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管理職なのに部下を管理できない。

2015-09-17 | 日記

管理職なのに部下を管理できない。


 まずは,自分で仕事をこなす能力と,部下を管理する能力は,別の能力であることをよく理解した上で,人員の配置を行うことが重要です。
 自分で仕事をこなす能力が高い社員であっても,部下を管理する能力は低いということは,珍しくありません。

 部下を管理できない理由が,単なる経験不足によるものである場合は,部下の管理方法について指導しながら経験を積ませたり,研修を受けさせたりして教育することにより,管理職 としての育成を図れば足ります。
 当該社員が管理職 としての適性がないことが原因で部下を管理できない場合は,当該社員の能力でも対応できるレベルの管理職に降格させるか,管理職から外して対応するのが原則となります。

 人事権の行使としての降格処分は,就業規則等の根拠規定がなくても会社の裁量的判断により行うことができるのが原則です。
 ただし,その裁量も無限定のものではなく,相当な理由がないのに労働者に大きな不利益を課したような場合には,人事権の濫用により無効と判断されることがあります。

 賃金減額を伴う降格処分も行うことができますが,賃金の減額を伴う場合は,降格の効力を争われるリスクが比較的高くなります。
 賃金減額の程度は,人事権の濫用の有無を判断する際に考慮され,賃金減額の程度が大きい場合は人事権の濫用と判断されやすくなります。
 降格を行う必要性と賃金減額の相当性について,説明できるようにしておく必要があります。
 可能であれば,賃金減額を伴う降格に同意する旨の書面を取ってから降格させることが望ましいところです。

 新卒採用されて管理職に昇格した社員や,地位を特定しないで中途採用された社員については,部下を管理する能力に欠けていたとしても,平社員として最低限の勤務をする能力がない場合でない限り,解雇することはできません。
 初めから地位を特定して管理職として中途採用した社員については降格が予定されていないため,本人の同意を得ずに降格処分を行うことはできません。
 地位特定者については,原則として,降格ではなく解雇を検討することになります。

 部下に問題があるために上司が部下を管理できていない場合は,上司に任せきりにせず,組織として対応することが何よりも重要です。
 問題行動が多い部下がいることを役員等が知りながら,本腰で対策を練らずにそのまま放置した結果,問題をこじらせるケースが多くなっています。
 問題から逃げずに正面から向き合い,組織として対応すれば,余程難易度の高い事案でない限り,問題は解決に向かうという印象です。



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ソーシャルメディアに社内情報を書き込む。

2015-09-17 | 日記

ソーシャルメディアに社内情報を書き込む。


 ソーシャルメディアへの不適切な社内情報の書き込みを防止するための事前対応としては,ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを作成し,ガイドラインの遵守義務を就業規則で定めて周知させ,繰り返しガイドライン遵守の重要性を伝えること等が考えられます。

 就業時間内は,社員は職務専念義務を負っているため,書き込みの内容にかかわらず,就業時間内にソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることができます。
 また,社員は企業秩序遵守義務を負っているため,書き込みの内容にかかわらず,会社が所有し,社員に貸与しているパソコン等の通信機器を利用してソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることもできます。

 ソーシャルメディアに不適切と思われる社内情報の書き込みがなされていることが発見された場合,まずはその画面をプリントアウトしたりPDFに保存したりして,証拠を確保します。
 次に,ソーシャルメディアに書き込まれた社内情報の内容を検討し,ソーシャルメディアに対する当該書き込みの当否について検討します。
 会社にとって好ましくない内容の書き込みであれば,本人と話し合って削除させることになります。
 当該書き込みが,単に会社にとって好ましくないという程度にとどまらず,会社の名誉信用等を毀損したり,顧客のプライバシーを侵害したりするようなものである場合には,単に書き込みを削除させるだけでは足りず,十分な事実調査をした上,懲戒処分等の対応を検討せざるを得ません。

 事実関係の調査としては,本人からの事情聴取が中心となります。
 当該社員が書き込みを行ったということで間違いがないか,動機・目的,社内情報の取得経路,それ以外の社内情報の書き込みの有無等を聴取して書面にまとめます。
 聴取書は,当該社員に内容を確認させてから,その内容に間違いない旨記載させます。
 本人に事情説明書・始末書等を作成させて提出させるという方法も考えられますが,重要な事実関係の確認については,十分な事情聴取を行い,漏れがないようにしておく必要があります。
 書き込みを行った社員が作成・提出した事情説明書・始末書等の内容が不合理・不十分だったとしても,突き返して書き直させたりせずに,受領して会社で保管して下さい。
 事実関係の解明に役立つこともありますし,本人が不合理な弁解をしている証拠にもなります。
 不合理・不十分な点については,別途,追加説明を求めれば足ります。

 書き込み内容がインターネット上で拡散したり,ニュース報道されたりして会社に対する批判が高まった場合は,会社として謝罪を検討します。
 謝罪内容としては,社員教育を徹底し,再発防止に全力を尽くすこと等を約束することが多いです。

 書き込み内容の悪質性の程度に応じて,懲戒処分を検討します。
 労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められており,懲戒事由に該当する場合であっても,懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
 軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く,有効と判断されるケースが多いし,訴訟等で争われるリスクも低いです。
 他方,退職の効果を伴う懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については,訴訟等で争われるリスクが高く,無効と判断されるリスクを慎重に検討する必要があります。

