一八七三(明治六)年、実業家の渋沢栄一が設立した第一国立銀行の「株主布告」に渋沢自身が銀行の理念について書いている。口語訳をすれば「そもそも銀行とは大きな川のようなものだ。役に立つことは限りない」▼個人が持っているだけではわずかな水滴のようなお金だが、それを銀行が集め、大きな流れをつくりだせば、大資金となって、人の役に立つ。そういう趣旨である▼第一国立銀行が現在のみずほ銀行につながっているのだから、「大きな川」とうたった渋沢さんもさぞ、渋い顔をしているのだろう。現金自動預払機(ATM)が使えなくなるなどみずほ銀行で相次いだシステム障害問題は経営陣の退陣に発展し、親会社みずほフィナンシャルグループ社長、みずほ銀行頭取らが引責辞任する見通しだそうだ▼川のように円滑なお金の流れを支えるべき銀行がこうたびたびシステム障害を起こし、流れをせき止めたとあっては経営陣の責任は免れまい▼金融庁の検査によれば、システム自体に重大な欠陥はなく、その運用に問題があったという。システムを保守管理する人員を大幅に削減したことも障害の頻発を招いた原因という指摘がある。川の見張りをおろそかにした結果だろう▼「みずほ」とはみずみずしい稲の穂のこと。徹底的な再発防止を願いたい。豊かなみずほの実りには安定した水の流れが欠かせない。