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管理職なのに残業代を請求する。

2013-09-21 | 日記
管理職なのに残業代を請求する。

(1) 管理職≠「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)
 管理職であっても,労基法上の労働者である以上,原則として労基法37条の適用があります。
 週40時間,1日8時間を超えて労働させた場合,法定休日に労働させた場合,深夜に労働させた場合は,時間外労働時間,休日労働,深夜労働に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
 当該管理職が,労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば,労働時間,休憩,時間外・休日割増賃金,休日,賃金台帳に関する規定は適用除外となるため,その結果,労基法上,使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが,裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられます。
 中小企業の場合,管理監督者の実態を有する管理職は,取締役とされていることも多いところです。
 通常は,管理監督者扱いとすることで残業代の支払義務を免れることができると考えるべきではありません。

(2) 管理監督者と深夜割増賃金
 管理監督者であっても,深夜労働に関する規定は適用されますので,管理職が管理監督者であるかどうかにかかわらず,深夜割増賃金(労基法37条3項)を支払う必要があることに変わりはありません(ことぶき事件最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。

(3) 管理職からの残業代請求に対するリスク管理
 管理監督者としていた社員から労基法37条に基づく割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は,管理監督者とする管理職の範囲を狭く捉えて上級管理職に限定し,その他の管理職は最初から管理監督者としては取り扱わずに残業代を満額支給し,基本給や賞与等の金額を抑えることで,総賃金額を調整したほうが無難です。

(4) 管理職本人が残業代不支給に同意していたり,就業規則で管理職には残業代を支給しない旨定めたりした場合
 労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効となり,無効となった部分については労基法で定める基準が適用されます(労基法13条)。
 したがって,就業規則等で管理職には残業代を支給しない旨規定したり,管理職本人が残業代不支給に同意したりしていたとしても,直ちに残業代の支払義務を免れるわけではありません。

(5) 管理監督者の判断基準
 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,
 ① 職務の内容,権限及び責任の程度
 ② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
 ③ 待遇の内容,程度
等の要素を総合的に考慮して判断されます。
 ①職務の内容,権限及び責任の程度を検討するにあたっては,労務管理を含む事業経営上重要な事項にかかわっているか,事業経営に関する決定過程にどの程度関与しているか,現場業務(管理監督以外の仕事)にどの程度従事していたか,他の従業員の職務遂行・労務管理に対する関与の程度,管理監督者として扱われている社員の割合等が考慮されます。
 ②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度を検討するにあたっては,タイムカード等による始業終業時刻管理の有無,欠勤控除の有無等が考慮されます。
 ③待遇の内容,程度を検討するにあたっては,役職手当や賃金の額が役職に見合っているか,社内における賃金額の順位,管理職になった後の賃金総額と管理職になる前の賃金総額との比較等が考慮されます。

(6) 従来の一般的な判断基準とは異なる判断基準を用いて管理監督者該当性を判断する見解
 『労働法 第十版』(菅野和夫著)340頁は,「近年の裁判例をみると,管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち,『経営者と一体の立場にある者』,『事業主の経営に関する決定に参画し』については,これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ,それらを連携統合しているのであって,担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが『経営者と一体の立場』であると考えるべきである。そして,当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば,その管理を通して経営に参画することが『経営に関する決定に参画し』にあたるとみるべきである。最近の裁判例では,このような見地から判断基準をより明確化する試みも行われている。」としています。
 ゲートウェイ21事件東京地裁平成20年9月30日判決,プレゼンス事件東京地裁平成21年2月9日判決,東和システム事件東京地裁平成21年3月9日判決は,結論としてはいずれも管理監督者該当性を否定していますが「管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。」とした上で,具体的には,以下の①②③④の要件を満たすことが必要であるとしています。
 ① 職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
 ② 部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること
 ③ 管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
 ④ 自己の出退勤について,自ら決定し得る権限があること

(7) 平成20年9月9日付け基発第0909001号『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』
 平成20年9月9日付け基発第0909001号『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』は,下記のとおり,店舗の店長等の管理監督者性を否定する要素について整理しているものに過ぎず,同通達の否定要素がなければ店舗の店長等の管理監督者性が肯定されるというわけではありません。

