uparupapapa 日記

今の日本の政治が嫌いです。
だからblogで訴えます。


こりゃ!退助!!~自由死すとも退助死せず~(28)

2021-02-20 09:33:59 | 日記





 後藤象二郎 <Wikipediaより>









このイラストは私のblogの読者様であり、
イラストレーターでもあられる
snowdrop様に描いていただいた作品です。


#13イラストのリクエスト〜『板垣退助』 - snow drop~ 喜怒哀楽 そこから見えてくるもの…
 (snowdrop様のblogリンク先)

Snowdrop様
素晴らしいイラストをありがとうございました。
心から感謝いたします。









     第28話 版籍奉還 



 1869年(明治2)1月14日
退助は京都円山端寮(現:円山公園)で
薩摩藩吉井友実の草稿の版籍奉還案を検討すべく
会合に出席した。
会合には退助の他、薩摩藩大久保利通、
長州藩廣澤真臣というメンバーであった。

 版籍奉還とは、幕藩体制下の根本制度、
諸藩の所領安堵と領民支配を
朝廷即ち、明治新政府に返納させる政策である。

 江戸幕府消滅と共に、
幕藩体制の安堵の約束の根拠が
失われた状態にあった。

 そのため、新たな秩序の構築が必要となり、
退助たちが集まり、
仕組みづくりをしようと云うのである。

 しかし、版籍奉還と一口で言うが
一旦手にした利権・特権を、
諸藩が簡単に手放すとは考えにくい。


 明治維新の基本政策のひとつである
版籍奉還と廃藩置県はセットであり、
その断行は絶対条件であった。

 諸大名を従わせるにはどうしたら良いか?

 最悪武力の行使も念頭に置かねばならない。

 そういう事情から、戦(いくさ)の功労者で
軍事専門家、退助の意見が重要になる。
明治新政府にとって、
退助はそれだけ重要な立場にあった。
単なる戊辰戦争のヒーローと云うだけではないのだ。


大久保利通と廣澤真臣は
退助の顔を見るなり開口一番、
「おめでとう」と云う。
「へ?何が?」
「新たに妻を迎えたのであろう?」
「どうしてそれを?」
「後藤殿があちらこちらに触れ回っておるぞ。
知らんのか?」
(象二郎の奴!!
この小便(しょんべん)野郎ォォォ!!)
「象二郎は何を考えている!
何でいつもワシの噂を触れ回っておるん?
信じられんヤッチャ。」
退助は照れ隠しでそう言った。
「余程退助どんがお好きなのであろう。
とても嬉しそうに喋っておったぞ。」
「嬉しそうに?
『楽しそうに』の間違いでござろう?
あいつときたら、
ワシを茶化すのが
生きがいだと考えている節がある。」
「何故でごわすか?」
「あいつは小さい頃、
いつもワシとの喧嘩で負けていたのでの。
その腹いせじゃろう。」
「そうであろうか?
後藤どんは、広か人物たい。
腹いせだの復讐だの、
そんなせせこましい事にこだわる吾人じゃなかろう?
いつも退助どんを思い、
話題に出す。
それが後藤象二郎という人物たい。」
退助は心の中では納得し、
友がそういう評価をしてもらえるのを
素直にうれしいと思った。

「・・・ところで、
退助どんの新妻はどんなお人か?
後藤どんは大そう美人だが、
典型的な江戸っ子だと申しておったが。
何と云って口説いた?
退助どんは美形故、
女子(おなご)にモテて
困っておると申しておったぞ。
二人目の妻を持った感想はどうじゃ?」

 羨ましくて、羨ましくて仕方ない
という表情を丸出しにし、
身を乗り出して聴こうとするふたりに、
「やっぱり面白おかしく
ワシを茶化しておるではないか!!
もう、誰も信じられん。
大体、今日は
天下国家の話をしに来たのとちゃうのか?
版籍奉還の話はどうした?」

 そこに配膳女中が入ってきた。
「きゃ~!板垣様よ!!
退助様、私たち熱烈なファンですのよ!」
「はぁ~?ファン??
嘘を申せ!ワシがそんなにモテる筈が無かろう?」
と、退助が顔を真っ赤にして狼狽(うろたえ)えた。
「江戸の瓦版では
市川團十郎に似ていらっしゃると
もっぱらの噂だったと聞きました。
噂通り良い男でございますわ。」

「ん?象二郎の奴、(大久保どんに)
そこまで触れ回っておったのか?
でも、そこもとの女中たちよ、
さてはそなたたち、大久保殿に頼まれたな?
大久保殿もお人が悪い。
 今日はワシを徹底的に弄るおつもりか?
よぉ~し、それではワシにも考えがある。
 ワシも大久保殿の恥ずかしい話は
(象二郎から)沢山耳にしておる。
 今日は暴露合戦じゃな。」
「分かった、分かった、もうよい。
そろそろ真剣な話に移ろう。」

 横で廣澤真臣が無言でニヤニヤしていた。

 日本の将来を決定する大切な会合は
こうした雰囲気の中で進められた。
(・・・か、どうかは歴史の闇の中にある)

 1869年(明治2)7月25日
版籍奉還の勅許が下された。

 新政府の参与となった退助と象二郎。
会合以降、東京で最初に再会した日、
いきなり象二郎にヘッドロックをかまし、
 gooの中指でグリグリしたのは言うまでもない。


 「分かった、分かった!
退ちゃん降参、降参!
お詫びに耳寄りな情報を教えるから
許してくれ!」
「情報?何じゃそれは?」
「お菊殿がな・・・。」
「お菊が如何(いかが)した?!」
「お菊殿が江戸に帰って来た。」
「何?帰ってきた?
何故お主がそのことを?」
「私を誰だと思ぉちょるか?
天下の後藤象二郎ぞ!」
「天下の・・・のう…。
で、何故お主がお菊の動静に注目する?
お菊は単なるワシの昔の姉替わりぞ?」
「退ちゃんは秘密にしていたつもりかもしれんが、
いつも無意識にお菊殿の事を口走っていたぞ。
誰だって退ちゃんにとって
お菊殿が大切な存在だと
気づくに決まっておる。
只ならぬお人だと云う事を。」
「只ならぬは余計であろう。
あの女子(おなご)は人妻ぞ。
 妙な噂は立てんでくれ。
でも、そうであったか。
それは知らなんだ。
ワシだけが気づいていないなんて、
ピエロだな、ワシは。」
「そう、ピエロじゃ。
だから退ちゃんは
万人から愛されておるのじゃき。」
「褒められたのか?ワシは。」
「そうに決まっておろう!」


 その日の夜、早速お菊の店に
足早で急ぐ退助の姿があった。


    つづく