ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

空白

2022年11月08日 | ネタバレなし批評篇

ことの発端は中学生花音(伊東蒼)の万引きである。吉田恵輔は是枝裕和のように花音の万引きの心理的原因に迫ったりはしない。古田新太演じる漁師の充や、充の元妻(田畑智子)、万引き犯を追っかけたスーパー店長青柳(松坂桃李)、そして道路に飛び出してきた花音を車で跳ねてしまった女とその母親(片岡礼子)など、のこされた遺族たちが身内の突然死といかに折り合いをつけていくかに着目した映画といってもよいだろう。

吉田恵輔監督の『さんかく』と『麦子さんと』を既に視聴済みなのであるが、どちらかというとコメディ基調の作品が多かったように記憶している。本作ではあえてその“笑い”を封印したらしい。娘花音の死がどうしても受け入れられず、学校担任、青柳、元妻、見習い漁師、マスゴミにあたり散らす充は、はっきりいって救いようのないハラスメント親父である。ラスト近くで充がある出来事がきっかけで改心するのだが、わざとらしいことこの上ないのである。

どこかの港町であることは確かなのだが、皆さん標準語で方言を一切話さないので場所の特定が出来ない。要するに街が描けていない映画のため、(事実ベースの作品にも関わらず)よりフィクション度がまして感情移入の妨げになっているのだ。学校ではほとんど目立たない幽霊のような存在だった花音がなぜ万引を犯したのか。そして、なぜ花音をつかまえた青柳を振り切ってまで逃げようとしたのか。そんな女子中学生の心の闇にはなぜか無関心な大人たちが自分勝手に、ハラスメントや謝罪、誹謗中傷を繰り返しているだけの後味のよろしくない作品なのである。

母親が家を出ていってしまって以来、花音は学校でも家庭でも孤立無援の状態。その母親との唯一の通信手段まで充にとり上げられてしまった少女は、精神的にはすでに自殺状態にあったのではないだろうか。そんな娘の苦悩もつゆ知らず、同じ風景を油絵で描いていたからといって亡き娘とつながれたと勘違いする充の浅はかさはいかんともしがたい。謝るとか謝らないとか、責任を取るとか取らないとか、正義を主張するとかしないとか、(死んでしまった)子供にとってはどうでもいいこと。(片岡礼子が演じた母親のように)たとえ悪いことをした時でも自分の味方になってくれる、子供が親に求めるのは多分そういうことなのである。

空白
監督 吉田恵輔(2021年)
オススメ度[]


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