1 「職務内容、責任と権限」についての判断要素
 店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。
(1) 採用
 店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(2) 解雇
 店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(3) 人事考課
 人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(4) 労働時間の管理
 店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

2 「勤務態様」についての判断要素
 管理監督者は「現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから、「勤務態様」については、遅刻、早退等に関する取扱い、労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により、次のように判断されるものであること。
(1) 遅刻、早退等に関する取扱い
 遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
 ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
(2) 労働時間に関する裁量
 営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(3) 部下の勤務態様との相違
 管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。

3 「賃金等の待遇」についての判断要素
 管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが、「賃金等の待遇」については、基本給、役職手当等の優遇措置、支払われた賃金の総額及び時間単価により、次のように判断されるものであること。
(1) 基本給、役職手当等の優遇措置
 基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(2) 支払われた賃金の総額
 一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(3) 時間単価
 実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』の注意点

2013-09-21 | 日記
平成20年9月9日付け基発第0909001号『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』の注意点を教えて下さい。

 平成20年9月9日付け基発第0909001号『多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』は,下記のとおり,店舗の店長等の管理監督者性を否定する要素について整理しているものに過ぎず,同通達の否定要素がなければ店舗の店長等の管理監督者性が肯定されるというわけではありません。

1 「職務内容、責任と権限」についての判断要素
 店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。
(1) 採用
 店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(2) 解雇
 店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(3) 人事考課
 人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
(4) 労働時間の管理
 店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

2 「勤務態様」についての判断要素
 管理監督者は「現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから、「勤務態様」については、遅刻、早退等に関する取扱い、労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により、次のように判断されるものであること。
(1) 遅刻、早退等に関する取扱い
 遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
 ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
(2) 労働時間に関する裁量
 営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(3) 部下の勤務態様との相違
 管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。

3 「賃金等の待遇」についての判断要素
 管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが、「賃金等の待遇」については、基本給、役職手当等の優遇措置、支払われた賃金の総額及び時間単価により、次のように判断されるものであること。
(1) 基本給、役職手当等の優遇措置
 基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(2) 支払われた賃金の総額
 一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
(3) 時間単価
 実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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従来の一般的な判断基準とは異なる判断基準を用いて管理監督者該当性を判断する見解

2013-09-21 | 日記
従来の一般的な判断基準とは異なる判断基準を用いて管理監督者該当性を判断する見解にはどのようなものがありますか?

 『労働法 第十版』(菅野和夫著)340頁は,「近年の裁判例をみると,管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち,『経営者と一体の立場にある者』,『事業主の経営に関する決定に参画し』については,これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ,それらを連携統合しているのであって,担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが『経営者と一体の立場』であると考えるべきである。そして,当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば,その管理を通して経営に参画することが『経営に関する決定に参画し』にあたるとみるべきである。最近の裁判例では,このような見地から判断基準をより明確化する試みも行われている。」としています。
 また,ゲートウェイ21事件東京地裁平成20年9月30日判決,プレゼンス事件東京地裁平成21年2月9日判決,東和システム事件東京地裁平成21年3月9日判決は,結論としてはいずれも管理監督者該当性を否定していますが「管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。」とした上で,具体的には,以下の①②③④の要件を満たすことが必要であるとしています。
 ① 職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
 ② 部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること
 ③ 管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
 ④ 自己の出退勤について,自ら決定し得る権限があること

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再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

2013-09-21 | 日記
再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

(1) 再雇用後の賃金水準に対する規制
 高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,パート労働法8条,労契法20条,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 定年後に再雇用された社員の賃金水準が定年退職前よりも下がるのはむしろ通常の話であり,社会通念に照らし,直ちに不当ということはできません。
 定年の延長や継続雇用の場合は手順を間違えると労働条件の不利益変更(労契法9条・10条参照)の問題となってしまうリスクがありますが,再雇用の場合はいったん定年退職し新たな労働契約を締結するわけですから,定年退職前の労働条件との関係では労働条件の不利益変更の問題とはならないと考えられます。
 再雇用後の適正な賃金水準について検討すべきだとは思いますが,再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がること自体は何ら問題ありません。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合はそれが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。

