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今日の筆洗

2021年11月23日 | Weblog
 真夜中、台所に忍び込み、師匠のお酒を飲んでいるところをおかみさんに見つかり、こっぴどく叱られる。別の日には、泥酔して師匠の家の玄関を汚し、あまつさえ、ふんどしを師匠の机の上に置き忘れる−▼この人の芸歴はしくじりの連続である。落語家の川柳川柳(かわやなぎせんりゅう)さんが亡くなった。九十歳。あの高座が二度と聞けないとは寄席ファンには寂しかろう▼「客にウケなければ意味がない」。ソンブレロをかぶり、ギターを抱えた川柳さんの芸に対し、古典一筋の師匠、円生さんはいい顔をしていなかったと聞く。弟子の昇進は師匠にも喜びだろうに円生さんは川柳さんの芸を否定し、「真打ちにできない」と昇進に反対したこともあった。一九七四年、真打ち昇進を果たしたときも円生さんは披露興行にさえ出演していない▼しくじりの数々や師匠との折り合いの悪さが師匠とはまったく異なる芸をこしらえたのか。師匠に遠ざけられながらも明るく陽気なその高座はわれわれを笑わせるばかりではなく、人生「なんとかなるよ」と安心させるようなところもあった▼代表作「歌でつづる太平洋戦史」(通称・ガーコン)では戦中から戦後の流行歌の変遷を聞かせていた。ご機嫌良く歌う川柳さんを見ていると、こっちまで楽しい気分になれた。不思議な芸だった▼今ごろは円生さんと顔を合わせているかも。ほめてくれたらと願う。