「噯」という漢字がある。ご存じの方は別にして、読み仮名がなければ、口へんに愛と書く字に「告白」や「ささやき」のようなものを思い浮かべてもおかしくなさそうだ。少々違う。「おくび」と読んで、意味は「げっぷ」である▼辞書によると、「愛」は心が切なく詰まり、足も進まないさまを表した字らしい。おなかに詰まった気体の放出につながりはなくもない。英国で開催されている国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP26)では、牛のおくびが話題になったようだ▼牛のげっぷにも含まれる温室効果ガス、メタンの削減を目指す国際的枠組みが始動した。日本も参加表明している。二〇三〇年までに、三割減らす目標に百カ国超が合意したという。会議の大きな成果になるかもしれない▼排出量は二酸化炭素ほどではないが、メタンには約二十五倍もの温室効果があるとされる。発生源の化石燃料などとともに、牛のげっぷの影響も無視できないと指摘されてきた。今後、メタンを抑えるえさなどの開発が進みそうである。口からの気体が、地球に愛してもらえるようになる日が来るかもしれない▼中国などは合意への参加を見送っているそうで、例によってそろわない足並みに、うらみも残った▼噯は「あい」と読んで悲哀の言葉でもあるらしい。危機を避けるために、悲観はおくびにも出さないほうがいいか。