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今日の筆洗

2022年03月29日 | Weblog

古い友人が妻を病気で亡くした。まだ、五十代だった。悲しい。それ以外の言葉が出てこない▼友人にある映画のことを話そうかと思った。やはり思いとどまった。まだ、冷静に受け止められないだろう。友人と事情はまったく異なるが、映画の中で男は妻を病で失っている。映画は「ドライブ・マイ・カー」▼友人は亡くなったばかりの妻を残して、一日だけ仕事に戻ったと言った。驚いた。こちらの反応が非難がましく聞こえたのかもしれない。「あいつが生きていたら、仕事に戻れと絶対に言ったはずだ」。その言葉に友の負った傷の深さを想像した▼「ドライブ・マイ・カー」が米アカデミー賞の国際長編映画賞を取った。絶望から再生に向かう物語がコロナ禍やウクライナの悲劇の中で評価されたという。秀逸なのは再生の描き方だろう。あの映画はたぶん希望など描いていない。立ち直ることも無理強いしていない▼人を励ます方法はいろいろで背中をたたいて大声で元気を出せというやり方もある。理屈で説得する人もいる。映画はどれとも違う。傷ついた人の背中にかすかに触れ、静かにこうささやいているようだ。分かるよ。でも生きていくしかないじゃないか▼約三時間の上映時間が長いとは感じない。痛みを理解しつつ多くを語らず、ただ、車を走らせてくれる。そういう三時間が必要なときが誰にだってある。