よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

金融緩和の出口論 その3 出口は微妙に遠のく?

2023年08月02日 | 日本経済を読む
 7月中にブログ更新を終わらせ8月はお休みするつもりだったが、職業安定業務統計の公表が8月1日となったため8月にずれ込んだ。異例のことである。中央官庁の働き方改革の結果なら結構な事だが・・・

 今回は長期にわたる正社員の有効求人倍率を取り上げる


 
 ご覧のとおりリーマン危機からの回復過程で改善してきた雇用環境はコロナで悪化し、現在もコロナ前の水準に戻っていない。

 昨今、物価の上昇を日銀の異次元金融緩和による円安のせいにする日銀主犯論が勢いを増し、日銀総裁が記者会見を開くことにもなったが、上記グラフで分かるようにこの段階での金融引き締めなど「とんでもないこと」であり日銀もスタンスを変えていない。

 日米金利差で円安に振れているのはその通りだが、日銀主犯論には「なぜ日米に金利差ができたのか」についての検討がない。金融引き締め⇒円高⇒輸入物価の価格低下という図式があるだけだ。角を矯めて牛を殺すのも同然である。

 なぜ、金融引き締めに転じられないのか?有効求人倍率が1を超えるかどうかという水準にあるからだ。

 7月31日、経済・物価情勢の展望(7月、日本銀行)が発表されたが、4月時点での物価見通しを下方修正している。

<概要>
  • 日本経済の先行きを展望すると、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続けるとみられる。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まるもとで、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。
  • 物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、既往の輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとでプラス幅を縮小したあと、マクロ的な需給ギャップが改善し、企業の賃金・価格設定行動などの変化を伴う形で中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、再びプラス幅を緩やかに拡大していくとみられる。
  • 前回の見通しと比べると、成長率については概ね不変である。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比については、既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁が想定を上回って進んでいることなどから、2023 年度は大幅に上振れているが、2024 年度と2025 年度は概ね不変である。
  • リスク要因をみると、海外の経済・物価動向、資源価格の動向、企業の賃金・価格設定行動など、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い。そのもとで、金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある。
  • リスクバランスをみると、経済の見通しについては、2023 年度は下振れリスクの方が大きいが、その後は概ね上下にバランスしている。物価の見通しについては、2023 年度と2024 年度は上振れリスクの方が大きい。

 読んでいてモヤモヤする人もいるかもしれないが、要するに今ではないということである。中身を読み込むと2024年度も2025年度も、このまま行ったら、物価は2%に達しない、ただし上振れすることはあるが・・・という分析になっている。モヤる原因は、財政に言及しないからだ。それが中央銀行の節度というものだと考えているのだろう。

 日銀の「経済・物価情勢の展望 」は需給ギャップと貯蓄投資バランスから分析しており、まともなものだ。筆者も同意見である。日銀による貯蓄投資バランス分析を紹介してこの項を閉じる。


 
 貯蓄超過が続いている限り金融緩和の出口はない。一般政府が貯蓄超過を吸収しない限り出口はないのである。

 日本の長期停滞の原因は、最初は民間企業の、続いて政府の債務償還にある。債務償還は貯蓄超過を招き需給ギャップを拡大する。コロナで拡大した政府の投資も5類指定後「あわてて」緊縮に戻している。*
 
 問題は角を矯めて牛を殺し続けたことにある。さらに言えば財政運営に労働経済指標を用いないことに問題がある。これには政府に限らずエコノミストと呼ばれる人々、労組を含めた経済団体、与野党を問わず政党にまで責任がある。

 なぜ、労働を取り巻く環境を良くすることが政策の目標にならないのか。

昨年度予算の「繰越金」17兆9528億円 過去3番目の規模
2023年7月31日 NHK
昨年度予算の「繰越金」17兆9528億円 過去3番目の規模 2023年7月31日
この数年、新型コロナや物価高騰対策で大型の補正予算を相次いで編成したことで「繰越金」の規模も膨らんでいて、令和2年度が過去最大の30兆7804億円、令和3年度が22兆4272億円となり、昨年度の「繰越金」は過去3番目の規模です。


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