私の友達で、時々うちに遊びに来る双子の姉妹がいます。姉のBちゃんは、気がかりな子です。
私に聴いて欲しいことがたくさんあって、うちに来るといつも「聴いて 聴いて」という感じで話します。
切羽詰まったものをいつも抱えています。そして双子の妹と、私の取り合いみたいになって、火花が散ることもよくあります。
「次は私が話すのよ」「あ、もうまた…」「邪魔しないで」という感じで。
そして、なりふり構わずすがりついてきて、私に答えを与えて欲しいみたいです。
その必死な様子からは、可哀そうな生い立ちが偲ばれます。
母親は全聾で、彼女たちは手話ができます。
母親は気が強くて彼女たち曰く「すごくわがまま」な人で、特に姉のBちゃんは幼い頃から介助者としての
役割を、せざるを得ずに担ってきたのでした。幼少時から、子どもでいられずに介助者として必死で頑張ってきた子です。
そして聾の母は、もどかしさから、うまく伝わらない時には激しく怒り彼女を責めたそうです。聾の世界を幼少から知っている
彼女たちが言うには、「聾の人は、すごくわがまま」って。健常者の文化と違う文化が聾の人達にはあるそうです。
意思疎通のもどかしさからか、激しく怒ったりするし、感情の揺れが大きいといいます。
今のBちゃんは、私から見ても、彼女が通院している精神科医から見ても、人の世話をするようなタイプじゃありません。
持って生まれた個性は知らないけれど、今のBちゃんは甚だしく情緒不安定で、寂しさや不安が非常に強くて
その埋め合わせ行為としての強度の依存症を抱えています。その依存対象は男性、お酒を飲む場など複数です。
お金がないのに、人との出会い、交流を求めて酒場に通っています。男性との関係に溺れやすいです。
しかも、心の穴埋めをしようとした相手からいいようにされて、深く傷つく経験を繰り返しています。
悪い言葉で言うと、穴埋めに利用しようとして、逆に酷く利用、搾取されて逃げられるという目によく遭っています。
彼女に向けられそうな説教、助言、訓諭はいくらでも想像できますが、彼女に助言したりは
私はできないし誰にもできる筈はありません。好きでこうなったわけではないから。
もし彼女と同じ環境で育っていたら、たいていの人はそうなるのではないかと思います。
姉のおかげで矢面には立たないで守られてきた妹の方は、安定した性格となっていて、現在ではいつも姉と間違われています。
Bちゃんの生い立ちを知らないと、彼女は悪く言われる面が満載だと思います。
彼女を見ていると、切なくて、可哀そうで、危っかしいです。「こっち向いて!」といつも言っている子です。
それは、小さい頃から、こっちを向いてもらえずに無視されてきたからです。
親の世話をして、ちゃんとできてるか、伺いながら生きてきた彼女が
「こっちを向いて!」と切に訴えて生きることを、誰が咎めることができるでしょうか。
人は、本来与えられるべきものを得られなかった場合、そのぽっかり空いた穴を埋めようとする行為をします。
そのせいで、さらに苦しみが派生するというのは、哀しいスパイラルです。
また、幼少期に空いた穴を埋めようとする行為は、反動的に増幅して現れます。つまり
子どもの頃に、当然のわがままを言えないで大人のようにいることを余儀なくされていた子が、
大人になって周囲を驚かすくらいにわがままになるといった反動の発現は、しばしば言われています。
「甘やかされて温室で育ったお姫さま」との批判とは逆の経歴を背負っていたりします。
また、穴埋めは際限がないです。それぐらい、必要なものが注がれなかった穴は深いのです。
どんなに穴埋めしても足りずに強迫的に続くことも言われていることです。
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彼女はやさしい子で、私が話した自分のことでもぽろっと涙を落としたりします。他者の体験への共感能力が高いんです。
自分の苦しい気持ちを捻じ曲げずに生きている彼女だからこそ、人にも深いやさしさをもっています。
自分の気持ちを不自然にへし曲げたり、なかったことに封殺するなどの処理をして生きている人は、
人への共感能力はもたないし、やさしさももてません。むしろ爬虫類を思わせるような冷たい心になります。
そういう人よりずっと、彼女は光の傍にいます。
なりふり構わず苦しんで生きている彼女は、苦しみに蓋をしている人よりも、ずっと健康だと思います。