兄の命日に帰省した弟・良多(阿部寛)と姉・ちなみ(YOU)の家族。開業医であった父(原田芳雄)は目をわずらい現在は隠居中、母(樹木希林)はちなみには愚痴を打ち明けるものの、持ちかけたられたちなみ一家との同居話には浮かない表情。家族の団欒風景が続く中で、兄の死を未だに引きずっている両親、その兄と比べられることをトラウマに感じていた弟・良太の姿が浮き彫りになっていく・・・。
映画冒頭の料理シーンをはじめ、“両親の老い”をイメージさせるディテール表現が実にリアル。「冷蔵庫に食べ物がいっぱい入っていると落ち着くのよね」という樹木の台詞を聞いて、わが実家の冷蔵庫がレトルト食品であふれていた理由がはじめてわかった次第である。そして、兄・順平が死んだ原因となった若い男を返した後の、我が子を亡くした親のやりばのない恨みがにじみ出ているコメントに観客はゾっとさせられることだろう。
そんなディテールについてはすきの無い演出が際立っているものの、不思議なことに幹となるべき作品のテーマがどうもハッキリしない。巣鴨置き去り事件をモチーフにした『誰も知らない』では、社会と一家族の希薄な関係性を鮮明に描いてみせた是枝監督ではあるが、母親を亡くした監督自身の経験をベースに書き上げたという私的脚本の中で何を観客に伝えたかったのかがとうとうわからなかった。『ブルー・ナイト・ヨコハマ』(いしだあゆみ)の一節を映画タイトルに流用しているらしいのだが、舞台が横浜という以外に作品内容との共通項をみつけられない。
“15年後の家族の1日”をリアルに描写して、わざとらしい再生物語としなかった点はいいとしても、ラストのシークエンスには?が残る。唐突にはじまる導入部に比して、後日談まで挿入して普通の映画のように終わらせたエンディング。ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』のような、まるで日常の一部をそのまま切り取ったような編集をぜひ本作品でも見てみたかった気がするのだ。黄色のモンシロ蝶がメタファーとした対象も不明瞭で、雰囲気はいいんだけれど印象には残りにくいそんな1本だ。
歩いても 歩いても
監督 是枝 裕和(2008年)
〔オススメ度 〕
映画冒頭の料理シーンをはじめ、“両親の老い”をイメージさせるディテール表現が実にリアル。「冷蔵庫に食べ物がいっぱい入っていると落ち着くのよね」という樹木の台詞を聞いて、わが実家の冷蔵庫がレトルト食品であふれていた理由がはじめてわかった次第である。そして、兄・順平が死んだ原因となった若い男を返した後の、我が子を亡くした親のやりばのない恨みがにじみ出ているコメントに観客はゾっとさせられることだろう。
そんなディテールについてはすきの無い演出が際立っているものの、不思議なことに幹となるべき作品のテーマがどうもハッキリしない。巣鴨置き去り事件をモチーフにした『誰も知らない』では、社会と一家族の希薄な関係性を鮮明に描いてみせた是枝監督ではあるが、母親を亡くした監督自身の経験をベースに書き上げたという私的脚本の中で何を観客に伝えたかったのかがとうとうわからなかった。『ブルー・ナイト・ヨコハマ』(いしだあゆみ)の一節を映画タイトルに流用しているらしいのだが、舞台が横浜という以外に作品内容との共通項をみつけられない。
“15年後の家族の1日”をリアルに描写して、わざとらしい再生物語としなかった点はいいとしても、ラストのシークエンスには?が残る。唐突にはじまる導入部に比して、後日談まで挿入して普通の映画のように終わらせたエンディング。ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』のような、まるで日常の一部をそのまま切り取ったような編集をぜひ本作品でも見てみたかった気がするのだ。黄色のモンシロ蝶がメタファーとした対象も不明瞭で、雰囲気はいいんだけれど印象には残りにくいそんな1本だ。
歩いても 歩いても
監督 是枝 裕和(2008年)
〔オススメ度 〕