。
アメリカが攻撃されたと言うショッキングなニュースは、
世界中を駆け巡り、
日本では、
夜のレギュラーニュース番組に緊急速報が入り、
空前絶後の大騒ぎとなった。
明けても暮れても、
同時多発テロの話題一色の時、
ヒマジンは、
どうやって、自家製お好み焼きのソースを美味くするかに、
心を奪われていた。
ヒマジンにとっての現実は、
不穏な世界情勢ではなく、
自家製お好み焼きやった。
こうして、
さまざまな大事件が起きても、
ヒマジンは、
無関心に、
好きなことに没頭し続けた。
そうこうしながら時は過ぎた。
が、
ヒマジンの家の四軒先が火事になる。
ヒマジンの近所は大パニックやったのに、
ヒマジンは、
自家製ホットケーキ作りに夢中になって、
自分の家さえ危ない状態なのに、
無関心にホットケーキ作りに没頭した。
ヒマジンにとっての現実は、
家が焼ける以上に、
ホットケーキが焼けることやった。
ヒマジンにとって、
国も人種も宗教も関係なく、
自分の没頭しているものだけが、
生活であり、世界であり、存在であり、愛やった。
そんなヒマジンやったが、
あの時の火事で、
自家製ホットケーキとともに、
焦げた。