母の体調が良い日は、車椅子に座って果物のゼリーを食べさせてもらっているらしい。
果肉や繊維のあるものは駄目で、果汁のみをゼラチンで固めたものですが。
誤嚥性肺炎のため高熱が続き、食べ物を口から摂取出来なったため、経管栄養に切り替えて数ヶ月。
父は、元気になったらまた以前のように、好きなものを好きなように食べさせてやりたいと思う一方で
自宅介護はもう無理だということも頭では分かっている。
そして本当は、以前のように好きなものが好きなように食べられないことも分かっている。
だから、せめて医師が許した果物のゼリーは、色々な味を食べさせてやりたいようで
りんご、ぶどう、オレンジ、いちごのゼリーをせっせと買っている。
なのに、母は、「あまり美味しくない」と父に言っているそうだ。
そりゃそうだ。
優しい夫があれこれと話しかけながら、ゆっくりと時間をかけて食べさせるのと
赤の他人の看護師さんが、忙しい仕事の合間を縫って食べさせるのとでは
「食べる」と「ゼリー摂取」の違いがある。
しかも、せいぜい3口くらいしか食べないのだから、食べさせる方だって食べさせ甲斐がないだろう。
そんな母に、何か美味しいものをと切望する父のために
私はうっかり、母が好きな「西瓜」のゼリーを作る約束をしてしまった。
お菓子作りが好きな方なら分かってもらえるかと思いますが
西瓜って、お菓子にしにくいんですよ。
果汁をゼラチンで固めるんでしょ、なんて簡単なものではなく
西瓜は、あの瑞々しさと、食感があっての西瓜なのです。
果実も繊維も無しのゼリーなので、瑞々しさを残しながらあの食感を出すには・・・。
更に、身体が弱って体重が25Kgを切ってしまった高齢者なので、衛生的にも充分に配慮しなければなりません。
ゼリーカップなどの調理器具を煮沸消毒しながら、あーでもない、こーでもないと頭の中でレシピを作り直し
西瓜はんぶんを使って、なんとか西瓜ゼリー完成。
旦那さまとさっちゃんに試食をしてもらったところ、「あー、西瓜だ!」と、なかなかに好評だったので
翌日(今日です)張り切って西瓜ゼリーをクーラーバッグに入れて、父とさっちゃんと一緒に病院へ。
「申し訳ありません
ご家族が作った食べ物の差し入れは、衛生面等や事故等の可能性を考えて
ご遠慮いただいてます」
看護師さんが、笑顔できっぱりと言い切った。
「濾して果実や繊維ば抜いて、果汁のみを使っているんですけど」
「すみません、それでも」
丁寧ながら、決して譲らずという、確固たる姿勢の看護師さん。
現時点で持病があるわけはないけれど、経管栄養の体力の落ちた高齢者。
そして、その人を看護する看護師さん。
どちらを優先すべきかは、父にも私にも理解できる。
「事前に確認すればよかったですね
すみません」
西瓜ゼリーを作った私よりも、その何十倍もがっかりしている父を、先ずなんとかしなければ。
病室で、母は直ぐに目を開けて、さっちゃんを見て微笑んだ。
今日は、顔色も機嫌も良い日らしい。
父は、母に優しく話しかけながら、痩せ細った腕や脚を撫でている。
母が、小さな声で、何か話しかけたので
「え?なに?」
と、口元へ耳を寄せると
「ラーメン食べたい」
こんなにも父を喜ばせ、そして悲しくさせる要求は、他にない。
あれも嫌、これも嫌、もう要らない、なにも食べたくない
そうやって、あれほど父を困らせていたくせに、どうして今。
「ごめんな
お医者さんが、まだ食べちゃいけないって
元気になったら、また食べられるからな」
「したって、食べたいしょ」
お母さんたら、北海道弁。
私ったら、妙なところで感心している。
父が困っているので、私が代わる。
「もう少しだけ我慢してね
元気になったら、みんなでラーメン食べに行こうね」
「つまんない」
子供のように口を尖らせる母。
「直ぐだよ
私たちも楽しみにしてるからね」
こうして私たちは、母が食べられなかった、母のために作ったゼリーの入ったクーラーバッグを持ち帰ったのでした。
ちゃんと。
私が、ちゃんと事前に看護師さんに確認しておけば
父を無駄に悲しくさせることは無かったのに。
家族としても、介護職員としても、反省だな。
記念に、西瓜ゼリーの画像をアップしておこう。
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あまり食べられないのが分かっているから、76gと少量にしたんだけれど
