よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

64:第20章 雇用関数:有効需要=完全雇用ではない の復習

2021年02月07日 | 一般理論を読む
産出量の弾力性を検討する

 心が折れること必定の章である。ケインズすら
「代数を好まない(それが当たり前)人は本章の第一節を読み飛ばしても失うところはほとんどないであろう。」などと嫌味なことを言っている。裏では「僕は得意なんだけど…」と言っている。

 ご安心ください。ケインズの代数部分、数式の展開を、経済学説史上もっとも簡明に文章にしておきました。

 ただ、簡明な分、失われることもあるので、原文を当たられたい。特に学生諸氏は原文の数式をノートに書き写して理解に努めるように。65歳でもやったんだから。

 雇用関数がもついくつかの特性についての論述である。
 雇用関数は、総供給関数の逆関数と定義される。

雇用関数の目的はある与えられた企業産業あるいは産業全体に向けられた賃金単位表示の有効需要額を雇用量――その生産物の供給価格が与えられた有効需要額と等しくなるような雇用量――に関係づけることである。要するに、ある企業あるいは産業に向けられた賃金単位で測られた有効需要額Dwrがその企業あるいは産業で雇用量Nrを生むとしたら、雇用関数はNr=Fr(Dwr)で与えられる。あるいはもっと一般的には、Dwrが総有効需要Dwの一意の関数と仮定することが許されるなら、雇用関数はNr=Fr(Dw)で与えられる。すなわち、有効需要がDwのときには、産業rでN人の人が雇用されることになる。

 ある産業において、技術水準等が不変なら
 名目有効需要量は名目賃金総額の関数で表しうる。ということを言っている。自明であろう。
 逆に
 雇用量(名目賃金総額)も有効需要の関数で表しうることも自明である。
 これを雇用関数とすると雇用関数の性質はいかなるものだろうか?
 ここで産出量の弾力性という概念が登場する。産出量、有効需要量、雇用量は一意の関係を持つとしているから、産出量の弾力性は雇用の弾力性のことである。

 産出量あるいは生産の弾力性は任意の産業において、賃金単位表示の有効需要がさらにいっそうその産業に向けられたとき、産出量がどれくらいの率で増えるかを表したものである。

 すなわち、

産出量の弾力性=⊿産出量÷⊿有効需要
  • 有効需要も産出量も賃金単位表示であり同じ単位を持つので割り算が成り立つ。
  •  この式は以下のことを表している。
有効需要が1単位増えたときに産出量が何単位増えるか、これが産出量の弾力性である。

 個別産業において、技術や資本装備が不変のときに価格が限界主要費用に等しくなっているとすると(これは利潤極大化条件*)有効需要の増加分が利潤にどう反映されるかは、産出量の弾力性にかかっている。弾力性がゼロなら価格は騰貴する(産出量は増大しないのだから)一方要素費用は増大しないので有効需要の増加分は全部利潤となる。一方、弾力性が有効需要の増大と1対1なら、利潤が極大しているという前提により価格が限界主要費用に等しくなっているのだから、増加した有効需要はすべて要素費用に吸収される。
  • 利潤極大化条件:この時点での利潤はゼロとなっているが期間の累積では最大化しているという理論上の点まで投資は進むと考える。

 個別企業でさらに解説を加えてみよう。企業の売上が、有効需要の原理で見た需要曲線と供給曲線の交点にあるとする。しかも経済全体で見た場合も均衡点に達しているとする。個別企業に対する需要がさらに増えた場合にかつ企業の生産弾力性がゼロなら価格は騰貴するが、生産量は変わらないから供給価格は変わらない。需要価格は騰貴しているから価格の増加分に応じて(生産量は変わらないのに)利潤は増える。
 ところが、個別企業にとって需要曲線と供給曲線の交点にあるにもかかわらず、まだ生産余力があり需要の増大に合わせて生産を増やせば、要素価格の高騰を招き(経済全体でも均衡点にあるのだから)利潤は要素費用に吸収されてしまう。もちろん個別企業の場合は設備投資を考えるだろうが、経済全体が均衡点に達しているうえに、技術や資本装備が不変のときという前提では設備投資もなかなか簡単にはできないだろう。

よって

弾力性=0なら⊿有効需要=⊿期待利潤
弾力性=1なら⊿有効需要=⊿要素費用=⊿売上―⊿要素費用=0=⊿期待利潤はゼロ

になる、という話である。1>弾力性>0としている。

ゆえに式を用いて表すと

⊿有効需要×(1―弾力性)=⊿期待利潤

ケインズの式:⊿有効需要=⊿期待利潤/(1-弾力性)

となる。

 実に簡明である。

 現実に即して考えてみよう。
 価格が限界主要費用に等しくなっているときに弾力性が有効需要の増大と1対1になるだろうか。
 利潤極大化条件=価格が限界主要費用に等しくなっているときは産出量の弾力性はゼロに近づくのではないか。
 それでも増産しようとすれば利益は出ないだろう。

 ⊿要素費用とは経済全体で見た場合⊿賃金総額である。
 雇用が完全雇用水準に達する前に、賃金は上昇を始める。
 古典派の第一公準≪賃金は労働の限界生産物に等しい≫に対して雇用弾力性≒産出量の弾力性を対置している。
 すなわち、この式は有効需要の達成≠完全雇用の達成であることを表しているのだが、ここを理解するのは非常に難しい。

 

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