第15章「声」

2010年04月06日 | 人生これから日記
2009年7月

前回付けたソーラーは順調に充電している。
いつものように夜到着。 スイッチで照明が付くこの嬉しさ!


翌朝は天気予報どうりに晴れた。
ソーラーの充電の様子を見ながら太陽の位置を確認。

全体を見回して 伐採は終わりだねと話していたのだが
陽の入り方を見ていたら
「あの1本がなければ ここに陽が当たるね」と。

最後の1本だった。

ボーヤ号も持って来ている事だし、切ろう!と判断したが
20m級の松の3分の2から上が嫌な方向を向いていた。

2段梯子で出来るだけ高い所にワイヤーをかけ
バケットの先に引っ掛けて ボーヤ号で引っ張ることに。

6時~8時の方向に倒す。
5時の方向には作った屋根がある。
4時の方向にはバンビ。
2時の方向には 隣の家がある。

屋根に絶対あてないようになるべく左寄りに。
そうだ、8時の方向で。
今まで何十本も倒してきて毎回怖さは有ったが
この日のように胸に渦巻く不安は無かった。
最後の1本と思い緊張していたせいかもしれないが
嫌な予感があった。

チェンソーで切ろうとした時、一度ワイヤーが外れた。
途中でまた梯子に乗り、かけ直した。
その時松の上の方が違う方向に少し揺れた。

Yさんに不安を伝えた。Yさんもまた念には念をいれ
ワイヤーと引っ張るボーヤ号の位置を確認しチェンソーのエンジンをかけた。
私も急いでボーヤ号に乗り指令を待った。

チェンソーの歯が松に入った時、 
うずうずしていた胸の中が爆発しそうに思わず「嫌だ!」と叫んだ。

だが切り始めたら途中では止まらない。
不安が的中してしまった。

バンビでも屋根でもない、松は隣の家をめがけて倒れていった。



あっという間の出来事。
今でも記憶の画像は傾いた所で止まっている。

あの1本が無ければね・・・と言った言葉を聴いたのか。
とうとう仕返しをしてやったぞと言ったのか。
叫んだ自分の声とYさんの声と松の叫び声が
いくら記憶の片隅に押し込んでも消えない。


この作業を続ける限り これからも危険は伴う。
子供やその友人達も遊びにくるだろう。
危険なことを教えながら遊ぶことを教えなければいけない自分達が
この事を忘れてはいけない。
事実は忘れるより 思い起こして消化した方がいい。

そうしなければ
頭の中の松は いつまでも傾き始めたままの画像で
私たちを苦しめるだろう。


今までたいした怪我もせず
素人がここまでやってこれたのが不思議なことだったのかもしれない。
何もかも思い通りに事を運ばせようとしてきたが
ここの先住民達は許しては無かったのか、もしくは
この先もっと危険なこともあるんだよと教えてくれたのかもしれない。


「ゆっくり、ゆっくりね。」

そうだった。








第16章に続く