アメリカ帰国者が日々の出来事・人生・世の中などを語るブログ

日本に帰国して矛盾だと感じたこと、人生における発見や日常のことなど色々語ります

患者、顧客の過大な要求が過酷な労働環境を生み出している

2018年08月08日 | 仕事・働くことについて

東京医科大学の入試試験で、女子が一律減点されていたことが発覚した。女性の合格率が男性よりも高くなってしまったということが原因らしいが、女性の方が優秀な人達が多いということの現われであろう。実際、フィンランドなど他の国では、男性よりも女性医師の数が上回っており、ラトビアでは、なんと75%、ほぼ8割が女性医師で占められている。

世界各国比較:医師の男女比ランキング

これを見ると、日本のランキングはOECD諸国の中で最下位という不名誉な結果となっている。

しかし、これに対して日本の現役医師の6割が、この一律減点に関して「理解できる」としており、医師でタレントの西川史子氏は、女性ばかりになると皮膚科や眼科が増えるとか、外科医は男手が必要なので減点は仕方ない、とまで言う始末。それが真実だとしたら、ラトビアやフィンランドなど女性の割合が多い国の場合はどう説明するのか。これらの国では皮膚科や眼科医ばかりなのか、耳を疑ってしまう。

それに対して、ある報道番組のコメンテーターからまっとうな意見が出た。

そもそも医療現場の過酷な労働環境が問題で女性医師が辞めざるを得なくなっているのに、女性医師がいるせいで男性医師の負担が増える、というのは間違っている。女性にも働きやすい職場環境を作ることに目を向けなくてはいけないのに、入試の段階で女子を排除しようとするのは間違っている、と。

全くその通りだと思う。時代錯誤も甚だしい。

しかし、この現象はなにも医療現場だけでなく、一般の会社にもある程度の不正操作があるのではないかと感じている。実際に、全く同じ能力を持った男女の求職者がいた場合、会社側は男性の方を採用することが多いのではないか。それに、日本ではどこの会社を見ても、特に営業部門は女性よりも男性の比率が圧倒的に多い。管理職、役員レベルでも未だにそうだ。そして、事務職の仕事は女性が多い。今は大学を出ている女性も多いのに、昭和の時代からこの現象が変わっていないのは、採用する側に意図的な操作があると疑わざるを得ない。

では何故、医療現場も、多くの会社においても過酷な労働環境がなかなか改善されないのか。それは、

顧客(もしくは患者)側の過大すぎる要求が、過酷な労働環境を生み出している

からだと確信している。

日本の会社は、クライアント側からの無理な要求、無理なスケジューリングに対して絶対にNOとは言わない。アメリカで働いていてつくづく感じたのは、アメリカでは発注する側と受注する側は対等なパートナーであり、日本のように上下関係ではない。従って、アメリカでは顧客が無理な要求、課題な要求をするとはっきりNOと言うが、日本はNOとは言えない。当然、受注する側は仕事を回すだけで精一杯になり、仕事に対する誇りややりがいを感じられなくなり、長時間労働で疲弊し、最悪の場合は過労死に至ってしまう。

これは病院でも全く同じことが起こっている。日本では国民皆保険なので、諸外国と比べると医療費が断然安い。昔の1割負担から3割負担に増えたものの、それでもアメリカと比べても全然安い。だから、大した症状でなくても病院に行ったり、はてまた高齢者の方達は寂しさ紛れに病院へ行く人もいるようなので、患者数は増え、医師の負担は増え続けるだけなのである。

それに加えて、高齢化に伴い、入院患者数が現時点においても既に高齢者の割合が非常に高い。私は去年の夏、1か月ほど入院をしたが、8~9割が高齢者ばかりでびっくりした。高齢者は介助を必要とする人が多いので、医療スタッフの負担は大変なものであると肌で感じた。

入院する患者さんを制限できないが、少なくとも外来患者数を抑えたり、海外からも医師を採用して医師の数を増やす、という手があるのではないのか?外来患者数を抑えるには、医療費負担を欧米並みに高くすればたちまち減るかもしれない。これについては、国民から大反対されることが予想されるが、大したことないことで医療機関にかかる数は激減する効果があると思う。

しかし、そもそもこんなことをしなくても、患者側が常識的な人達ばかりだったら、医療費を上げなくてもよいのだが、残念ながら非常識な人達が存在する限り、他の人達にしわ寄せが来るのは致し方ないと思う。

会社においても、クライアントからの無理な要求を断れば、残業時間などたちまち減らせるのだ。断ることで、クライアントからの受注がこなくなれば、それはそれでよい。対等な立場でビジネスできる相手と仕事をした方が、よほど仕事の質は上がるし、従業員の満足度も高いだろう。そして、無理な受注を断る企業が増えれば、無理な要求をするクライアントはブラック・クライアントとなり、発注することさえもできなくなる。そういう状態にならないと、日本の労働環境はなかなか改善しないと思う。

私が以前、働いていた調査会社もいわゆるブラック企業だった。クライアントからの無理な要求ばかりに答えていたからだ。それでも、私は当時、マネージャーとして権限を持たせてもらったので、過大な要求をするクライアントにはこっそりNOと伝えていた。私の下で働いている部下達の疲弊をこれ以上招きたくなかったからだ。それでも彼ら(と私)の残業がなかなか減らなかった。そもそも業務量がスタッフの人数に対して既に過剰な状態となっていたからだ。人員を増やせばいいことなのだが、外資系企業となると、すでに毎年人員の枠が厳しく定められており、融通が利かないので、なかなか増えない。

今の多くの病院もそうではないかと推測する。病院側の利益を上げたいが為に、男性医師を優遇し、職場環境改善どころか、患者を増やし、不必要な投薬、手術をする。病院、医師の倫理観、良識が問われる問題だ。

従って、これらの要因を考えると、今回の東京医科大学の入試一律減点はあってはならないことであり、決して正当化できることではない。正当化する人達は、問題の根本に目を向けておらず、一律に女性が問題、だから排除する、という短絡的な思考になっているのだ。