そもそも、量の問題ではなかったってことだ。
果肉や繊維のあるものは駄目で、果汁のみをゼラチンで固めたものですが。
誤嚥性肺炎のため高熱が続き、食べ物を口から摂取出来なったため、経管栄養に切り替えて数ヶ月。
父は、元気になったらまた以前のように、好きなものを好きなように食べさせてやりたいと思う一方で
自宅介護はもう無理だということも頭では分かっている。
そして本当は、以前のように好きなものが好きなように食べられないことも分かっている。
だから、せめて医師が許した果物のゼリーは、色々な味を食べさせてやりたいようで
りんご、ぶどう、オレンジ、いちごのゼリーをせっせと買っている。
なのに、母は、「あまり美味しくない」と父に言っているそうだ。
そりゃそうだ。
優しい夫があれこれと話しかけながら、ゆっくりと時間をかけて食べさせるのと
赤の他人の看護師さんが、忙しい仕事の合間を縫って食べさせるのとでは
「食べる」と「ゼリー摂取」の違いがある。
しかも、せいぜい3口くらいしか食べないのだから、食べさせる方だって食べさせ甲斐がないだろう。
そんな母に、何か美味しいものをと切望する父のために
私はうっかり、母が好きな「西瓜」のゼリーを作る約束をしてしまった。
お菓子作りが好きな方なら分かってもらえるかと思いますが
西瓜って、お菓子にしにくいんですよ。
果汁をゼラチンで固めるんでしょ、なんて簡単なものではなく
西瓜は、あの瑞々しさと、食感があっての西瓜なのです。
果実も繊維も無しのゼリーなので、瑞々しさを残しながらあの食感を出すには・・・。
更に、身体が弱って体重が25Kgを切ってしまった高齢者なので、衛生的にも充分に配慮しなければなりません。
ゼリーカップなどの調理器具を煮沸消毒しながら、あーでもない、こーでもないと頭の中でレシピを作り直し
西瓜はんぶんを使って、なんとか西瓜ゼリー完成。
旦那さまとさっちゃんに試食をしてもらったところ、「あー、西瓜だ!」と、なかなかに好評だったので
翌日(今日です)張り切って西瓜ゼリーをクーラーバッグに入れて、父とさっちゃんと一緒に病院へ。
「申し訳ありません
ご家族が作った食べ物の差し入れは、衛生面等や事故等の可能性を考えて
ご遠慮いただいてます」
看護師さんが、笑顔できっぱりと言い切った。
「濾して果実や繊維ば抜いて、果汁のみを使っているんですけど」
「すみません、それでも」
丁寧ながら、決して譲らずという、確固たる姿勢の看護師さん。
現時点で持病があるわけはないけれど、経管栄養の体力の落ちた高齢者。
そして、その人を看護する看護師さん。
どちらを優先すべきかは、父にも私にも理解できる。
「事前に確認すればよかったですね
すみません」
西瓜ゼリーを作った私よりも、その何十倍もがっかりしている父を、先ずなんとかしなければ。
病室で、母は直ぐに目を開けて、さっちゃんを見て微笑んだ。
今日は、顔色も機嫌も良い日らしい。
父は、母に優しく話しかけながら、痩せ細った腕や脚を撫でている。
母が、小さな声で、何か話しかけたので
「え?なに?」
と、口元へ耳を寄せると
「ラーメン食べたい」
こんなにも父を喜ばせ、そして悲しくさせる要求は、他にない。
あれも嫌、これも嫌、もう要らない、なにも食べたくない
そうやって、あれほど父を困らせていたくせに、どうして今。
「ごめんな
お医者さんが、まだ食べちゃいけないって
元気になったら、また食べられるからな」
「したって、食べたいしょ」
お母さんたら、北海道弁。
私ったら、妙なところで感心している。
父が困っているので、私が代わる。
「もう少しだけ我慢してね
元気になったら、みんなでラーメン食べに行こうね」
「つまんない」
子供のように口を尖らせる母。
「直ぐだよ
私たちも楽しみにしてるからね」
こうして私たちは、母が食べられなかった、母のために作ったゼリーの入ったクーラーバッグを持ち帰ったのでした。
ちゃんと。
私が、ちゃんと事前に看護師さんに確認しておけば
父を無駄に悲しくさせることは無かったのに。
家族としても、介護職員としても、反省だな。
記念に、西瓜ゼリーの画像をアップしておこう。
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あまり食べられないのが分かっているから、76gと少量にしたんだけれど
そもそも、量の問題ではなかったってことだ。