自由放任経済は、肝心の自由を守らない
扉の解説を加えたい。
絵はヴェルサイユ条約調印の様子である。背中を向けてうつむいているのがドイツ代表。ケインズが、この条約が課すドイツにとって過酷すぎる賠償金に反対したことは知られている。
平和の経済的帰結
そしてナチスの台頭がこの過酷な賠償金と大恐慌なしには考えられないことも知られている。ケインズは講和条約に反対し、大恐慌の処方箋を書いた。文字通り偉大な経済学者である。
ケインズが一般理論を書いた背景、経済学者としての当時の役割を超え積極的に発言していった背景には、自由への危機感がある。それはナチスやソ連の台頭を前にしての焦燥感である。自由放任では、肝心の自由が守れない、という理論的確信があるのだ。
今また世界経済と統治機構の破綻が明らかになりつつある。世界秩序の崩壊も迫りつつあるかもしれないときに、ケインズ後の経済学者は、みな自由放任の旗の擁護者へ転落してしまった。今や新「自由」主義が少数者の専制に過ぎないことも誰の眼にも明らかである。
そこで
ケインズの一般理論を読んでいこう、というわけである。私はこの2年ほど一般理論を読む作業に明け暮れた。飽きっぽい私が2年も続いたのは興奮しっぱなしだったからである。ぜひ皆さんにも、私が味わった興奮を味わっていただきたくブログを開設することにした。
世上よく「難解である」とされるケインズの一般理論だが、難解である唯一の理由は一般理論が「我々の常識」に挑戦しているからである。永く生きた人ほど、培ってきた常識を捨てるのは困難である。これがこの本を分かりにくくしている。
ケインズも最終章で書いている。
というのは経済学や政治哲学の分野では25歳から30歳を過ぎた後では新しい理論を受け入れるのは難しいからである。
底本は 邦訳:雇用、利子および貨幣の一般理論 上・下巻 ケインズ著 間宮陽介訳 岩波文庫 2012年4月5日 第7刷発行を使い、一部ネット上の原文を参照した。
全章を読んでいくにはやはり2年くらいかかると思うが、志のある人はお付き合いを願いたい。