TAZUKO多鶴子

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昔…口ずさんでいた北原白秋の『詩』

2008-07-06 | TAZUKO多鶴子からの伝言

昔…
十代前半の頃、
とても好きで
度々口ずさんでいた詩がありました。
その中の
『落葉松』という詩を今日はご紹介します。


  < 落葉松 >
    一
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

    二
からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。

    三
からまつの林の奥も
わが通る道はありけり。
霧雨(きりさめ)のかかる道なり。

山風のかよふ道なり。

    四
からまつの林の道は
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。

    五
からまつの林を過ぎて、
ゆゑ知らず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり、
からまつとささやきにけり。

    六
からまつの林を出でて、
浅間嶺(あさまね)にけぶり立つ見つ。
浅間嶺にけぶり立つ見つ。
からまつのまたそのうへに。

    七
からまつの林の雨は
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥鳴けるのみなる。
からまつのぬるるのみなる。

    八
世の中よ、あはれなりけり。
常なけどうれしかりけり。
山川に山がはの音、
からまつにからまつのかぜ。



  …… 北原白秋 ……

  「水墨集」(大正12)