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自律的な判断ができず指示された仕事しかしない。

2015-09-18 | 日記

自律的な判断ができず指示された仕事しかしない。


1 「指示待ち人間」とは
 今から30年以上前の1981年にも,言われたことはこなすが言われるまでは何もしない新入社員を表現する造語として,「指示待ち世代」「指示待ち族」といった言葉が流行したことがあります。当時から30年以上経った現在においても,命令したことしかしない,あるいはしようとしない若者の対応に頭を悩ませる管理職 は多く,そういった若者は「指示待ち人間」等と呼ばれることがあるようです。
 新人社員が,上司から言われたことしかできないといった程度の話であれば,昔からよくあることで,大きな問題ではありません。今後,経験を積んでいく中で,社員としてあるべき心構えを身につけ,仕事を覚えてもらえばいいだけの話です。
 しかし,新入社員でもないのに,いつまでたっても上司が指示しないと行動しないような社員は,戦力として多くを期待することはできません。このような社員が増えてしまったのでは,会社が競争を勝ち抜いていくことは困難でしょう。会社としては,自律的に自分の頭で考え,行動することができる社員を育成していかなければなりません。


2 「指示待ち人間」への具体的対応
 「指示待ち人間」を減らす最も有効な方法は,社員が取るべき行動規範を明示することです。社員の従うべき行動規範が明確であればあるほど,社員は自律的に論理的な判断がしやすくなります。他方で,社員が従うべき行動規範が不明確であればあるほど,社員が論理的な判断をすることは困難となり,その都度,上司の指示を仰がざるを得なくなってしまいます。
 社員が取るべき行動規範を明示する具体的方法としては様々な方法が考えられますが,例えば,社内の問題の解決方法について決定する会議に社長や役員だけでなく,できるだけ多くの管理職も参加させるようにし,会議で決定された解決方法の結論や決定プロセスについて把握できるようにすることなどが考えられます。会議に参加した管理職は,会議で決定された結論とその決定プロセスを前提として,部下の指導教育を行っていくことになります。
 定型的な事項については,マニュアルを作成するとよいでしょう。マニュアルは何か融通が利かず役に立たないものであるかのように思われがちですが,そうではありません。マニュアルが存在することにより,定型的な事項の判断に迷うことがなくなり,大幅に時間や労力を節約することができます。定型的な事項について時間や労力を節約することができれば,実質的判断が必要な難しい重要問題に時間や労力を集中させることができるようにもなります。マニュアルを作成する過程で議論することにより,より良い結論を導くこともしやすくなりますし,マニュアルを紙に書いて文書化することにより,マニュアルの内容の妥当性を検証しやすくもなります。
 自律的な判断ができる部下を育てるためには,部下に自律的に判断して仕事をする経験を積ませる必要があります。会社が明示した行動規範から結論を論理的に導くことができるような社内システムができているのであれば,自律的に考えて行動することがしやすくなります。もちろん,最初はちぐはぐな対応になってしまうこともあるとは思いますが,人は間違えながら憶えていくものです。部下の相談に乗りつつも,できるだけ部下が自分の力で仕事をこなせるよう導いてあげて下さい。
 部下の提案が採用できない場合は,論理的な理由を明示した上で,不採用として下さい。不採用の理由を明示してあげられれば,そこから部下は論理的に考えて,上司に採用してもらえる内容の提案をしやすくなります。上司が,部下の提案の採用不採用の理由を論理的に説明することができず,上司の判断がブラックボックスのようになっていると,部下に判断基準が伝わりませんから,いつまでたっても部下は自律的に判断することができないことになってしまいがちです。
 部下が指示された仕事しかしようとしないという管理職 の愚痴は,ずいぶん前からありました。いちいち指示しなくても,部下が自分の頭で考えて仕事をできるようになって欲しいという上司の思いは,いつの時代も変わらないようです。他方で,部下が自律的に判断できるようにする管理職の努力が十分であるかというと,必ずしも十分ではないように思えます。管理職としては,どうしても,部下が自分の努力で自律的判断ができるようになって欲しいと考えがちです。部下が自律的判断をすることができるよう導いてあげることも上司の仕事,責任だということを,再確認する必要があります。
 自律的な判断ができないことを人事考課上考慮することはできますが,企業秩序を乱したわけではないので懲戒処分に処することはできませんし,通常は解雇 することもできません。



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再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