(2) 再雇用後の適正な賃金水準
 年金支給開始年齢が引き上げられていることを考慮すれば,賃金原資に余裕がない企業であっても,同業他社と同水準の賃金が払えないから再雇用自体を拒絶せざるを得ないといった発想で対処するのではなく,再雇用自体は認めた上で,体力に応じた金額の賃金を支給するようにすべきでしょう。
 再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が定年退職前と変わらないにもかかわらず,再雇用後の賃金が定年退職前よりも大幅に下がったのでは高年齢者の不満が大きくなりますから,賃金額を大幅に下げる場合は,再雇用後の勤務日数や勤務時間数を減らすとか(例えば週3日勤務にするとか1日4時間勤務にするといったことも考えられます。),業務の内容を正社員でなくてもできるような難易度の低いものにするとか,責任の軽い仕事を担当させるとか,職種や勤務地を限定するとかした上で,賃金額を下げる必要があります。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
 一定規模以上の会社の場合は,再雇用後の賃金水準は,定年前の50%~70%程度になることが多いようです。
 賃金原資に余裕があるのであれば,同業他社よりも高めの賃金設定でも構いません。
 
(3) 定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではありません。
 事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,定年退職者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に定年退職者が再雇用されなかったとしても,高年法違反となるものではありません。
 企業が定年退職者に提示した適正な賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合は,再雇用されなかったとしてもやむを得ないところです。
 企業ができることは,自社の体力,定年退職者の能力,再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等に見合った適正水準の賃金等の労働条件を提示するところまでであり,当該労働条件での再雇用を希望するかどうかは,定年退職者の選択に委ねられることになります。

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再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

2013-09-21 | 日記
再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

(1) 再雇用後の賃金水準に対する規制
 高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,パート労働法8条,労契法20条,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 定年後に再雇用された社員の賃金水準が定年退職前よりも下がるのはむしろ通常の話であり,社会通念に照らし,直ちに不当ということはできません。
 定年の延長や継続雇用の場合は手順を間違えると労働条件の不利益変更(労契法9条・10条参照)の問題となってしまうリスクがありますが,再雇用の場合はいったん定年退職し新たな労働契約を締結するわけですから,定年退職前の労働条件との関係では労働条件の不利益変更の問題とはならないと考えられます。
 再雇用後の適正な賃金水準について検討すべきだとは思いますが,再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がること自体は何ら問題ありません。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合はそれが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。

(2) 再雇用後の適正な賃金水準
 年金支給開始年齢が引き上げられていることを考慮すれば,賃金原資に余裕がない企業であっても,同業他社と同水準の賃金が払えないから再雇用自体を拒絶せざるを得ないといった発想で対処するのではなく,再雇用自体は認めた上で,体力に応じた金額の賃金を支給するようにすべきでしょう。
 再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が定年退職前と変わらないにもかかわらず,再雇用後の賃金が定年退職前よりも大幅に下がったのでは高年齢者の不満が大きくなりますから,賃金額を大幅に下げる場合は,再雇用後の勤務日数や勤務時間数を減らすとか(例えば週3日勤務にするとか1日4時間勤務にするといったことも考えられます。),業務の内容を正社員でなくてもできるような難易度の低いものにするとか,責任の軽い仕事を担当させるとか,職種や勤務地を限定するとかした上で,賃金額を下げる必要があります。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
 一定規模以上の会社の場合は,再雇用後の賃金水準は,定年前の50%~70%程度になることが多いようです。
 賃金原資に余裕があるのであれば,同業他社よりも高めの賃金設定でも構いません。
 
(3) 定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,定年退職者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に定年退職者が再雇用されなかったとしても,高年法違反となるものではありません。
 企業が定年退職者に提示した適正な賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合は,再雇用されなかったとしてもやむを得ないところです。
 企業ができることは,自社の体力,定年退職者の能力,再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等に見合った適正水準の賃金等の労働条件を提示するところまでであり,当該労働条件での再雇用を希望するかどうかは,定年退職者の選択に委ねられることになります。