 ソーシャルメディアへの書き込みにより会社が損害を被った場合は,書き込みを行った社員やその身元保証人に対し,損害賠償請求をすることも考えられますが,余程悪質な事案でない限り,思ったほどの賠償金を取得できないことが多いことが予想されます。
 また,損害の性質上,損害額の立証が困難なことが多いです。
 裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため,損害額の立証ができない場合であっても,損害が生じていることさえ立証することができれば,相当な損害額は認定してもらえますが,思ったほどの金額にならないことが多いものと思われます。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員がソーシャルメディアへの書き込みをした場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。

 営業秘密がソーシャルメディアに書き込まれた場合は,不正競争防止法に基づき,差止めや損害賠償請求をすることも考えられますが,同法の保護が及ぶ「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」をいい,
 ① 秘密管理性
 ② 有用性
 ③ 非公知性
の要件を満たす必要があります(不正競争防止法2条6項)。
 実際の事案では,①秘密管理性の有無が問題となることが多いです。
 不正競争防止法にいう営業秘密の要件としての秘密管理性が認められるためには,①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや,②当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要であるとか(東京地裁平成12年9月28日判決),少なくとも,これに接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることが必要である(東京地裁平成21年11月27日判決)とされています。
 社員の多くがアクセスできるような情報は,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であっても,①秘密管理性の要件を欠き,不正競争防止法では保護されません。



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解雇した社員が合同労組に加入し,団体交渉を求めてきたり,会社オフィス前などで街宣活動したりする。

2015-09-17 | 日記

解雇した社員が合同労組に加入し,団体交渉を求めてきたり,会社オフィス前や社長自宅前で街宣活動をしたりする。


 解雇 された社員であっても,解雇そのものまたはそれに関連する退職条件等が団体交渉 の対象となっている場合には,労働組合法第7条第2号の「雇用する労働者」に含まれるため,解雇された社員が加入した労働組合からの団体交渉を拒絶した場合,他の要件を満たせば不当労働行為となります。

 多数組合との間でユニオン・ショップ協定(雇われた以上は特定の組合に加入せねばならず,加入しないときは使用者においてこれを解雇するという協定)が締結されていたとしても,ユニオン・ショップ協定は多数組合以外の組合に社員が加入することを禁止するものではありませんから,社員が合同労組の組合員となった場合に,合同労組が社員を代表することができないことにはなりません。
 社内組合が唯一の交渉団体である旨の規定(唯一交渉団体条項)のある労働協約が締結されていたとしても,団体交渉拒否の正当な理由とはなりません。
 社外の合同労組からの団体交渉申入れであっても,原則として応じる必要があります。

 会社オフィス付近での街宣活動が正当な組合活動と評価される場合には,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等をすることはできません。
 他方,正当な組合活動を逸脱するようなものについては,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等が認められます。

 労働組合が組合員の経済的地位の向上をはかる目的で,会社の経営方針や企業活動を批判する場合,文書の表現が激しかったり,多少の誇張が含まれているとしても,なお正当な組合活動といえ,そのために会社が多少の不利益を受けたり,社会的信用が低下することがあっても,会社としてはこれを受忍すべきものと判断される可能性が高いものと思われます。
 しかし,組合活動としてなされる文書活動であっても,虚偽の事実や誤解を与えかねない事実を記載して,会社の利益を不当に侵害したり,名誉,信用を毀損,失墜させたり,あるいは企業の円滑な運営に支障を来たしたりするような場合には,組合活動として正当性の範囲を逸脱すると評価することができ,懲戒処分,損害賠償請求等の対象となります。
 ビラ配りがなされた場合は,ビラを確保してビラの内容をチェックして下さい。

 労働組合またはその組合員が,使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは,原則として使用者の施設管理権を不当に侵害するものであり,正当な組合活動とはいえません。
 会社敷地内での組合活動であっても,一般人が自由に立ち入ることができる格別会社の職場秩序が乱されるおそれのない場所での組合活動は,使用者の施設管理権を不当に侵害するものとはいえないと評価される可能性が高いものと思われます。

 労働組合の諸権利は企業経営者の私生活の領域までは及びません。
 労働組合の活動が企業経営者の私生活の領域において行われた場合には,企業経営者の住居の平穏や地域社会における名誉・信用という具体的な法益を侵害しないものである限りにおいて,表現の自由の行使として相当性を有し,容認されることがあるにとどまります。



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社員を引き抜いて,同業他社に転職する。

2015-09-17 | 日記

社員を引き抜いて,同業他社に転職する。


 在職中は,労働契約上の誠実義務として,同業他社に勤務したり,自ら同業他社を経営したりすることは当然禁止されますが,退職後は,競業避止特約がある場合に限り,合理的な範囲内においてのみ競業が禁止されることになります。
 特約がない場合であっても,労働契約継続中に獲得した取引の相手方に関する知識を利用して,使用者が取引継続中のものに働きかけをして競業を行うことは許されず,そのような働きかけをした場合には,労働契約上の債務不履行となるとする裁判例(チェスコム秘書センター事件東京地裁平成5年1月28日判決)もありますが,競業自体というより,取引先への働きかけが問題とされたものと考えておいた方が,穏当なのではないかと思います。

