「さはら刺身(さしみ) 生醤油(きじょうゆ)、たひ刺身、かじき刺身」の魚に始まって、「牛網焼、ポークカツレツ、ベーコン」の肉類、そして「水蜜桃、かのこ餅、シユークリーム」など果物や菓子まで。ざっと百を超える食べ物を列挙している。作家、内田百〓の「餓鬼道肴蔬(がきどうこうそ)目録」である▼書いたのは一九四四年の夏。戦争で食べ物を手に入れるのが困難な時代である。「段々食ベルモノガ無クナツタノデセメテ記憶ノ中カラウマイ物食ベタイ物ノ名前ダケデモ」と目録を作った。「記憶ノ中」でかつての味を楽しむ百〓先生が悲しい▼かの国ではハンバーガーも「記憶ノ中」の食べ物になるのか。ウクライナ侵攻を受けて多国籍企業のロシア撤退が進む中、ハンバーガーのマクドナルドもロシア国内にある全店舗の一時閉鎖に踏み切った▼この間の日曜が最終日で、大勢のロシア人が食べられなくなるハンバーガーを求め、足を運んだと聞く。食べたいものが食べられぬ。ウクライナ侵攻がなければこんな不自由はなかったろうに。リーダーの誤った判断に国民が泣かされる▼「マクドナルド、コカ・コーラ、スターバックス、ハイネケン」。食べ物以外なら「アップル、ディズニー、ユーチューブ、ネットフリックス、イケア、ユニクロ」▼長い長い目録ができる。食べ物や楽しみを奪われた恨みが大統領を支持する世論を少しは変えてくれぬか。