Kirill Belorukov - Valeria Aidaeva | Rumba | World Cup 2022 Kremlin | George Musheev | Professional
SM2007 Latin Samba show by Michael & Joanna
「さはら刺身(さしみ) 生醤油(きじょうゆ)、たひ刺身、かじき刺身」の魚に始まって、「牛網焼、ポークカツレツ、ベーコン」の肉類、そして「水蜜桃、かのこ餅、シユークリーム」など果物や菓子まで。ざっと百を超える食べ物を列挙している。作家、内田百〓の「餓鬼道肴蔬(がきどうこうそ)目録」である▼書いたのは一九四四年の夏。戦争で食べ物を手に入れるのが困難な時代である。「段々食ベルモノガ無クナツタノデセメテ記憶ノ中カラウマイ物食ベタイ物ノ名前ダケデモ」と目録を作った。「記憶ノ中」でかつての味を楽しむ百〓先生が悲しい▼かの国ではハンバーガーも「記憶ノ中」の食べ物になるのか。ウクライナ侵攻を受けて多国籍企業のロシア撤退が進む中、ハンバーガーのマクドナルドもロシア国内にある全店舗の一時閉鎖に踏み切った▼この間の日曜が最終日で、大勢のロシア人が食べられなくなるハンバーガーを求め、足を運んだと聞く。食べたいものが食べられぬ。ウクライナ侵攻がなければこんな不自由はなかったろうに。リーダーの誤った判断に国民が泣かされる▼「マクドナルド、コカ・コーラ、スターバックス、ハイネケン」。食べ物以外なら「アップル、ディズニー、ユーチューブ、ネットフリックス、イケア、ユニクロ」▼長い長い目録ができる。食べ物や楽しみを奪われた恨みが大統領を支持する世論を少しは変えてくれぬか。
<よみ人知らず座中みなくさがらせ>。江戸時代の古川柳だが、ちょっと分かりにくいか。その場にいた人を困らせた犯人はオナラである。しかも誰も名乗り出ないので<よみ人知らず>▼品のない話題で申し訳ないが、オナラを扱った古川柳はかなりある。目に見えず、証拠がないのをいいことに当の本人はとぼけている。そんな内容の句が目立つ。<屁(へ)をひっておや坊さんと乳母とぼけ>。自供しないどころか、坊ちゃんのしわざにした、乳母のすました顔が浮かんでくる▼こんな平和な話だけ書いていたかったが、そうもいかぬ。あの句でいえば<おや米国とロシアとぼけ>という話だろう。ウクライナ侵攻を続けるロシアによる悪質な偽情報、屁理屈と思いつつも、そのでたらめな言い分に耳を疑う。ウクライナで米国が生物・化学兵器の研究・開発を進めていると言うのである▼根拠のないロシアの主張に対し、米欧側はこぞって非難するが、気になるのはロシア側の狙いである▼実は生物・化学兵器の使用を視野に入れるのはロシアの方で、こうした主張によって米国に疑いの目を向けさせておくシナリオではないかと米欧は警戒を強める▼使用すれば広範囲に深刻な影響を及ぼす国際法が禁じる危険な兵器である。誰かに罪をなすりつけた上で、とぼけ顔で使おうとは。ロシアの越えてはならない一線はどこにあるのか。
岩手が生んだ宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」はよく知られる。いじめられっ子の少年ジョバンニが親友と、銀河を列車で旅する物語▼船の沈没事故に遭って救命ボートにも乗れず「神さまのとこへ行く」という青年らも列車に乗り、途中で降りる。他人を押しのけてボートに乗るより天に召される方が幸せという青年ら。死が暗示される銀河で、ジョバンニは幸せとは何かと悩む▼岩手などで多くの命を奪った東日本大震災から十一年。児童ら八十四人が亡くなった宮城県石巻市の旧大川小学校では、校庭の隅のコンクリート壁に銀河鉄道の夜など賢治の世界が描かれている。先の報道で知った▼震災の約九年前に、在校生が銀河を走る列車などをかいた。壁画の一部の損傷が学校を襲った津波の力を示す。これから災害に遭う人が命を失わないよう、悲しみと教訓を伝える校舎は壁画とともに残された。娘を亡くした父親は「子どもたちが星になって見守ってくれている。ここは命を考える場所」と語る▼物語では、ジョバンニの親友も銀河で姿を消す。一人きりで現実の町に戻される前、ジョバンニは天の川の孔(あな)を見て誓う。「僕もうあんな大きな暗(やみ)の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く」▼幸せとは勇気を持って人のために生きること、だろうか。それはきっと、星になった人のためでもいい。