 社員が退職後の競業避止義務を定めた誓約書を提出したとしても,競業の制限が合理的範囲を超え,職業選択の自由,営業の自由を不当に制限するものである場合は,公序良俗に反し無効となります。
 退職後の競業の制限が合理的範囲を超えるか否かは,「制限の期間,場所的範囲,制限の対象となる職種の範囲,代償の有無等について,債権者の利益(企業秘密の保護),債務者の不利益(転職,再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ,それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する」(フォセコ・ジャパン・リミテッド事件奈良地裁昭和45年10月23日判決)と考えるのが一般的です。

 個別の同意がない場合であっても,退職後の競業避止義務を就業規則に定めれば,その内容が合理的なものである限り,退職後の競業避止義務を課すことができます。
 また,就業規則の服務規律に在職中の引き抜き行為を禁止する旨定め,在職中の引き抜き行為を懲戒解雇 事由として規定しておくべきでしょう。

 退職金の不支給・減額・返還事由として,退職後の競業避止義務に違反した場合や懲戒解雇事由に該当する場合を規定しておくことも考えられます。
 当該個別事案において,退職金不支給・減額の合理性がある場合には,退職金を不支給または減額したり,支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができることになります。

 退職金の不支給・減額・返還の合理性の有無は,
① 退職金の性格の中に功労報奨金的要素の占める度合いがどの程度か
② 会社の損害,額の大きさ,会社において営業努力により回避できるか,不可避なものか
③ 労働者の背信性の存否等
等を考慮して判断されることになります。

 競業避止義務に違反したというだけでは,会社の損害の有無,損害との間の因果関係の立証が困難なことが多く,損害賠償請求は必ずしも容易ではありません。
 従業員の引抜行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえず,転職の勧誘が引き抜かれる側の会社の幹部従業員によって行われたとしても,直ちに雇用契約上の誠実義務に違反した行為と評価することはできません。
 ただし,退職時期を考慮し,あるいは事前の予告を行う等,会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきであり,会社に内密に移籍の計画を立て一斉,かつ,大量に授業員を引き抜く等,その引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え,社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には,それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして,債務不履行あるいは不法行為責任を負うことになります。
 社会的相当性を逸脱した引抜行為であるか否かは,転職する従業員のその会社に占める地位,会社内部における待遇及び人数,従業員の転職が会社に及ぼす影響,転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無,秘密性,計画性等)等諸般の事情を総合考慮して判断されます。

 ある企業が競争企業の従業員に自社への転職を勧誘する場合,単なる転職の勧誘を越えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いた場合には,その企業は雇用契約上の債権を侵害したものとして,不法行為として引抜行為によって競争企業が受けた損害を賠償する責任があります。
 ただし,社員には退職・転職の自由が認められているため,社員の自由な意思による退職・転職に伴って会社に発生する損害については,原則として損害賠償請求することはできません。
 転職の多い業界,代替人材の確保が容易な業界における引き抜きについては,それが違法なものであったとしても,会社の主張する損害の一部しか相当因果関係を認めてもらえないことが多いというのが実情です。



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営業秘密を漏洩する。

2015-09-17 | 日記

営業秘密を漏洩する。


 社員は,在職中・退職後いずれについても,労働契約の付随義務として当然に守秘義務を負っていると考えられますが,それを明確にして自覚を促すため,諸規定を整備し,誓約書を取っておくことが重要です。

 社員が営業秘密を漏洩したと思われるような事案であっても,損害賠償請求は必ずしも容易ではありません。
 事後的な損害賠償請求が容易ではないことを念頭に置いて,事前の営業秘密漏洩防止に力を入れるべきです。

 社員が営業秘密を漏洩したことを立証することは,必ずしも容易ではありません。
 事情をよく聞かないうちに,退職してしまうこともあります。

 損害の性質上,損害額の立証が極めて困難なことが多いという印象です。
 裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため,損害額の立証ができない場合であっても,損害が生じていることさえ立証することができれば,相当な損害額は認定してもらえますが,思ったほどの金額にならないことが多いというのが実情です。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員が営業秘密を漏洩した場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。

 不正競争防止法に基づき,差止めや損害賠償請求をすることが考えられますが,同法の保護が及ぶ「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」をいい,
① 秘密管理性
② 有用性
③ 非公知性
の要件を満たす必要があります(不正競争防止法2条6項)。

 実際の事案では,①秘密管理性の有無が問題となることが多いです。
 不正競争防止法にいう営業秘密の要件としての秘密管理性が認められるためには,①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや,②当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要であるとか(東京地裁平成12年9月28日判決),少なくとも,これに接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることが必要である(東京地裁平成21年11月27日判決)とされています。
 社員の多くがアクセスできるような情報は,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であっても,①秘密管理性の要件を欠き,不正競争防止法では保護されないことになります。



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業務上のミスを繰り返して,会社に損害を与える。

2015-09-17 | 日記

業務上のミスを繰り返して,会社に損害を与える。


1 募集採用活動の重要性
 業務上のミスを繰り返す社員を減らす一番の方法は,採用活動を慎重に行い,応募者の適性・能力等を十分に審査して基準を満たした者のみを採用することです。採用活動の段階で手抜きをして,十分な審査をせずに採用したのでは,業務内容が単純でマニュアルや教育制度がよほど整備されているような会社でない限り,業務上のミスを減らすことは困難です。