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有期契約労働者が正社員と同じ待遇を要求する。

2013-09-21 | 日記
有期契約労働者が正社員と同じ待遇を要求する。

(1) 問題の所在
 有期契約労働者の労働条件は個別労働契約又は就業規則等により決定されるものであり,正社員と同じ待遇を要求することは認められないのが原則です。
 しかし,有期契約労働者が正社員と同じ仕事に従事し,同じ責任を負担しているにもかかわらず,単に有期契約というだけの理由で労働条件が低くなっているような場合には,「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を定めた労契法20条に違反,正社員と同じ待遇を要求することができるのではないかが問題となります。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
 労契法20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。

(2) 労契法20条の趣旨
 労契法20条は,使用者に対し,有期契約労働者と無期契約労働者の間の均等待遇を義務づけるものではありません。
 また,条文の表題からも明らかなように,労契法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で「期間の定めがあることによる」不合理な労働条件の相違を設けることを禁止する趣旨の規定であり,期間の定めを理由とした労働条件の相違については射程の範囲外です。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」でも,「法第20条は,有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合,その相違は,職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう。以下同じ。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものであること。」「したがって,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく,法第20条に列挙されている要素を考慮して『期間の定めがあること』を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものであること。」とされています。

(3) 労契法20条の禁止内容
 ア 期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,
 イ 有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違は,
   ① 労働者の業務の内容
   ② 当該業務に伴う責任の程度
   ③ 当該職務の内容(=①+②)及び配置の変更の範囲
   ④ その他の事情
  を考慮して,不合理と認められるものであってはならない
とされています。
 有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が期間の定めを理由としている場合に初めて労契法20条違反が問題となりますので,訴訟や労働審判においては,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理と認められるものかどうかだけでなく,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が期間の定めを理由としたものかについても問題となります。
 ①労働者の業務の内容,②当該業務に伴う責任の程度,③当該職務の内容及び配置の変更の範囲,④その他の事情は,それぞれ独立した要件ではなく,不合理性を判断する上で考慮される要素です。
 比較の対象となる「無期契約労働者」は正社員とは限らず,正社員以外に無期契約労働者がいる場合は,無期契約労働者が比較の対象となることも考えられます。
 また,労契法20条は,同一の使用者に雇用されている有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違に関する条文ですから,使用者が異なれば比較の対象にはなりません。
 不合理性の解釈にあたっては,「本条の『不合理と認められるものであってはならない』とは,有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件に比して単に低いばかりではなく,法的に否認すべき程度に不公正に低いものであってはならないとの趣旨を表現したものと解される。」(『労働法(第十版)』235頁)との有力な見解があります。

(4) 労契法20条違反の効果
 労契法20条は,違反の効果について「不合理と認められるものであってはならない。」と規定しており,使用者の行為規範としての性質を有することは明らかであり,使用者と労働組合との間の団体交渉等で活用されることが予想されますが,本条違反の効果について明確に規定されていないこともあり,裁判規範たり得るかについては検討を要します。
 本条が使用者の行為規範として作用する以上,同条に違反した場合に使用者が不法行為法上の義務違反ないしは労働契約上の債務不履行が認められ,他の要件を充たせば損害賠償責任を負う可能性があるとまではいえるものと思われます。
 問題は,本条に違反した労働条件を無効と解すべきか否か,無効となるとすると,無効とされた労働条件はどのような内容となるのかです。
 この点,基発0810第2号平成24年8月10日「労契法の施行について」は,「法第20条は,民事的効力のある規定であること。法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり,故意・過失による権利侵害,すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものであること。法第20条により,無効とされた労働条件については,基本的には,無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること。」としています。
 しかし,立法の際参考にされた特許法35条が,まずは3項において従業員等は一定の場合に「相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と定めた上で,同条4項において「契約,勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には,対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況,策定された当該基準の開示の状況,対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して,その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。」と定めているのとは異なり,労契法20条には,特許法35条3項に相当する条項(一定の労働条件を請求する権利を有する旨直接規定した条項)が存在しません。
 また,本条は,無効となった労働条件をどのように補充するのかについて具体的に規定しておらず,労働協約,就業規則,労働契約の解釈により,無効となった労働条件を補充する労働条件を導き出すことができる事案であれば,有期契約労働者は,当該労働条件の無効及びあるべき労働条件を主張立証していけばよいとも考えられますが,無効となった労働条件を補充する労働条件を導き出すことができない場合は,同条に違反した場合の労働条件を直ちに無効としてしまうと,不合理ながらも存在していた労働条件に関する合意すら効力がなくなってしまい,かえって有期契約労働者にとって不利益となりかねません。
 正社員等の無期契約労働者の労働条件が職務内容等に照らし高過ぎるような場合には,有期契約労働者の労働条件を引き上げたらかえって不合理に高い労働条件になってしまいますので,有期契約労働者の労働条件を引き上げるのではなく,不合理に高い労働条件となっている無期契約労働者の労働条件を引き下げた方が合理的な場合もあり得ます。
 労契法20条違反の効果に関しては,「労働条件分科会での議論をみれば,本条は,訓示規定にとどまるものではなく,私法上の効力をもつことを想定して構想されたといえる。つまり,『不合理』と認められた労働条件の定め(労働協約,就業規則,労働契約)は無効とされよう。」としつつ,「不合理性の判断に際して比較対象となった無期契約労働者の労働条件を定める就業規則等の基準が存しており,その合理的な解釈によって同基準を有期契約労働者にも適用できるような場合でなければ,無効と損害賠償の法的救済にとどめ,関係労使間の新たな労働条件の設定を待つべきであると考える。」(『労働法(第十版)』238頁~239頁)との有力な見解が存するところですが,本条違反の効果について明確に規定されていない以上,本条は単なる訓示規定に過ぎず,本条違反の労働条件も無効とはならないという解釈も成り立ち得るところです。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

