殺されるために戦う男。こんな複雑なキャラクターを演じさせるとしたら、やはりこの俳優ロバート・ミッチャム以外には考えられない。そんな心に障害を抱えている男をつい愛してしまう女を演じさせるとしたら、『我ら生涯の最良の年』のテレサ・ライトがやっぱり適任だ。ラオール・ウォルシュにしてはアクションおさえ目の地味な西部劇で巷の評価もあまり芳しくはないのだが、私個人的には人気のある『白熱』や『奴等は顔役だ!』より断然好みな1本なのである。
幼い時のあやふやな暗い記憶をいまだに引き摺っているジェブ。その時孤児となったジェブは、シングルマザーのカラム(ジュディス・アンダーソン)によって救出、カラムの実子兄アダムとその妹ソーとともに分け隔てなく育てられる。そして月日が流れ、なにかというと兄アダムといがみ合うジェブに、妹ソーはひそかな恋心を抱いていた。米西戦争に従軍し帰還してきたジェブとソーはお互い同じ想いだったことを確認し、婚約するのだが...
ソーとの婚約を打ちあけに来たジェブにカラムは「結婚して未来のために生きるのよ」と言って送り出そうとするのだが、「過去を背負って生きる」と頑なジェブ。幼少期に起きた事件がジェブの心の重しになって、前を向いて生きていくことに後ろめたさを覚えてしまうのだ。仇討ちのため執拗にジェブの命をつけ狙うカラムの義兄に唆され、ジェブを撃ち取ろうとした兄アダムとソーの新しい恋人を、正当防衛でジェブは逆に撃ち殺してしまう。
当時新人俳優だったロバート・ミッチャムは、戦争に従軍した際も、撃ち合いの時も、どこか「誰かに殺して欲しい」感が滲み出ている難役を見事にこなしている。本作におけるミッチャムの存在感は抜群で、いずれ大俳優になることを予想させる堂々の演技ぶりなのである。兄の仇を心ならずとも愛してしまうソーを演じたテレサ・ライトは、すでにオスカー主演女優賞に3度もノミネートされていて演技派の名優として知られる存在だったらしい。再会後結婚した二人の初夜のシーンが実に泣かせる。
兄の仇討ちをするよう手渡した拳銃をジェブに向けたソーだが、思わず狙いが外れてしまう。「手が震えたのは憎しみのせいじゃない」涙目で見上げるソーをきつく抱きしめ、熱いキッス♥️をかますジェブ。その時、ジェブの生命をつけ狙う一味の黒い影が....なんて切なく重苦しい西部劇なのでしょうか。しかも2人の名優の魅力をラオール・ウォルシュが最大限に引き出すことに成功しているのだ。
評価が不当に低い原因はおそらく、過去に不貞を働いた女がラストに正義を発揮するという展開が倫理規定的にまずかったことが推測できるのだが、はたしてどうだろう。
追跡
監督 ラオール・ウォルシュ(1947年)
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