2 採用後の対応
 採用後の社員による業務上のミスの対策としては,社員の適性に合った配置,人事異動,注意指導,教育,人事考課,保険加入によるリスク管理等が中心であり,退職勧奨や解雇は能力不足の程度が甚だしく改善の見込みが低い場合に限定して検討するのが原則です。
 ただし,地位や職種が特定されて採用された社員については,基本的には配置転換する義務はありませんし,賃金額が高い場合には能力を向上させるために教育する必要はないと解釈される傾向にあります。当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,退職勧奨や普通解雇を検討するのが原則となります。
 事業主は労働者を使用することにより得られる利益を享受する以上,損失についても事業主が負担すべきとの考え(報償責任の原則)が一般的であり,過失によるうっかりミスについては損害賠償請求はなかなか認められませんし,損害賠償請求が認められる事案であっても,支払が命じられるのは損害額の一部にとどまることも多く,実際の回収作業にも困難を伴うことは珍しくありません。基本的には,業務上のミスによる損害を当該社員に対する損害賠償請求で填補できるものとは考えるべきではありません。


3 退職勧奨
 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,十分に注意指導,教育しても改善の見込みが低い場合には,会社を辞めてもらうほかありませんので,退職勧奨や普通解雇を検討することになります。解雇 が有効となる見込みが高い程度に業務上のミスの程度・頻度が著しい事案では,解雇するまでもなく,合意退職が成立することも珍しくありません。
 他方,業務上のミスの程度・頻度がそれほどでもなく解雇が有効とはなりそうもない事案,誠実に勤務する意欲や能力が低い等の理由から転職が容易ではない社員の事案,本人の実力に見合わない適正水準を超えた金額の賃金が支給されていて転職すればほぼ間違いなく当該社員の収入が減ることが予想される事案等で退職届を提出させるのは,難易度が高くなります。
 能力不足により引き起こされる業務上のミスを理由として懲戒解雇を行うことはできませんので,懲戒解雇を示唆して退職届を提出させた場合には,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等の主張が認められて退職が無効となったり,取り消されたりするリスクが高いものと思われます。
 退職するつもりはないのに,反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は,心裡留保(民法93条)により,退職は無効となることがあります。


4 解雇
 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが低い場合には,退職勧奨と平行して普通解雇を検討します。普通解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用に当たらないというためには,解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど当該社員の業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じているため,労働契約で求められている能力が欠如していると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に解雇に値すると考えただけでは足りず,単に思ったよりもミスが多く,見込み違いであったというだけでは,解雇は認められません。
 長期雇用を予定した新卒採用者については,社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているため,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたとしても直ちに労働契約で求められている能力が欠如していることにはならず,解雇は例外的な場合でない限り認められません。一般的には,勤続年数が長い社員,賃金が低い社員は,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は,一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
 地位や職種が特定されて採用された社員については,当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,労働契約で求められている能力が欠如しているものとして,普通解雇が認められやすくなります。ただし,解雇が比較的緩やかに認められる前提として,地位や職種が特定されて採用された事実や,当該地位や職種に要求される能力を主張立証する必要がありますので,できる限り労働契約書に明示しておくようにしておいて下さい。
 業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを,業務ミスがあった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。抽象的に「業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えた。」と言ってみてもあまり意味はありませんし,「彼(女)が業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたことは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを主張立証するのには困難を伴うことが多くなります。


5 損害賠償請求
 社員の業務上のミスにより会社が損害を被った場合には,社員に対して損害賠償請求(民法415条・709条)することができる可能性がありますが,社員に軽過失しかない場合(故意重過失がない場合)には免責される傾向にあります。
 社員に損害賠償義務が認められる場合であっても,賠償義務を負う損害額は損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度にとどまるため,故意によるものでない限り,社員に対し請求できる損害額は全体の一部にとどまることが多いというのが実情です。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員がミスした場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。
 損害賠償金負担の合意が成立した場合は,「書面」で支払を約束させ,会社名義の預金口座に振り込ませるか現金で現実に支払わせて下さい。賃金から天引きすると,賃金全額払の原則(労基法24条1項)に違反するものとして,天引き額分の賃金の支払を余儀なくされる可能性があります。
 損害額が軽微な場合は,賞与額の抑制,昇給の停止等で対処すれば足りる場合もあります。
 月例賃金を減額して実質的に損害賠償金を回収ようとする事案が散見されますが,賃金減額の有効性を争われて差額賃金の請求を受けることが多いですし,退職されてしまった場合には回収が困難となるため,お勧めしません。
 社員に対し損害賠償請求できる場合であっても,身元保証人に対し同額の損害賠償請求できるとは限りません。裁判所は,身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき社員の監督に関する会社の過失の有無,身元保証人が身元保証をなすに至った事由及びこれをなすに当たり用いた注意の程度,社員の任務又は身上の変化その他一切の事情を斟酌するものとされており(身元保証に関する法律5条),賠償額がさらに減額される可能性があります。身元保証の最長期間は5年であり(身元保証に関する法律2条1項),自動更新の合意は無効と考えるのが一般的です(同法6条参照)。



