明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

大坂なおみ選手の問題について

2021-06-03 20:53:48 | スポーツ・ゴルフ

これは世間には色んな人がいて、皆が見ている中のメディア会見が「苦手」だという人もいる、ということである。ただそれだけ。嫌なら辞めれば良いだけのこと。問題は、WTAが勝つか大阪なおみが勝つか、である。

最近の流行りで言えば、これは「多様性を認めよう」ということだと私は思う。そんなに大騒ぎすることじゃない。テニス協会側が選手に会見を義務付けることに元々無理が有る、というのが結論。これは意見を出している選手の大半が、メディアの会見を「嫌っている」ことでも証明できる。選手は会見自体は嫌いだが「仕方なく」記者の質問に答えている、ということである。これはどんなスポーツの選手にも言えることだし、年間60億円も稼いでいるスーパースターでも(特に試合に負けた時はそうだが)記者の質問から逃げ出したくなる時はあるだろう。 おまけに選手の気持ちを逆なでするような記者がいれば、尚更だ。

しかしテニスプレイヤーに限らずゴルフでもF1でも、選手は「試合だけしてればいい」というわけにはいかないのは事実である。ファンは贔屓にしている好きな選手の「レアな情報」を知りたいだろう。これは映画スターや歌手のファン心理を思えば、十分理解できる。彼等は自分の憧れるスターの「することなすこと全て」を知りたいし、一歩でも彼等に近づきたいと願って追いかけ回すのだ。それほどでもないテニス好きの人にとっても、それと五十歩百歩である。だから逆に言えば熱烈なファンを納得させるために、協会側は「会見」を開いてゴシップ雑誌の無遠慮なスクープから選手を守っている、とも言えないことはない。勝ったときも負けたときも、それなりのコメントを聴くことで「ファンは選手と一喜一憂し、一体化したと感じることが出来る」のである。

選手が試合後に振り返って「あの時は大変だったです」と言えば、ファンはその心理を想像して「苦しかっただろうな」と同調し、「コンチクショーという気持ちでサーブを打ちました!」と言えば、ファンは「得意のキャノンサーブを叩き込んでやれ!」と喝采する。別に煽っているわけじゃないが、ファンは選手の言葉一つ一つに「自分もフィールドで戦っているような気分」になって、まさに「臨場感を満喫する」わけである。これが古代ローマの剣闘士以来の「伝統的興行の手法」ではないだろうか。試合を盛り上げるとはこういうことだ。要するにメディアの会見というのは目の前の試合とは「何の関係もない」、エンタティメントとしての「ファンサービス」である。

そして、ファンは試合が終わった後、居酒屋などで集まり酒を飲みながら、「あのショット、凄かったなぁ」と大いに語り合う。これは選手や試合とは「別の次元の楽しみ」ではあるが、正直に言えばもはや「スポーツでもなんでもない」、例えて言うならば「競馬ファン」となんら変わりない「ただの興奮した群衆」に過ぎないのだ(我ながら良い例えだ!)。そして大坂なおみ等の選手はと言うと、1600mを走ってきてハァハァ息を切らしている「競走馬そのもの」である。ただ彼女が馬と一つ違う点は、自分の意思で試合に出場し、それによって莫大な収入を得ているという事実だけである。

以上で分かったことは、選手とファンは「優勝して同じように喜びを分かち合う仲間」である場合もあるし、負けた時に落ち込んでいる時に「更に追い詰めてくる鬱陶しい連中」でもある。一緒に戦ってくれる力強い味方の時もあれば、惨めに負けた自分に石をぶつけてくる意地悪な民衆なのだ。結局、選手はファンからすれば「都合の良いエンタティメントの道具」でしかない。これは、選手も一人の人間であり、ファンとは「違う目的」で試合に臨んでいる、ということを考えれば簡単に分かることである。以前、スペインの有名なサッカー選手がイギリスのプレミアリーグに移籍して何が一番違ったかと聞かれた時、町なかでファンに邪魔されずに食事が出来ること、と答えたのを聞いたことがある。イギリスでは例えファンであっても、スペインのようにレストランで不躾にサインをねだるようなことはない、ということだろう。これは選手がプライベートで食事を楽しんでいる時は、あくまで個人としての礼儀を守って欲しい、と言うことだと思う。試合の時は選手としてファンのために必死で戦うが、ひとたび試合を離れれば「個人のプライバシー」は尊重されるべきである、という選手側の意見である。

