TAZUKO多鶴子

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『青山二郎・全文集』…NO.2

2008-06-05 | TAZUKO多鶴子からの伝言

画かれた画に美を歌った画が一枚でもあつたでありませうか。
この画は駄目だとか月並みだとか言ふのは、
面白いか面白くないかそれだけの違ひです。
画家の手を一度離れた作品は、
如何に芸術的に高度な内容を持っていても、
それは結局自然物に近い美術品と、
同じ物品に違ひありません。
そして作者が死ねば最後にはこのセリ市に登場して、
何時かは書画骨董の土俵に立つて、
人間の根強い趣味の審判を受けなければなりません。
作者が死ねばと度々言ひますが、
作者が死ぬと相方から「積り」と謂ふものが一度は消えます。
芸術家として立派な態度、
癖のある独特な構想、
傾向的な新しい内容、
斬新な分からない意匠、
手に余る非造形的な冒険、
これらの意図をひつくるめて……
この芸術的な余りに芸術的な近代意欲が、
力強く画面に盛り上がつた「積り」が……
時と共に清算されるのを経験します。
一体芸術的といふ今日の意味自体が、
若しかすると現代美術の積もりかも知れません。
一昔前には積りが積りだけで盛り切れなくて、
岸田劉生が「あるてふことの不思議さよ」……
と画に書入れたものでありました。  

             …… 青山二郎 ……



〈参考資料〉『青山二郎・全文集』
     著者:青山二郎
     発行者:菊池明郎
     発行所:(株)筑摩書房