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会社の業績が悪いのに,賃金減額に同意しない。

2015-09-17 | 日記

会社の業績が悪いのに,賃金減額に同意しない。


1 賃金減額の方法
 賃金減額の方法としては,
 ① 労働協約の締結
 ② 就業規則の変更
 ③ 個別合意
によることが考えられます。


2 労働協約の締結による賃金減額
 労働組合との間で賃金に関する労働協約を締結した場合,それが組合員にとって有利であるか不利であるか,当該組合員が賛成したか反対したかを問わず,労働協約で定められた賃金額が労働契約で定められた賃金額に優先して適用されるのが原則です(労組法16条)。したがって,労働者が賃金減額に反対していたとしても,当該労働者が加入している労働組合との間で賃金を減額することを内容とする労働協約を締結すれば,賃金を減額することができます。労働協約の規範的効力が及ぶ範囲は原則として組合員との範囲と一致し,労働協約締結後に組合員となった者にも組合加入時から労働協約の規範的効力が及びますが,労働組合を脱退した場合には離脱の時点から労働協約の規範的効力は及ばなくなります。労働協約が締結されるに至った経緯,当時の会社の経営状態,同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らし,同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合には,その規範的効力を否定され(朝日海上火災保険(石堂・本訴)事件最高裁平成9年3月27日第一小法廷判決),賃金減額の効力が生じません。
 労働協約締結による賃金減額の効力が及ぶのは,原則として労働協約を締結した労働組合の労働組合員に限られることになりますが,労働協約には,労組法17条により,一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは,当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められており,この要件を満たす場合には,賃金減額に反対する未組織の同種労働者に対しても労働協約の効力を及ぼし,賃金を減額することができます。労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容,労働協約が締結されるに至った経緯,当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし,当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼし,賃金を減額することはできません(朝日海上火災保険(高田)事件最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決)。少数組合に加入している組合員に対しては,労組法17条の一般的拘束力は及びません。
 具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約により処分又は変更することは許されません(香港上海銀行事件最高裁平成元年9月7日第一小法廷判決)。
 労働協約を締結することができない場合や労働協約の効力が及ばない労働者の賃金を減額する方法としては,就業規則変更又は個別同意による賃金減額が考えられます。


3 就業規則の変更による賃金減額
 就業規則の変更により賃金を減額する場合は,就業規則の不利益変更に該当するため,就業規則の変更が有効となるためには,以下のいずれかの場合である必要があります。
 ① 労働者と合意して就業規則を変更したとき(労契法9条反対解釈)
 ② 変更後の就業規則を周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき(労契法10条)
 ①に関し,「就業規則の不利益変更は,それに同意した労働者には同法9条によって拘束力が及び,反対した労働者には同法10条によって拘束力が及ぶものとすることを同法は想定し,そして上記の趣旨からして,同法9条の合意があった場合,合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないと解される。」(協愛事件大阪高裁平成22年3月18日判決)との見解が妥当と思われますが,労働者の同意があれば合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないとの見解に立ったとしても,合意の認定は慎重になされるのが通常のため,労働者が就業規則の変更を提示されて異議を述べなかったといったことだけでは不十分であり,最低限,書面による同意を取る必要があります。また,合理性に乏しい就業規則の規定の変更については,書面による同意を取ったとしても,労働者の同意があったとは認定されないリスクが高いものと思われます。
 ②に関し,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるとされています(大曲市農協事件最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)。
 具体的に発生した賃金請求権を事後に変更された就業規則の遡及適用により処分又は変更することは許されません(香港上海銀行事件最高裁平成元年9月7日第一小法廷判決)。


4 個別合意による賃金減額
 個別合意よりも社員に有利な労働条件を定めた労働協約,就業規則が存在する場合には,それらの効力が個別合意に優先するため(労組法16条,労契法12条),個別合意だけでは賃金減額の効力は生じず,労働協約,就業規則を変更して初めて賃金減額の効力が生じることになります。
 個別合意よりも社員に有利な労働条件を定めた労働協約,就業規則が存在しない場合は,個別合意により賃金減額の効力が生じることになりますが,賃金減額に対する社員の同意の認定は慎重になされることが多いため「口頭」での同意では同意なしと認定されるリスクが高いものと思われます。賃金減額に対する社員の同意は「書面」で取るようにして下さい。
 「既発生の」賃金債権の減額に対する同意の意思表示は,既発生の賃金債権の一部を放棄することにほかなりません(北海道国際空港事件最高裁平成15年12月18日第一小法廷判決参照)。労基法24条1項に定める賃金全額払の原則の趣旨に照らせば,既発生の賃金債権を放棄する意思表示の効力を肯定するには,それが社員の自由な意思に基づいてされたものであることが明確でなければなりません(シンガーソーイングメシーン事件最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決参照)。既発生の賃金債権を放棄する意思表示が,社員の自由な意思に基づいてされたものであることが明確なものではなく,社員の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したということができない場合には,既発生の賃金債権を放棄する意思表示としての効力を肯定することはできません。
 「未発生の」賃金債権の減額に対する同意についても「賃金債権の放棄と同視すべきものである」とする下級審裁判例もありますが,「未発生の」賃金債権の減額に対する同意は,労働者と使用者が合意により将来の賃金額を変更した(労契法8条参照)に過ぎず,賃金債権の放棄と同視することはできないのですから,通常の同意で足りると考えるべきであり,それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものであることが明確であることまでは要件とされないものと考えます。
 北海道国際空港事件最高裁平成15年12月18日第一小法廷判決が,「原審は,上告人が平成13年7月25日に減額された賃金を受け取り,その後同年11月まで異議を述べずに減額された賃金を受け取っていた事実によれば,同年7月1日にさかのぼって賃金が減額されることも,上告人はやむを得ないものとしてこれに応じたものと認めることができると認定した。すなわち,原審は,上告人が平成13年7月25日に同月1日以降の賃金減額に対する同意の意思表示をしたと認定したのであるが,この意思表示には,同月1日から24日までの既発生の賃金債権のうちその20%相当額を放棄する趣旨と,同月25日以降に発生する賃金債権を上記のとおり減額することに同意する趣旨が含まれることになる。しかしながら,上記のような同意の意思表示は,後者の同月25日以降の減額についてのみ効力を有し,前者の既発生の賃金債権を放棄する効力は有しないものと解するのが相当である。」 と判示し,未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示の効力を肯定しているのは,既発生の賃金債権の減額(放棄)に対する同意の意思表示の効力を肯定するための要件と未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示の効力を肯定するための要件を明確に区別し,未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示の効力を肯定するための要件としては,それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものであることが明確でなければならないことを要求していないからであると考えられます。


