一九九三年秋、カタールのドーハで起きた悲劇をテレビで見た▼サッカーのワールドカップ(W杯)米国大会アジア最終予選のイラク戦。日本が勝てば初のW杯出場が決まったのに、終了間際に追いつかれて夢破れた衝撃は忘れがたい▼テレビのスタジオ解説者の一人は後に代表監督になる岡田武史氏だった。試合後、生放送中に思いがこみ上げ、絶句した。やがて、日本は十分にW杯が狙える水準に今回初めて達したのだと指摘し「いきなり出ようというのは甘いよ、W杯はそんな簡単なもんじゃないよと言われてるような気がした」と語った▼そのカタールで十一月に開幕する次のW杯。おととい、日本はアジア最終予選のオーストラリア戦に勝ち、七大会連続の本大会出場を決めた。最終予選序盤は三試合で二敗。岡田氏が昔語ったように「簡単じゃない」道程で、あの悲劇以来の予選敗退もちらついた。悲劇を選手として知る森保一監督以下、よく巻き返した▼九三年のイラク戦に関しては「パス回しで時間を稼ぎ、逃げきれなかったか」とも言われた日本。前回W杯本大会では一次リーグ最終戦の終盤、負けているのに時間を稼ぎ、批判も浴びた。同時進行の他会場の経過から、このまま終われば一次リーグを突破できるという判断。いつしか、W杯に出るだけでは満足しない国になった▼因縁の地の舞台で進化の証明を。