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「岸田文雄首相は28日、浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相に対し、防衛費など関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%にするよう指示した」そうである。違和感しかないが、きちんとした解説は見当たらない。サンケイは「首相「必要論」に軍配 「財源ありき」の削減論否定 防衛費GDP比2%指示」となんとなく、はしゃいでいるような印象だ。あまり注目されていないのが「事実」と「視点」だ。
一体、予算を付けるときに先に額が決まっているというようなことがあり得るのだろうか。軍事なら「これだけの戦力を整備するために積み上げたらこの額が必要です」というやり方で決めるものではないか。かつて対米7割の艦隊戦力を海軍が要求したように、八・八艦隊の建造を要求したように・・・
かつてのGDP1%枠と言うのは日本の軍事力が際限なく膨張することを防ぎ他国の警戒感を緩和するための方策であった。それでもGDPの成長とともに増額していったのだが、ここ30年はGDPの成長停滞とともに頭打ちになっているように見える。が、しかし防衛費GDP比2%と言うときの防衛費の範囲が分からない。これはよく言われている海上保安庁を入れるかどうかよりも根本的な問題として範囲が分からないのである。
ツケ払いを合わせると、すでにGDP比1.51%
では23年度の軍事費の予算請求はどうなっているのだろうか。
人件・糧食費 2兆2290億円
物件費・歳出化経費 2兆2547億円
物件費・一般物件費 1兆1110億円
計 5兆5947億円
新規後年度負担 2兆9351億円
総計 8兆5298億円
ここで分からないのが「物件費・歳出化経費」と「物件費・新規後年度負担」である。以下は、それぞれ防衛白書からの引用である。
後年度負担:防衛力整備においては、艦船・航空機などの主要な装備品の調達や格納庫・隊舎などの建設のように、契約から納入、完成までに複数年度を要するものが多い。これらについては、当該年度に複数年度に及ぶ契約を行い、契約時にあらかじめ次年度以降(原則5年以内)の支払いを約束するという手法をとっている。このような複数年度に及ぶ契約に基づき、契約の翌年度以降に支払う金額を後年度負担額(という)
歳出化経費:物件費は、過去の年度の契約に基づき支払われる「歳出化経費」と、その年度の契約に基づき支払われる「一般物件費」とに分けられる。
早い話が、物件費・歳出化経費とは過去のツケを払っているということで、物件費・新規後年度負担とは、新たなツケのことである。新たなツケは来年度に回される。
財政は単年度主義だということはご存じだと思うが、軍事費はツケで兵器を買うことが認められ、そのツケ払いを歳出化経費と呼ぶということだ。上記の表では過去のツケ払いを含めて総額5兆5947億円だが、新たにツケで買おうとしている兵器が2兆9351億円あり、合わせると8兆5298億円が軍事費の総額だということになる。2023年度のGDPを564.7兆円とすると、予算上防衛費と呼ばれている分はその0.99%にあたり、新規後年度負担を合わせた8兆5298億円はその1.51%にあたる。しかも新規後年度負担は下図のように年々増額しており、見た目の防衛費予算の半分に近い「隠れ予算」があるということになる。このような使い方をしているとツケ払いが「収入」を超えて破綻することになる。
ではGDP比2%というのは+1.01ポイントなのか+0.49ポイントなのか?それが分からないのだ。
さらに最新の報道では
「岸田首相 防衛費 5年間で“総額約43兆円確保”で調整へ」
となっている。年平均8兆6000億円。今でも後年度負担を合わせると8兆5298億円×5年=42兆6490億円となり、ますます分からない。これでは増額ではなく現状維持ではないか???
これが新規後年度負担を入れない額なら実質は8.6兆円×1.6=13兆7600億円という「途方もない」金額となる。1.6は予算ベースの掛け率。
さらに・・・さらに・・・事項要求という謎がある。
事項要求とは・・・
今回の軍事予算の組み立ての特徴は「『防衛力を5年以内に抜本的に強化する』ために必要な取組みを要求」として額を示さず事項のみを示したことにある。どんな事項が含まれているのか?詳しいことは文末のリンク先を参照していただきたいが、一言で言えばミリオタの中学生が授業中にノートの端に書いた落書きのようなことだ。どんな楯も貫く矛と、どんな矛にも貫かれない盾が欲しい、と言うようなことである。
10/28の読売電子版には以下のような記事が載っていた。「日本政府が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診していることがわかった。米側は売却に前向きな姿勢を示し、交渉は最終局面に入っている。日本政府は、保有を目指す「反撃能力」の手段として、国産ミサイルの改良計画を進めているが、早期に配備できるトマホークが抑止力強化に不可欠だと判断した。」
それに対してFACEBOOKでは、以下のようにコメントした。
「1250Km先の目標に500㎏弱の爆弾を届けるのに一発2億円相当の使い捨て兵器を購入するというのは馬鹿げているのではないか?V2ロケットが何の役に立ったのか???戦術核を搭載する前提で開発されてた兵器であって、そのために発見されにくい地形追従の飛行をする。湾岸戦争では在庫整理をしたに過ぎない。むろん隣国には核兵器の運搬手段と映り、何らかの対抗手段を取ってくるだろう。鎮静化させたいのか激化させたいのか?激化させたいのだろう。」
トマホークは何の役にも立たないと断言するが、その理由は弾頭が500㎏弱しかないからである。核弾頭を積んでこそ意味のある、そのコストに見合う結果を出せる兵器なのだ。だから周辺国のみならずアメリカも含めた世界中が核武装への布石だと考える。私もそう考える。それは核兵器の開発よりもその移動手段の開発の方が難しいからだ。
必要なのは戦略:それも平和への戦略
将来戦様相と言う概念がある。将来の戦争はどのような形態をとるかを予想しそれに備えて軍事力を整備しようというものだ。しかし、この将来戦様相は誰がどのように予想してみても戦争がエスカレートしていけばミサイルの雨が国土・国民に降り注ぎ、そのミサイルには核兵器が搭載されている可能性が極めて高いという結果となる。軍備拡張の未来とはそういう未来でしかない。抑止力とは「やれるものならやってみろ」という論理でしかなく、国土が十分広く、政治が専制的で国民の犠牲を恐れる必要のない国には通じない。
今、政権が国民の曖昧な不安に乗っかってやろうとしていることは匹夫の勇 (「匹夫」は道理に暗い男。 血気にはやるばかりの、つまらぬ勇気をいう)としか思えない。そもそも現政権の軍備拡張には戦略が見えないが、今考えるべきことは緊張の緩和、平和への戦略である。
続く
参考:
安全保障が明らかにした日本の財政の課題 東京財団政策研究所
September 27, 2022
高額兵器購入 借金膨らむ 「後年度負担」 過去最大5兆8642億円 しんぶん赤旗
令和5年度概算要求の概要