2015-09-18 | 日記

再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。


1 再雇用後の賃金水準に対する規制
 高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,パート労働法8条,労契法20条,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 定年後に再雇用された社員の賃金水準が定年退職前よりも下がるのはむしろ通常の話であり,社会通念に照らし,直ちに不当ということはできません。定年の延長や継続雇用の場合は手順を間違えると労働条件の不利益変更(労契法9条・10条参照)の問題となってしまうリスクがありますが,再雇用の場合はいったん定年退職し新たな労働契約を締結するわけですから,定年退職前の労働条件との関係では労働条件の不利益変更の問題とはならないと考えられます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合はそれが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。


2 再雇用後の適正な賃金水準
 年金支給開始年齢が引き上げられていることを考慮すれば,賃金原資に余裕がない企業であっても,同業他社と同水準の賃金が払えないから再雇用自体を拒絶せざるを得ないといった発想で対処するのではなく,再雇用自体は認めた上で,体力に応じた金額の賃金を支給するようにすべきでしょう。
 再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が定年退職前と変わらないにもかかわらず,再雇用後の賃金が定年退職前よりも大幅に下がったのでは高年齢者の不満が大きくなりますから,賃金額を大幅に下げる場合は,再雇用後の勤務日数や勤務時間数を減らすとか(例えば週3日勤務にするとか1日4時間勤務にするといったことも考えられます。),業務の内容を正社員でなくてもできるような難易度の低いものにするとか,責任の軽い仕事を担当させるとか,職種や勤務地を限定するとかした上で,賃金額を下げる必要があります。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,賃金原資に余裕がない会社であっても,,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。一定規模以上の会社の場合は,再雇用後の賃金水準は,定年前の50%~70%程度になることが多いようです。賃金原資に余裕があるのであれば,同業他社よりも高めの賃金設定でも構いません。


3 定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではありません。事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,定年退職者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に定年退職者が再雇用されなかったとしても,高年法違反となるものではありません。
 企業が定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合は,再雇用されなかったとしてもやむを得ないところです。企業ができることは,自社の体力,定年退職者の能力,再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等に見合った適正水準の賃金等の労働条件を提示するところまでであり,当該労働条件での再雇用を希望するかどうかは,定年退職者の選択に委ねられることになります。



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解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張する。

2015-09-18 | 日記

解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張する。


1 退職届を提出させることの重要性
 社員が口頭で会社を辞めると言って出て行ってしまったような場合,退職届等の客観的証拠がないと口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇 したと認定されたり,合意退職も成立しておらず解雇もされていないから労働契約は存続していると認定されたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は口頭で退職を承諾するだけでなく,退職届を提出させて退職の申出があったことの証拠を残しておいて下さい。印鑑を持ち合わせていない場合は,退職届に署名したものを提出させれば足ります。後から印鑑を持参させて面前で押印もさせることができればベターです。
 出社しなくなった社員が退職届を提出しない場合には,電話,電子メール,郵便等を用いて,
 ① 退職する意思があるのであれば退職届を提出すること
 ② 退職する意思がないのであれば出勤すること
を要求して下さい。放置したままにしておくのはリスクが高いです。特に,解雇通知書や解雇理由証明書を交付するよう要求してきたら要注意です。


2 解雇 されたという話に持って行きたい労働者側の意図
 使用者から解雇されていないにもかかわらず,解雇されたという話に持って行きたい労働者側の意図は,主に以下のものが考えられます。
 ① 失業手当の受給条件を良くしたい。
 ② 解雇予告手当を請求したい。
 ③ 解雇無効を主張して,働かずにバックペイ又は解決金を取得したい。


3 失業手当の受給条件
 労働者が自己都合で会社を辞めた場合は,会社都合の場合と比較して,失業手当の支給開始が3か月遅れるなど,失業手当の受給条件が悪くなってしまうのが原則です。労働者の中には,会社から解雇されたことにして,失業手当の受給条件を良くしようとする者もいます。
 なお,退職勧奨 により退職した者は「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,給付制限もありません。退職勧奨による退職であっても退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがあります。


