闇株新聞 2013年05月07日
最初から日本人を狙った詐欺会社だったMRIインターナショナル
連休前の4月26日、米国のMRIインターナショナル(以下、MRI)が日本人投資家から集めた1300億円余りの資金を「そっくり」消滅させたとの報道がありました。
MRIは米国の会社なので「遠慮がちに」報道されているのですが、これは「外国(多分米国)の詐欺集団が」「最初から日本人投資家を騙す目的で」「体裁だけ整えたスキームで」「首謀者は資金の大半を持ってとっくに消えている」ケースです。
日系人らしい本社代表の名前が出ていますが、詐欺集団の首謀者が表に出るはずが無く、多少の報酬で雇われて代表になっていただけの「おじさん」です。
残念ながら、消滅した資金の行方は「絶対に」解明出来ず、もちろん「絶対に」戻って来ず、首謀者も「絶対に」出てきません。代表の日系人も、日本で起訴できるかどうかは微妙です。
今となっては、出来ることはこのMRI事件を出来るだけ正確に理解して再発防止に努めることしかありません。他にも「予備軍」がいるような気がするので、警鐘の意味を込めて書いています。
まずMRIとは、昨年(2012年)発覚したAIJ投資顧問や1998年に発覚したプリンストンのような運用失敗による巨額損失事件とは全く違い、最初から資金を騙し取るためだけのスキームだったはずです。
MRIは、投資家から集めた資金で医療機関から診療報酬請求権を買い取り、民間の保険会社から保険金として回収して投資家へ還元する運用を「している」ことになっています。
確かに米国では、この診療報酬請求権を安く買い取って保険会社から回収するビジネスはあるのですが、非常にリスクが高い限界的な市場で、投資家に高利回りを安定的に支払える「はず」がありません。
つまり「成り立つ可能性の非常に低いスキーム」なので、MRIは最初から投資家の資金をこのスキームに回すつもりはなく、ただ「日本人を騙しやすい」ので選んだだけです。
投資家がラスベガスの本社や、債権を買い取っている医療機関への無料ツアーに招待されていたそうですが、本社はともかく医療機関は「全く関係のないその辺の医療機関に案内されて関係ない人間が出てきて説明しただけ」だったはずです。
だから詐欺集団は海外を仕掛けに使うのです。もっともMRIは何から何まで海外(米国)にあったのですが、大半の日本人にとって「普段見たことのない」「簡単に見に行けない」「見に行っても確認できない」など、典型的な詐欺に使われるスキームです。
報道ではMRIは1998年に「運用」を始め、少なくとも2011年からは投資家の入金はすべて配当と経費に充てられていたので、首謀者にとってMRIは2011年にはとっくに「御用済み」であり、代表の日系人と日本のスタッフだけが取り残されていたことになります。
MRIは2008年に日本で「金融商品取引業者」の登録を行っています。これは新たに金融商品取引法が施行され、金融商品の募集・販売・運用・取次などにかかわる業者は、すべて金融庁に登録することになったからです。実際には簡単な資格(最低資本金と役職員の業務経験など)だけで自動的に登録され、現在は2000社近くが登録されています。
MRIが2008年に金融庁に登録されたことが、1998年から行っている「資金集め」にどの程度のメリットを与えたのかは分かりません。しかし新たな「運用資金」が集まって延命させた効果はあったはずです。
その金融庁は4月26日に「財産の分別管理が行われていない」「財産が配当や償還金に流用されている」「勧誘に際し虚偽の説明をしている」「虚偽に事業報告書を提出している」などの理由から、同日付でMRIの登録を取り消しましました。
これは金融庁に監督責任のある登録業者から、金融庁に何の責任もない「詐欺会社」に変更しただけです。さらに証券取引等監視委員会の刑事告発を担当する特別調査課が強制捜査に取り掛かっていますが、捜査権限はあくまでも日本にあるMRI日本支社と日本人スタッフに及ぶだけで、米国代表者の日系人をはじめ首謀者や資金の流れの特定は、すべて米国証券取引委員会(SEC)の管轄となります。
残念ながらこれ以上は何の進展もなく、そのうち忘れられてしまいます。
だから繰り返しですが、自衛するしかないのです。これも繰り返しですが「予備軍」も、海外の会社とは限らず、かなりいるはずです。
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生きない過去の教訓
MRIインターナショナルは米国のバブル初期の1995年に設立された、まだ歴史の新しい会社。日本に支店はなく、窓口レベルの出張所が置かれていた。
そもそも、米ネバダ州のラスベガスに本社を置く会社が、米国での活動実態がないのに、日本で投資家を集めているということが常識的に考えて怪しい(米国の優良企業なら、短期プライムで低金利資金調達できるはず)。ちなみにアメリカではMARS関連のリテールファンドなどというものは売りだされていない(S&PやモーニングスターにもMARS関連の商品情報はない)。
MARS投資は手数料がないというのもおかしい。口数が大きくなるほど大幅に運用時の利回りが高くなるという説明もまったく意味不明だ。
「診療報酬請求権債権投資(MARS投資)」。どうしてこんな常識的に考えればおかしい商品に投資してしまう人が絶えないのか?
1300億円を消失したMRIに実態がないことは業界では有名だった。
被害者の大半が個人。
同社が販売していたのは、「診療報酬請求権債権投資(MARS投資)」と呼ばれる商品。主に日本の顧客から投資資金を集めており、顧客資産の総額は1365億円に達すると見られる。日本の顧客数は約8700名にのぼる。
消失規模は今後の調査を待たねばならないが、1365億円の資産の大半が失われているとすれば、昨年発覚したAIJ投資顧問の年金消失問題に匹敵する規模となる。AIJ事件の主な被害者は企業年金だったが、今回は個人が大半とみられ、顧客の被害範囲はより広範にわたる。
この手の詐欺事件で多いケースと同様、同社も元本保証を謳っていた。元本保証で固定・高利回りの金融商品など、金融業界の常識としてはあり得ないが、日本人は特にこの「元本保証」という謳い文句に弱いといわれる。今回も同じ手口が繰り返された可能性が高い。
だから何度でも騙される。
◆AIJ事件の本質:虚偽業者・虚偽ファンドを見分ける
もし自分にチェック能力や専門知識がないと思うなら、全く投資をしないのが良い。
もしくは、運用会社から独立・中立の投資助言会社に相談して、評価分析結果をもらってから、投資判断をするべきだっただろう。
やはり、投資判断の前には、ちゃんとお金を払って、ファンドの評価分析を本業にしているコンサルを絡めた方が良い。
AIJ事件も、投資コンサルタントがいない年金基金を狙い撃ちして騙していた。投資コンサルタントを雇うお金をけちったばかりにすべてを失ったわけだ。
イギリス人では70%以上が独立した投資アドバイザーの助言に頼り金融商品を購入する。日本では数%に過ぎない。
つまり、単に販売会社(銀行・証券)や運用会社のセールストークを鵜呑みにして買ってしまう日本人が大半ということ。そんな金融後進国からの脱出のためには、まず個人投資家の金融リテラシーの向上が必要だ。
『元本保証で固定・高利回りの金融商品など、金融業界の常識としてはあり得ない』