2013-09-21 | 日記
トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

(1) 高年齢者雇用確保措置の概要
 高年法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
 ① 定年の引上げ
 ② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入
 ③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないと規定しています。

(2) 雇用確保措置の内容
 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると,平成22(2010)年において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,その内訳は以下のとおりです。
 ① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
 ② 継続雇用制度を導入した企業の割合   → 83.3%
 ③ 定年の定めを廃止した企業の割合    → 2.8%

(3) 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準
 改正前の高年法9条2項は,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定していました。
 平成25年4月1日施行の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが,平成25年4月1日の改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされています。
 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所において,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告の対象となる可能性があり,勧告を受けた者がこれに従わない場合は企業名が公表される可能性もあります(高年法10条)。
 健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべきです。
 「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する 調査」(2008)」によると,実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
 ① 健康上支障がないこと(91.1%)
 ② 働く意思・意欲があること(90.2%)
 ③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
 ④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
 ⑤ 一定の業績評価(50.4%)
 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労基法89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

(4) 高年法9条の私法的効力 
 高年法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。
 したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。
 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負う可能性があることに争いはありませんが,裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,継続雇用自体が認められるとするものもあります。
 津田電気計器事件最高裁第一小法廷平成24年11月29日判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。
 この最高裁判決は,定年退職後の嘱託社員を継続雇用しなかった事案に関するものであり,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案に関するものではありませんが,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案についても同様の判断がなされる可能性もあり,十分な検討が必要です。

(5) 希望者全員を継続雇用するという選択肢
 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては,
 ① 改正法施行前から継続雇用制度を採用していた会社で「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を維持する
 ② 再雇用自体は認めた上で,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により不都合が生じないようにすること
等が考えられます。
 継続雇用制度を維持した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める方法によりトラブルの多い社員の継続雇用を阻止することができればそれに越したことはありませんが,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みは原則として廃止されています。
 改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が引き上げられながらもなお効力を有するとされていますが,例外的制度であるという位置づけは否めません。
 また,基準を適用することによる継続雇用拒否は,紛争を誘発しがちです。
 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であること,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止される方向に向かっていることからすれば,原則どおり,希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得るのではないでしょうか。
 統計上も,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は,わずか2.0%に過ぎないとされています(「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」)。
 トラブルが多い点については,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。
 改正法では,継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大についても規定されていますので,そういった規定を活用することも考えられるところです。

(6) 継続雇用後の労働条件による調整
 高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合,それが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を,就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,高年法違反となるものではありません。
 したがって,トラブルの多い社員との間で,再雇用後の労働条件について折り合いがつかず,結果として継続雇用に至らなかったとしても,それが直ちに問題となるわけではありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

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