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下は前回示した2012年からの正社員新規求人件数の推移である
このグラフに補助線を引くと見えてくるものがある。
- 上昇局面:東日本大震災からの回復過程である。途中2014年に停滞しているのは消費税が5%から8%に増税されたためだ。しかしその後上昇トレンドをを取り戻している。消費税10%後の世界を考えると日本経済にとって8%が上限だったのかもしれない。
- 停滞局面:2018年は世界同時株安、2019年には世界経済全体が減速している。その影響で停滞している。日本経済は外部の攪乱を受けやすく、その上に機動的な金融財政政策を打たないので外因によって停滞しがちであり、これは「貿易立国」論の負の側面である。GDPは見ても雇用統計をみない政策担当者の失敗でもある。
- 後退局面:2018年、2019年と成長が停滞しているときに消費増税が強行された。
- さらなる後退局面:これは後知恵だが、増税直後にコロナ禍が襲う。この時の政府の対応も極めて不十分だったのは前々回見た通り。
- 上昇局面:コロナ禍からの回復過程ではあるがコロナ前の水準には達していない。コロナ下では、消費したくてもできないということもあり、その反動は出たが、消費の源泉である所得に大きな影響もあった。
- 停滞局面:その結果コロナ禍からの回復過程でアメリカとの不均衡が起こり(前々回参照)コロナ禍に連続して円安による物価高が生じることとなった。
前々回 今の円安とは結局何なのか?
このように日本にも景気の局面をビビッドに映す雇用統計はあるのだが、そもそも政策担当者が雇用の維持拡大を目指していないせいか、関心がもたれない。
アメリカの雇用統計は景気の指標として活用され政策も金利も動かすのになぜ日本では活用されないのか?
やはり日本が、日本の文化的土壌が、アメリカよりも自己責任を求める新自由主義的なものを基底に持っているからではないか。それは同時に経済学の理論的敗北でもある。
「ぜいたく言わなきゃ仕事はいくらでもある」という世俗の知恵は新自由主義と親和性が高い。官民挙げて、「政府が投資を行い、仕事をつくる、という先進国にとって最もふさわしい経済政策」に対する嫌悪感がある。その嫌悪感を助長するような経済学ばかりがもてはやされているが、それは経済学の敗北に他ならない。
指標としての正社員求人件数42万人
2022年3月までは円安が始まっておらず、正社員新規求人件数と消費者物価上昇率(前年同月比)はかなり強い正の相関関係があった。その後消費者物価は為替変動によって大きく動く。(*1)一方正社員新規求人件数は41万人に届くかどうかというところを行き来している(下図実線縦棒)。
為替変動による景気の停滞のためである。2022年3月までのトレンドを基調だとすれば、円安による攪乱を除くと、あと二万人、あと二万人増えて42万人に届けば、安定的な物価上昇率2%に到達する。その時に初めて金融緩和からの出口が見え金利も上昇してくるだろう。円安も自動的に「是正」されるのだ。
金融財政政策が直接的(*2)には企業の利益のためではなく 国民生活のためならば、まず第一に考えるべきは雇用の質と量である。掲げるべき最重要の政策は正社員を増やすことであり、その入り口である正社員の新規求人件数を増やすことである。「正社員を増やす」という目的の下に他の政策(*3)も考えるべきなのだ。
*1 直近の物価・雇用・為替
2022年12月以降は、雇用と物価は正の相関、為替と物価は負の相関となっている。円安が進んでも物価がそれに伴って上がるどころか下げる傾向も見せている。これは物価高によって消費者の商品選択が「下位互換」になっているからだろう。今までより価格の安い同種の商品に移っているのだ。
*2 企業は社会負担の増大を嫌う。税や社会負担の増大を避けて利益を確保しようとするのは直接的経済政策。一方負担の増大によって生活が向上すれば売り上げ増、損益分岐点の上昇となって利益として帰ってくる結果となる。これは間接的。
*3 いったん正社員を増やすことを目標に掲げれば、少子化・男女共同参画の課題についても気合の入った政策が展開できるだろう。要は正社員の伸びしろの多くは女性と現在非正規で働いている人しかいない。
現状は「正社員を増やすかどうかは企業次第」なのでその他の政策も企業次第ということになっている。