5 定期昇給凍結
 就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められている場合に定期昇給を凍結するためには,定期昇給を凍結する旨の労働協約を締結するか,定期昇給を凍結する旨就業規則の附則に定める等の就業規則の変更が必要となります。
 労働協約を締結できず,定期昇給を凍結する旨の就業規則の変更に関し同意が得られない場合は,就業規則変更により一方的に労働条件の変更をせざるを得ませんが,その合理性(労契法10条)の有無が問題となります。
 就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められておらず,使用者に定期昇給の努力義務が課せられているに過ぎない場合は,定期昇給をしなくても法的問題はありません。


6 ベースアップ凍結
 ベースアップは労使交渉により特段の決定がなされない限り行う必要がありません。


7 賞与不支給
 個別労働契約,就業規則,労働協約で一定額・割合の賞与を支給する義務が定められていない場合には,使用者には賞与を支給する義務がないため,賞与を支給しなくても法的には問題がありません。
 一定額以上の賞与支給が労使慣行になっているとして賞与請求がなされることがありますが,労使慣行の成立が認められるケースは多くありません。民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには,
 ① 同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと
 ② 労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないこと
 ③ 当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていること
が必要であり,使用者側においては,当該労働条件についてその内容を決定しうる権限を有している者又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことが必要です(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件最高裁平成7年3月9日第一小法廷判決,同事件大阪高裁平成5年6月25日判決参照)。
 他方,一定額・割合の賞与を支給する義務が定められている場合は,賞与を支給する義務があります。就業規則の定めを変更して賞与不支給とする場合には,就業規則の不利益変更の問題となるため,就業規則変更の高度の合理性の有無が問題となります。


8 諸手当の廃止,支給停止
 賃金規程で定められた諸手当を廃止したり支給を停止したりする場合は,賃金規程を変更したり附則に支給を停止する旨定めたりする必要があり,就業規則の不利益変更の問題となります。


9 年俸額の引下げ
 年俸制を採用した場合に,年度途中で年俸額を一方的に引き下げることができるか,次年度の年俸額引下げを求めたところ合意が成立しない場合における次年度の年俸額がどうなるかは,当該労働契約の解釈の問題です。トラブルを予防するためにも,労働契約上明確にしておくべきでしょう。
 一般的には,年度途中で年俸額を一方的に引き下げることはできないケースが多いものと思われます。
 次年度の年俸額引下げを求めたところ合意が成立しない場合における次年度の年俸額については,使用者の提示額を超えては請求できないとされた裁判例,前年度実績の年俸額を支給すべきものとされた裁判例等があり,事案により結論が別れています。

