先日、年が明けて初めて父のところへ行ってきました。
年仕事で道外に出掛けていた兄が、年末年始は冬期休暇で実家に帰ってきていたので
「密」を避けるために、実家に行けなかったのです。
私ひとりで会いに行くことも可能でしたが
私の勤め先から、普段会わない人との接触を避けるようにとのお達しもあったので
父が気掛かりながらも、今回は「忍」の一字で我慢。
兄が既に再び道外へ出掛けた後だったので、久し振りに会う父は、のんびりとした雰囲気。
そうだよね、普段家にいない人が家にいると
たとえ家族でも気を使うのに、短気で我儘で自分勝手な兄なら尚更だよね。
ごめんね、手伝えなくて。
父は、毎年薄くなっていく年賀状ほ束を手にして
この人はこんな人だった、この人は研修の時一緒だったと
「毎年恒例の」思い出話をし始めた。
その途中で、父はふと手を止めて
「実はこの間、オレが中学生の時はじめて手紙を出した女の子から
急に電話がきたんだ」
「へぇ」
予想していなかった突然の打ち明け話に、私は少し驚きましたが
その驚きは、表には出さない。なんとなく。
「母さんが亡くなったことを最近知ったみたいで、連絡してきたんだって」
「ふうん」
「母さんをクラス会に連れて行ったこともあったから、母さんと話したこともあるんだ」
そう言いながら、父は机の引き出しをがさごそし始めた。
「ああ、これだ」
父が出してきたのは、数枚の写真だった。
宴会をしている場面と集合写真。
「どの人?」
「この人」
父が指したのは、ふくよかで、母とは雰囲気の違う女性だった。
「母さんが」
「うん?」
「電話で話したこともあるみたいで」
「電話?どっちがかけたの?」
「分からないけど」
どういう経緯で2人が電話で話をしたのかは分からないらしい。
母が彼女と親しくしていた記憶は、私にはない。
私は彼女の存在を初めて知ったくらいだから。
「『うちの人はどんな子だったんですか?』って聞かれたって言ってたよ」
戦後間もない時期に、坊主頭の中学生が女子に手紙を渡す。
マメというか、積極的というか。
父の意外な一面。
写真の父は、とても若い。
「これ、いくつの時の写真?」
目をすぼめるようにして写真の日付を確認した父は
「50代半ばだね」
と、答えた。
50代半ば?
今の私くらい?
私は、もう一度写真を見た。
私と同い年くらいの父。
と、父がかつて好きだった人。
そして、母。
母にとって、父がどんな男の子だったのかは
実は、そんなに重要ではなかったのではないだろうか。
おそらく、母は。
彼女が父をどんな風に見ていたのかを知りたかったのではないだろうか。
私には、どうもそんな風に思えて。
そして、何だか、微笑ましいような、もどかしいような。
表現しにくい、不思議な気持ちになったのでした。