4 解雇予告手当の請求
 平均賃金30日分の解雇予告手当(労基法20条1項)を取得したくて即時解雇されたと主張する労働者が散見されます。


5 解雇無効を前提とした賃金請求
 解雇の無効を前提として,解雇日以降の賃金請求がなされた場合に会社が負担する可能性がある金額は,高額になることがあります。
 単純化して説明しますと,月給30万円の社員を解雇したところ,解雇の効力が争われ,2年後に判決で解雇が無効と判断された場合は,既発生の未払賃金元本だけで,30万円×24か月=720万円の支払義務を負うことになります。
 解雇が無効と判断された場合,実際には全く仕事をしていない社員に対し,毎月の賃金を支払わなければならないことを理解しておく必要があります。


6 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額
 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は,当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。基本給や毎月定額で支払われている手当のほとんどは支払わなければなりません。


ア 通勤手当
 実費補償的な性質を有する場合は,通勤手当について負担する必要はありません。
イ 残業代
 時間外・休日・深夜に勤務して初めて発生するものなので,通常は負担する必要がありません。ただし,一定の残業代が確実に支給されたと考えられる場合には,支払を命じられる可能性があります。
ウ 賞与
 支給金額が確定できない場合は,解雇 が無効と判断されても支払を命じられません。支給金額が確定できる場合は,確定できる金額について支払が命じられることがあります。一定額の賞与を支給する労使慣行が成立していたという主張は,なかなか認められません。
エ 解雇期間中の中間収入(他社で働いて得た収入)
 解雇期間中の中間収入(他社で働いて得た収入)が副業収入のようなものであって解雇がなくても取得できた(自社の収入と両立する)といった特段の事情がない限り,
 ① 月例賃金のうち平均賃金の60%(労基法26条)を超える部分(平均賃金額の40%)
 ② 平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額
が控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁昭和37年7月20日第二小法廷判決,あけぼのタクシー事件最高裁昭和62年4月2日第一小法廷判決,いずみ福祉会事件最高裁平成18年3月28日第三小法廷判決)。控除しうる中間収入はその発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることが必要であり,時期が異なる期間内に得た収入を控除することは許されません(あけぼのタクシー事件最高裁昭和62年4月2日第一小法廷判決)。
 解雇期間中に失業手当を受給していたとしても,失業手当額は控除してもらえません。
オ 源泉徴収すべき所得税,地方税,社会保険料
 判決で支払を命じられるのは,源泉徴収すべき所得税,地方税,社会保険料を控除する前の賃金額ですが,実際の賃金支払の際にはこれらを控除して支払うことになります。
カ 仮払金
 仮処分で賃金相当額の仮払が命じられ,仮払をしていたとしても,判決では仮払金を考慮しない賃金額の支払が命じられます。賃金の支払を命じる判決が確定した場合は,既払の仮払金の充当について,代理人間で調整する必要があります。


7 無断録音
 解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張するような事案では,退職に関するやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいます。
 解雇されたことにしたい労働者は,会話を無断録音しながら「解雇」と言わせようと誘導しようとすることが多いので,不自然に「解雇」と言わせたがっている様子が窺われる場合には無断録音を疑うとともに,慎重に対応する必要があります。