10 休業時の賃金カット
 会社の業績が悪いことを理由とした休業がなされた場合は,通常は使用者の責めに帰すべき事由があると言わざるを得ないため,平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります(労基法26条)。
 労基法は労働協約,就業規則,個別合意に優先して適用されますので(労契法13条,労基法13条・92条),使用者の責めに帰すべき事由による休業がなされた場合における休業手当(労基法26条)の支払義務は,労働協約,就業規則,個別合意により排除することはできません。
 民法536条2項は任意規定であり特約で排除することができますので,民法536条2項の適用を排除し平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨の労働協約が締結された場合には,当該労働組合の組合員については,平均賃金の60%の休業手当を支払えば足ります。
 民法536条2項は任意規定であり特約で排除することができますので,民法536条2項の適用を排除し平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨就業規則や労働契約に定めた場合には,理論的には平均賃金の60%の休業手当を支払えば足りるはずですが,裁判所は,就業規則等による民法536条2項の適用除外について慎重に判断する傾向にあります。
 例えば,いすゞ自動車(雇止め)事件東京地裁平成24年4月16日判決は,休業手当に関し,就業規則に「臨時従業員が,会社の責に帰すべき事由により休業した場合には,会社は,休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」と定められている事案において,「被告は,本件休業に係る休業手当額を平均賃金の6割にすることについては,第1グループ原告らとの間の労働契約及び臨時従業員就業規則43条により,その旨の個別合意が存在し,この合意は本件休業の合理性を基礎付ける旨主張する。しかし,上記の規定は,労働基準法26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって,民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないから,被告の上記主張は,その前提を欠くというべきである。」 と判示しており,民法536条2項の適用除外を認めていません。
 就業規則や労働契約により民法536条2項の適用を排除するためには,単に休業期間中は平均賃金の60%の休業手当を支払うとだけ就業規則や労働契約に規定するのではなく,民法536条2項の適用を排除する旨明確に規定しておくべきでしょう。もっとも,就業規則や労働契約に民法536条2項の適用を排除する旨明確に規定したとしても,就業規則の合理性や合意の効力が問題とされる可能性は残されています。
 少数組合の組合員など労働協約の効力が及ばない社員に対し平均賃金の60%の休業手当を超えて賃金を支払う必要があるかどうかについては,従来,民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」の存否の問題として争われてきました。
 例えば,いすゞ自動車事件宇都宮地裁栃木支部平成21年5月12日決定は,使用者が労働者の正当な(労働契約上の債務の本旨に従った)労務の提供の受領を明確に拒絶した場合(受領遅滞に当たる場合)に,その危険負担による反対給付債権を免れるためには,その受領拒絶に「合理的な理由がある」など正当な事由があることを主張立証すべきであり,その合理性の有無は,具体的には,使用者による休業によって労働者が被る不利益の内容・程度,使用者側の休業の実施の必要性の内容・程度,他の労働者や同一職場の就労者との均衡の有無・程度,労働組合等との事前・事後の説明・交渉の有無・内容,交渉の経緯,他の労働組合又は他の労働者の対応等を総合考慮して判断すべきものとしています。



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虚偽の内部告発をして,会社の名誉・信用を毀損する。

2015-09-17 | 日記

虚偽の内部告発をして,会社の名誉・信用を毀損する。


 労働契約上,社員は,会社の名誉信用等を害して職場秩序に悪影響を与え,業務の正常な運営を妨げるような行為をしない義務を負っていると考えられますが,それを明確にするために,その旨,就業規則に規定しておくべきです。

 虚偽の内部告発については,その程度に応じて,注意,指導,懲戒処分を検討することになりますが,公益通報者保護法,言論表現の自由との関係を検討する必要があります。

 公益通報者保護法との関係では,
① 公益通報をしたことを理由とする解雇 の無効(3条)
② 公益通報をしたことを理由とする労働者派遣 契約の解除の無効(4条)
③ 公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止(5条)
が問題となります。
 これらは,公益通報をしたことを理由とする解雇,労働者派遣契約の解除,不利益取扱いを禁止するものに過ぎず,公益通報をしたからといって,公益通報をしたこと以外の事実を理由とする解雇,労働者派遣契約の解除,不利益処分ができなくなるわけではありません。

 「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的」を有する内部告発は「公益通報」(2条)に該当しないため,公益通報者保護法では保護されません。

 公益通報者保護法が保護の対象とする同法2条3項所定の「通報対象事実」とは,刑法,食品衛生法,証券取引法,個人情報保護法等の同法2条別表に掲記の通報対象法律において犯罪行為として規定されている事実と犯罪行為と関連する法令違反行為として規定されている事実に限定されており,通報対象法律以外の法律に規定された犯罪行為やその犯罪行為と関連する法令違反行為の事実,通報対象法律において最終的にその実効性が刑罰により担保されていない規定に違反する行為の事実は該当しません。
 公益通報者保護法の保護を受けようとする社員は,その法令違反行為が,いかなる通報対象法律において犯罪行為として規定される事実と関連する法令違反行為であるのかを明らかにする必要があります。

 「当該労務提供先等に対する公益通報」(勤務先,派遣先等に対する公益通報)が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合」であれば足ります。
 「当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報」が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」である必要があります。
 「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報」(マスコミ等に対する公益通報)が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり,かつ,次のいずれかに該当する場合」であることが必要となります。
① 労務提供先等,行政機関等に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
② 労務提供先等に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され,偽造され,又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
③ 労務提供先等から労務提供先等,行政機関等に対する公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
④ 書面により勤務先等に対する公益通報をした日から20日を経過しても,当該通報対象事実について,当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
⑤ 個人の生命又は身体に危害が発生し,又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

 公益通報者保護法が保護の対象とならない内部告発についても,言論表現の自由との関係で保護されることがあります。
① 内部告発事実(根幹的部分)が真実ないしは原告が真実と信ずるにつき相当の理由があるか否か(「真実ないし真実相当性」)
② その目的が公益性を有している否か(「目的の公益性」)
③ 労働者が企業内で不正行為の是正に努力したものの改善されないなど手段・態様が目的達成のために必要かつ相当なものであるか否か(「手段・態様の相当性」)
を総合考慮して,当該内部告発が正当と認められる場合には,仮にその告発事実が誠実義務等を定めた就業規則の規定に違反する場合であっても,その違法性は阻却されるとする裁判例があります(学校法人田中千代学園事件東京地裁平成23年1月28日判決)。

