よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

非正規雇用の問題、世間の無理解・政府の無策 

2024年07月25日 | 日本経済を読む

 金融・財政政策というが、金融政策(日本銀行)と財政政策(政府)がバラバラなことをしてきたのがこの30年間である。日銀はマイナス金利と国債の大量買いで資金を供給してきたのに、景気停滞期の唯一の借り手である政府は財政再建に突き進み、その資金を活用しようとはしなかった。

 そうこうしているうちに、コロナ禍での財政出動の不十分さから海外に比べて回復が遅れ、金利を上げられずに想定外の円安を招いた。円安に対抗する唯一の手段は金利を上げることではなく、金利が上がる環境を作ることである。すなわち政府の単年度収支の赤字幅が増えようとも、企業・家計部門で資金余剰が発生している限り、それを吸収する財政出動を行い続けることである。

 しかしこれは財政再建を金科玉条とし、いかなる時でも財政出動を悪と見なす世間が存在する限り難しいだろうし、物価高の時の財政出動はさらに物価を上昇させるとして世間の強固な反対に出会うだろう。財政出動が物価を押し上げるのは民間と競合する分野に行う時である。その意味ですでに供給能力の限界にある建設業界にさらに投資を行う万博関連工事は建設単価の上昇という負の経済効果を一国経済にもたらすだろう。

 解決策は、民間の営利事業では行えないことに資金を投入すればいい、だけである。コロナ禍の時も現在もそういう投資先はいくらでもあるだろう。

 もちろん長期的には供給能力の源泉は人間の労働力なので、どのような分野に資金を投入しようと賃金の上昇を もたらすが、それはそれでいいことではないだろうか。

非正規労働者から考えてみる

 非正規労働者の労働法的な定義は「期限に定めのある雇用契約を結んでいる」ということだ。有期雇用=非正規労働者である。

 法律は「有期雇用契約は原則三年を超えてはならない」としており、契約を繰り返して五年経つと労働者が雇用主に無期契約へ転換するよう請求する権利が生まれる。

なぜ法がこんなことを決めるのか?

 労働法の改訂は労働政策審議会という公労使の三者協議で決まる。政争の外に置くという趣旨であり、実務の知見を生かそうという趣旨でもある。労働政策審議会で決まったことに国会が異を唱えることはない。(たまに異を唱える議員はいるが)

 非正規労働者に任せる業務は習熟三年以内のものとし、それ以上を求めるなら無期雇用で、というのは実務上も違和感はない。ちゃんと実務上の知見が反映されているのだ。

 よく法律が改悪されて雇用の非正規化が広がったという議論がある。促進された面はあるとは思うが、労働法のような社会法は、法律を変えたからと言って現実が変わるものではない。

 問題は労働需給の状況だから、有効需要の水準を上げない限り雇用の質は上がらないのである。

昨今の「人手不足」から考えてみる

 下図からコロナ禍で非正規労働者の数が相当減り、その後も戻ってきていないことが分かる。特に女性においてその傾向が強い。



 人手不足が叫ばれているが、このように景気が急変したときに何時でも解雇できる安価な労働者が不足しているというなら、その人手不足は当然のことである。

 非正規労働者にたよる経済と言うのは弱い。企業単体で考えても習熟3年未満の労働者(非正規労働者の「定義」)を多数抱えていては企業業績が上がらない。こんなことは古事記にも書いてあるではないか。

もう一つ注目すべき動向 女性の非正規雇用率



 25-34歳、35-44歳の女性で非正規雇用率が下がり続けている。近年女性の勤続年数が伸びていることが指摘されており整合的だ。女性の正規化が「会社を辞めないこと」で進んでいるのではないか。またこれは女性の(当然男性も)非婚化が進んでいることとも整合的である。

なぜ「整合的」なのか?

 結婚したらいったん家庭に入り、しばらくして家計補助的なパート勤務に出るという専業主婦的キャリアコースは過去のものになりつつある。いや過去のものになったと言った方がいいだろう。

 しかし、働きながら家庭を維持する苦労(家事、育児等)は変わっていない。家庭に入るより自活する道を選びつつある、または選ばざるを得ないということなのではないか。これは価値判断を抜きにした、どちらがいいかということを抜きにした現実であり、その現実に社会が追いついていないということなのだ。

現実に社会あるいは世間が追いつくというのはどういうことか?

「変わる『家族』」(1) 落合恵美子・京都産業大学教授、京都大学名誉教授 2024.7.8

落合恵美子 21世紀家族へ -- 家族の戦後体制の見かた・超えかた 第4版

【第1回】社会学 落合恵美子先生「Caring Society ―新型コロナが露呈させたジェンダー問題とケアの危機を超えて」#立ち止まって考える

 法制審議会は、 5年余の審議の末、1996年 2月、選択的夫婦別姓制導入と非嫡出子の相続分差別を撤廃すること等を内容とする民法の一部を改正する法律案要綱を答申したが、選択的夫婦別姓制はいまだに導入されていない。

 この答申から始まる反動をジェンダー・バックラッシュと呼ぶ。女性差別反対闘争への反動である。選択的夫婦別姓制度に限っても、すでに28年間も無駄にしたのだ。

  正しい経済政策とは、民主主義に立脚したものであり、新自由主義政策はジェンダーバックラッシュなしには実現できなかった。この項では飛躍に聞こえるかもしれないが・・・

 なかなか、どこに行こうとしているのか、自分でも分からなくなってきた?か・・・家族のあり方、女性の働き方、人材の活用の仕方すべてが急激に変わりつつあるのだが、世間の無理解・政府の無策は一向に変わろうとはしていない。

続くよ~
 

 


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