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飲み会で部下に飲酒を強要する。

2015-09-18 | 日記

飲み会で部下に飲酒を強要する。


1 飲酒強要の問題点
 上司と部下が酒食を共にすることは,普段の仕事とは違った打ち解けた雰囲気での親密なコミュニケーションを促し,円滑な人間関係の形成に資する面がありますが,体質上,お酒を全く飲めない人もいますし,お酒が弱いだけである程度は飲める人であっても,体調や気分次第では飲酒したくないこともあり,一緒にお酒を飲みさえすれば人間関係が良くなるというものではありません。お酒の最低限のマナーを守れない飲み方,飲ませ方をすれば,かえって人間関係が悪化してしまうこともあります。
 勤務時間外の飲み会の席で部下が飲酒しなければならない労働契約上の義務がないことは明らかですから,部下が飲酒を断っているにもかかわらず,上司が執拗にお酒を飲ませようとすることは,部下の意向を無視して部下に義務のないことを行わせようとしているに過ぎず,何らの法的根拠もありません。
 部下が業務として上司の指揮命令の下,接待などに従事しているような場合には,部下も飲酒することが業務遂行上望ましい場合もあり得ますが,飲酒というものの性質上,通常は上司が部下に対して強要できる性質のものではないのではないかと思われます。
 上司が部下に対して飲酒を強要すれば,上司,職場環境,さらには会社そのものに対する部下の評価や就労意欲が低下し,他に良い職場があるのであれば転職しようという気持ちにさせかねません。 また,飲み会の席で上司が部下に飲酒を強要した結果,部下が体調を崩したり精神的にダメージを受けたりすれば,その程度にもよりますが,会社は使用者責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務(民法715条,415条)を負う可能性があります。
 ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件東京高裁平成25年2月27日判決(労判1072号5頁)は,上司が極めてアルコールに弱い体質の部下に対し執拗に飲酒を強要したことなどについて会社の使用者責任を認め,慰謝料150万円の支払を命じています。同事件東京地裁平成24年3月9日判決(労判1050号68頁)では飲酒強要の点については不法行為とは認めなかったのですが,高裁判決は,部下が少量の酒を飲んだだけでも嘔吐しており,上司は,部下がアルコールに弱いことに容易に気付いたはずであるにもかかわらず,「酒は吐けば飲めるんだ」などと言い,部下の体調の悪化を気に掛けることもなく,再び部下のコップに酒を注ぐなどしており,これは,単なる迷惑行為にとどまらず,違法というべきであるとして不法行為による損害賠償責任を認めています。上司が部下に飲酒を強要することに合理的理由は元々ありませんが,上司としては,最低限,部下がアルコールに弱いことに気付いたら飲酒を勧めるのを止めるといった程度の配慮は必要となってくるものと思われます。
 さらに,飲酒強要により部下が体調を崩したり,精神疾患 を発症したりして損害賠償請求訴訟が提起され,判決において会社の責任が認められた場合は,社内で飲酒強要がなされた事実が世間一般に知られるところとなり,新規採用や顧客獲得に支障を来すなどのレピュテーションリスクを負うことにもなります。
 飲み会の席での飲酒強要であっても,上司と部下との間の個人的問題では済まないことは珍しくなく,会社が紛争の当事者とされて,訴訟では被告として防御活動を展開しなければならないリスクを負っていることに留意する必要があります。


2 具体的対処法
 上司が,飲酒強要が部下に嫌がられているわけでないとか,部下は「社会人」「会社員」として自分のしている程度の飲酒強要は我慢するのが当然だと勘違いしているようであれば,当該管理職 の考えを改めさせる必要があります。
 その具体的方法としては,まずは定期的にパワハラ セクハラ 研修を受講させ,その中で飲酒強要をしてはいけないことだということを理解させることが考えられます。飲酒強要を禁止する旨,就業規則の服務規律に明記してもいいでしょう。
 もっとも,会社の実態が研修内容等と大きく異なれば,それは「建前」に過ぎず守らなくてもよいのだと受け止められかねません。会社社長や役員が自らの言動を律するのは当然のこととして,上司の部下に対する飲酒強要は部下の勤労意欲を低下させるものであり,あってはならないものなのだというメッセージを,社内に向けて繰り返し発信するようにすべきでしょう。飲酒を断っている社員に対し執拗にお酒を飲ませようとしている社員がいることに気付いた場合には,その都度注意指導して是正させることは最低限必要です。
 実際に飲酒強要がなされた場合に情報を会社が早期かつ的確に把握できるようにするための方法としては,社内の相談窓口や外部の弁護士窓口を設置し,相談しやすい雰囲気を作っておくとよいと思います。
 会社がしっかり対応すれば,飲酒強要問題がそう頻繁に起こるとは思えませんが,従来,飲酒強要が容認されてきた企業風土の会社において,飲酒強要を改めさせようとしたような場合には,上司が反発してなかなか言うことを聞かないことになりがちです。自分が上司にされてきたことを,今度は自分が部下にして何が悪いと言った発想を持つ管理職もいるかもしれません。  いくら注意指導しても部下に対する飲酒強要を改めようとしない管理職については,厳重注意書を交付したり,懲戒処分に処したりせざるを得ません。管理職としての適格性が欠如していると判断されるような場合には,人事権を行使して管理職から外す必要があります。単なる部下との相性の問題に過ぎない場合は,他の部署に配置転換することによって対処できるかもしれません。
 懲戒処分を何度積み重ねても飲酒強要が改まらず,上司が会社に対して反抗的・挑戦的態度を取ってくるような場合は,最終的には退職勧奨 又は解雇 して辞めてもらわざるを得ません。
 上司の部下に対する飲酒強要の有無,程度は,企業風土を色濃く反映しているという印象があります。上司に研修を受けさせたりすることはもちろん重要なことなのですが,会社社長や役員が自らの言動を律した上で,上司の部下に対する飲酒強要は部下の勤労意欲を低下させるものであり,あってはならないものなのだというメッセージを,社内に向けて繰り返し発信するとともに,部下等の他の社員に対し執拗にお酒を飲ませようとしている社員がいることに気付いた場合には,その都度注意指導して是正させることが,何より重要となってくるものと思われます。