勿論、サッカーはテニスと比べて「比較にならないぐらい」ファンの存在が大きく、それが「クラブの運営」に欠かせないことはご承知の通りであろう。もともとサッカーは、選手よりクラブの運営が先にある。基本的には選手はクラブに雇われている戦力の一つであり、「クラブとは何の関係もない1事業主」である。クラブはファンにエンタティメントを売り、選手はクラブから働きに応じて報酬を得る。だから直接ファンと選手とが「何らかの関係(契約でもよい」)を結んでいる、とは言えないのだ。その例で言えば、WTAというテニスの興行主がファンに試合を含めたエンタティメントを売り、その盛り上がりを見てスポンサーは試合に賞金を出し、選手は高額賞金を得ようとして頑張る。全ては「経済の理論通り」に動いているわけだ。ただ、その時々で選手が入れ替わるだけである。これはオリンピックでもIOCが興行主となり、施設と運営・人員を東京都が引き受けて、スポンサーが出資する。規模やスタイルは変わっても、その構造は全く一緒である。

では選手の立場はどういうことになるのだろう。当然、選手は興行主のプログラムに従って行動し、決められた試合をこなし、興行主に協力して「話題を提供することによって」競技の人気を上げ、新たなスポンサーを獲得して、結果収入に貢献するのである。結構大変だ。私はゴルフが好きなのでゴルフの例を出すと、マスターズに勝った松山英樹は、古今の大記録を打ち立てて日本のゴルフ界の発展に甚大な貢献をした。ところが実は、マスターズに勝つまでは「インタビューの受け答え」時に苦虫を噛み潰したような不機嫌な顔をしていて、「ちっともファンサービスをしない嫌な選手」の代表だったのである。その点、全英女子オープンに勝って凱旋した渋野日向子の溢れんばかりの笑顔は、日本中を「優勝を共に喜べる嬉しさ」の中に巻き込んで、ゴルフファンならずとも「日本万歳!」という気持ちにさせてくれた。その人気絶頂の渋野日向子でさえ、アメリカに渡ってスイング改造に取り組んで以来、暫く不調に陥ってゴルフ愛好家から「色々悪様に言われている」体たらくである。ファンは自分達の思い通りに選手が動かないと、手のひらを返したようにブーイングする「我儘な存在」なのだ。要は「お客様は神様」というわけである。お金が循環する経済の図式で言えば、ファンはお金を払う「最上位」に位置している。ファン第一を主張する興行主にしてみれば、「ちょっと会見するぐらい」いいじゃないか!、となるのであろう。

では、「大阪なおみ」は、競馬の馬みたいにWTAの言うなりになって、やりたくもない試合後のメディア対応を、自身の精神的ストレスを我慢してまで「続けるべき」なのかどうか?

答えは3つある。
a. 我慢して会見し続ける
b. 罰金を払ってでも会見はしない
c. もう十分稼いだからテニスを辞める
以上だ。

多分、このような決断を迫られた選手は過去にも多くいただろうことは想像に難くない。ただ今回は、大阪なおみ選手が「世界ナンバー2」のトップランカーであることが、このような問題を提起した「だけ」である。もっと実力が下の選手であれば、WTAもさっさとクビにして「終わり」だっただろう。彼女はファンに人気があり、しかも今やテニス界屈指の超絶パワーを誇る「実力者」である。だから前記の選択肢3つのうち「B」がWTA側の問題となったし、おまけに「C」を何とか回避しようとWTAも必死になったわけである。さてこの先、この問題はどうなるのか。

端的に言えば、これは大阪なおみの「個人的問題」として処理されると思う。外野がなんだかんだと、口を差し挟む問題ではない。彼女がじっくりと自分と向き合って答えを出すだろう、と思う。それまでは、我々は彼女のことを忘れて普通にテニスを楽しみ、復帰してきたら暖かく迎えてやればいい。それだけである。ただ、メディアの会見という「選手にとっては物凄く嫌なこと」への改革という意味では、選手が出たくない時には「代りのスポークスマン」が記者のインタビューに答えて処理する、というのも有りだと思う。勿論その時は本人の意見をよく聞いて、「本人以上に臨場感を持って話をする」ように、日頃からコミュニケーションをとっている「専属スタッフ」が必須だろう。言わば選手の「影武者」みたいに、何から何まで選手のことをよく理解していて、会見を盛り上げる術を知っている人が良い。更には、優勝したりして気分よく本人が出たいと言い出した場合は、代役ではなくて「本人」がインタビューに答える、というのも可能にしておけばいい。要するに、ファンなどは適当にあしらっておけば良いのだ。WTAもこんな形で「選手の精神的負担を減らしてやる」ことが出来るのなら、何も無理して罰金など取る必要もないわけである。大事な選手生命を賭してまで会見をやる理由は、WTA側にはない。後はエンターテイメント性を如何に盛り上げるか、それが興行主の腕の見せ所である。

とにかく、全ては「お金」の問題だ。大阪なおみの人気がなくなれば、こういう話題も誰もとりあげないことだろう。まあ、これはこれで寂しい話ではある。

なお、私は「C」の選択が彼女にとっては一番良いような気がする。一応、東京オリンピックは日本代表で出て金メダルを取ってから辞める、というのがベターだけど・・・。


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