 公益通報者保護法の適用がない場合であっても,正当な内部告発を理由とする懲戒処分等は無効となり,正当な内部告発に対する注意・指導については不当なものと評価されることになります。
 場合によっては,これらが不法行為法上において違法と評価されるリスクも生じかねません。

 内部告発が正当なものとはいえなかったとしても,出向命令権濫用法理(労働契約法14条),懲戒権濫用法理(同法15条),解雇権濫用法理(同法16条)が適用されるため,直ちに出向命令,懲戒処分,解雇が有効となるわけではないことには注意が必要です。
 原則どおり,これらの法理の有効要件を満たすか検討する必要があります。



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派手な化粧・露出度の高い服装で出社する。

2015-09-17 | 日記

派手な化粧・露出度の高い服装で出社する。


 化粧・服装等の身だしなみは,本来,私的領域に属する問題ですが,職場では労働契約上の制約を受けます。
 使用者は,化粧・服装等の身だしなみに関し規律を定めることができ,それが職種や業務内容に照らし必要かつ合理的なものである場合には,社員はその規律に従う義務を負うことになります。

 化粧・服装等の身だしなみの問題は,基本的には注意,指導して改善させるべき問題です。
 業務遂行にどのような支障が生じるのか,よく説明して指導する必要があります。

 長期間,派手な化粧・露出度の高い服装での出社を認めてきた職場で注意しても,素直に指示に従ってもらえないことが多いというのが実情です。
 問題を把握したら,早期かつ平等に対処することが重要です。

 どのように指導するかということだけでなく,誰が指導するかということも重要です。
 あの上司の言うことなら聞くが,この上司の言うことは聞きたくないということもあり得ます。
 直属の上司の指導力が不足している場合は,直属の上司に任せきりにせず,組織として対応すべきです。

 男性の上司が女性の身だしなみについて指導する場合,指導をセクハラ だと言われることがありますが,職種や業務内容に照らして必要かつ合理的な身だしなみの指導はセクハラではありません。
 ただし,普段,性的な事柄に関しふざけた発言を繰り返しているような上司が指導しても,納得してもらいにくいという事実上の問題はあるかもしれません。
 一概には言えませんが,女性の上司・先輩が指導した方がうまくいくこともあります。
 上司の指導をパワハラと言い出す社員もいますが,職種や業務内容に照らして必要かつ合理的な身だしなみの指導はパワハラ ではありません。

 口頭で注意,指導しても改善しない場合は,書面で注意,指導することになります。
 書面で注意指導しても改善しない場合には,懲戒処分を検討せざるを得ませんが,職場秩序を乱した程度と懲戒処分の重さのバランスに気をつける必要があります。
 特に解雇は慎重に行うようにして下さい。
 余程の事情がない限り,解雇 は無効とされるリスクが高いというのが実情です。



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社外の合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり,会社オフィスの前でビラ配りしたりする。

2015-09-17 | 日記

社外の合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり,会社オフィスの前でビラ配りしたりする。


 社内の過半数組合との間でユニオン・ショップ協定(雇われた以上は特定の組合に加入せねばならず,加入しないときは使用者においてこれを解雇 するという協定)が締結されている会社の場合,ユニオン・ショップ協定を理由に,社内の労働組合を脱退して社外の合同労組に加入した社員を解雇することができないか検討したくなるかもしれませんが,「ユニオン・ショップ協定のうち,締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は,右の観点からして,民法90条の規定により,これを無効と解すべきである(憲法28条参照)。」とするのが最高裁判例(三井倉庫港運事件最高裁第一小法廷平成元年12月14日判決)ですので,ユニオン・ショップ協定を理由に,当該社員を解雇することはできません。

 社外の合同労組からの団体交渉 申入れであっても,原則として応じる必要があります。
 社内組合が唯一の交渉団体である旨の規定(唯一交渉団体条項)のある労働協約が締結されていたとしても,団体交渉拒否の正当な理由とはならず,団交拒否は不当労働行為となります。

 会社オフィス付近での街宣活動が正当な組合活動と評価される場合には,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等をすることはできません。
 他方,正当な組合活動を逸脱するようなものについては,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等が認められることになります。

 労働組合が組合員の経済的地位の向上をはかる目的で,会社の経営方針や企業活動を批判する場合,文書の表現が激しかったり,多少の誇張が含まれているとしても,なお正当な組合活動といえ,そのために会社が多少の不利益を受けたり,社会的信用が低下することがあっても,会社としてはこれを受忍すべきものと判断される可能性が高いものと思われます。
 しかし,組合活動としてなされる文書活動であっても,虚偽の事実や誤解を与えかねない事実を記載して,会社の利益を不当に侵害したり,名誉,信用を毀損,失墜させたり,あるいは企業の円滑な運営に支障を来たしたりするような場合には,組合活動として正当性の範囲を逸脱すると評価することができ,懲戒処分,損害賠償請求等の対象となります。
 ビラ配りがなされた場合は,ビラを確保して内容をチェックし,対応を検討すべきです。

 労働組合またはその組合員が,使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは,原則として使用者の施設管理権を不当に侵害するものであり,正当な組合活動とはいえません。
 他方,会社敷地内での組合活動であっても,一般人が自由に立ち入ることができる格別会社の職場秩序が乱されるおそれのない場所での組合活動は,使用者の施設管理権を不当に侵害するものとはいえないのが通常と思われます。



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