のり巻き のりのり

飾り巻き寿司や料理、己書、読書など日々のあれこれを書いています



邂逅の森

2017年05月27日 | 読書
2日ほど前から読み始めた「邂逅の森」
おもしろくて一気に読んだ。

 熊谷達也  文藝春秋

主人公は秋田県の奥まった集落にマタギの子として産まれた男である。
出稼ぎの旅マタギとして山形県月山麓を中心に、クマやアオシシ(カモシカ)をとって貧しい家計を支えてきた。

明治末期、大正、昭和初期の時代にかけて山の獣とともに生きるマタギの生活がどんなものか、
本物のマタギとふつうの猟師とはどう違うのか、

狩猟組をもってし、クマを撃つ連携の見事さ、など見知らぬ世界が目の当たりに展開されていく。

厳寒の山の空気が、獣の動きが、身を潜めるマタギたちの息遣いが、読みながらぞくぞくと伝わってくる。

主人公の富治は、好きになった女に夜ばいをかけ、相思相愛となるが、許されない相手ゆえ土地を離れる。
坑夫となり、違った環境で試練とともに人間として成長していく。

しかし、持って生まれた血は山を忘れさせず、再びマタギとして山にはいることになる。

最後の場面、山のヌシの巨クマと対峙し、足を喰われ、顔をひきちぎられ意識が朦朧とする中で
妻の顔を見るため家に帰ろうとする富治の生命力は、人間として最高に昇華されている。圧倒された。

読ませる小説には、必ず男女の愛があるものだ。
露骨で生々しい性描写が多々出てくるのは、いかにも小説らしいが、大人の小説ならばこそである。

芯のある男として描かれている主人公の感情描写も、民俗学的な言葉も重厚である。

最近の小説は軽い系が多く、途中でやめてしまうものも多いけれど、久しぶりに読み応えのある本だった。

今日、偶然にも秋田県でクマに襲われて亡くなった女性が発見されたというニュースを見た。
この本を読み終えた直後だったので、クマに襲われる場面が思い浮かんできた。

今も人間と獣との共生は続いているし、抗うことのできない自然との闘いも変わらないだろう。
都会に住み、安穏と暮らしている我々の想像することもできない世界を、読書によって知ることができる。

これぞ読書の醍醐味である。