ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ウォッチメン

2009年09月15日 | ネタバレなし批評篇
離れかけたファンを再び呼び戻したという伝説のアメコミ『ウォッチメン』を、『300』のザック・スナイダーが実写映画化。予告編を見て「政治色の強いプロパガンダ作品だろう」ぐらいに思っていたのだが、どうしてどうして限りなく現実に近いウォッチメンの世界観を忠実に再現した本作品の完成度はかなり高い。実際、ニクソンとキッシンジャーのそっくりさんが本人(もどき)役で登場するのだが、その一目で特殊メイクとわかるわざとらしさなど、リアル世界とは微妙に異なる世界観を確立するための工夫が随所に施されており、覆面ヒーロー軍団ウォッチメンの存在を違和感なく観客に受け入れさせることに成功している。

ニクソンの法案により現在は解散に追い込まれた元ウォッチメンの一人コメディアンが、壮絶な死闘の末何者かによって高層ビルの階上から突き落とされ絶命する。白黒模様がたえず変化する不思議な覆面をかぶったロールシャッハは、その事件の裏に陰謀の臭いを嗅ぎつけ、昔のウォッチメン仲間を往訪し忠告しに回る。そして、米ソ冷戦の緊張がニュースでさかんに報道される中、事件は予想外の展開を見せ始める。

この映画の魅力は何といってもその際立ったキャラクターにある。娼婦の子として生まれ物事を善悪に2分することによりかろうじてアイデンティティを保ち続けているロールシャッハ、実験中に特殊光線を浴びて核を抑止するほどの絶対的パワーを持つようになった元物理学博士Dr.マンハッタン。裕福な銀行家の息子に生まれながら懐古にひたる毎日を送っているナイトオウル。Dr.マンハッタンの妻でありながら次第に人間性を失っていく夫に失望しナイトオウルと恋仲になるジュピター・・・。

ウルトラマンや仮面ライダーなどの薄っぺらな日本のヒーローとは違って、この映画に登場するウォッチメンこと元ヒーローたちは心に暗闇を抱えたPTSD患者ばかり。ヒーロー同士で恋に落ちたり、酔ったいきおいでレイプしたり(されたり)、はたまたベトナム戦争に借り出され大量虐殺の手助けをさせられたり、幼児犯罪の容疑者を容赦なく惨殺したりと、その過去が必ずしも清廉潔白ではないことが徐々に明かされていくくだりには不思議なリアリティがあるのだ。

ジョンとヨーコが見守る愛と平和の世界を実現せんがために、このウォッチメンたちが辿りついた皮肉な結論は、「賛同はできないが理解はできる」のだ。白と黒しかないロールシャッハにはそれが理解できなかったことも痛い?ほど伝わってくる。この映画に登場するヒーローそれぞれに政治的メタファーをあてはめることはたやすいのかもしれないが、ひたすら保身に走る現実世界の政治よりも、米ソ冷戦の最中その役割を奪われた過去のヒーローたちが選択した苦渋の決断の方に、よっぽど真実味を覚えるのはなぜだろう。

ウォッチメン
監督 ザック・スナイダー(2008年)
〔オススメ度 

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