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部下に過大なノルマを課したり仕事を干したりする。

2015-09-18 | 日記

部下に過大なノルマを課したり仕事を干したりする。


1 過大なノルマの問題点
 部下に対し一定のノルマを課すこと自体は合理的なことであり,上司にしてみれば,ノルマを達成できるだけの高い能力とやる気のある社員だけ残ればいいという発想なのかもしれません。  しかし,とても達成できないような過大なノルマを部下に課すことに経営上の合理性はなく,部下のモチベーションが上がらず営業成績を高めることができない結果となったり,せっかく費用をかけて採用し育成した部下が次から次に辞めてしまったりする可能性が高くなります。これは,効率的な会社運営のみならず,部下のキャリア形成にとっても大きなマイナスとなります。部下の社員が自腹で商品を買い取らないとノルマを達成することができないような場合は,「自爆営業」を強要するブラック企業といった悪評が立てられて企業イメージが悪化し,顧客の獲得や新規採用活動に支障を来すことになりかねません。
 ノルマを達成するために恒常的な長時間労働に従事していた部下が精神疾患 や脳・心臓疾患を発症した場合には,業務と疾患発症との間の相当因果関係(業務起因性)が肯定されて労災となり,さらには会社が安全配慮義務違反や使用者責任を問われて損害賠償請求を受ける可能性もあります。
 さらに,過大なノルマを達成するために営業社員が長時間労働を余儀なくされれば,当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる(労基法38条の2第1項ただし書)と評価されて,事業場外労働みなし労働時間制を採用している場合であっても,時間外割増賃金の支払が必要となる可能性が高くなります。
 会社の利益のためにも,部下の利益のためにも,ノルマは適正な水準にする必要があるのです。


2 仕事を干すことの問題点
 上司が自分の意に沿わない部下の仕事を干すことを会社として容認することができないのは言うまでもありません。会社は管理職の私物ではありません。管理職が合理的理由なく自分の意に沿わない部下の仕事を干すことは権限逸脱行為であり,これを放置していたのでは,一体,誰の会社なのか分からなくなってしまいます。最悪の場合,部下は,会社に残ろうと思えば,会社の利益のために働くのではなく,上司の意に沿った形で働くことを優先することになりかねません。また,部下の仕事を干すことは,当該部下のキャリア形成を阻害することにもなります。
 当該措置に合理的理由がないのであれば不法行為が成立し,会社も安全配慮義務違反や使用者責任を問われて損害賠償義務を負う可能性があります。


3 具体的対処方法
 特定の管理職の部下の離職率が高いなどの問題がある場合には,当該管理職から十分に事情を聴取する必要があります。管理職の機嫌を損ねることを恐れて,事情聴取を躊躇してはいけません。
 過度のノルマを課しているのではないかという点については,ノルマの達成率,ノルマとして設定した数値の具体的根拠,離職率が高い理由,離職率を下げる方法として考えられること等を,意に沿わない部下の仕事を干しているのではないかという点については,当該部下に与えている仕事の内容・量,その具体的理由等を聴取することになります。当該管理職の説明に不合理な点が見つかった場合には,注意指導してその是正を促します。
 併せて,部下の社員からも,ノルマの達成率,業務遂行のため通常必要となる労働時間,自爆営業の有無,離職率が高い理由,離職率を下げる方法として考えられること,上司である管理職 が意に沿わない部下の仕事を干しているのかどうか等を聴取し,当該管理職の説明が部下の社員の説明と整合性があるか等をチェックします。
 本件のような問題は,部下の社員からの申告がなければ問題の存在自体把握できず,対応が遅れることになりかねませんので,社内の相談窓口や社外の弁護士窓口を設置するとともに,社員が安心して相談できる雰囲気を作っておくとよいでしょう。
 注意指導した結果,管理職の言動が大きな問題はない程度に改善された場合には,通常の注意指導教育をその後も継続していけば足りるでしょう。
 管理職のしていたことが悪質な場合は懲戒処分に処することも考えられますが,会社が当該管理職を放置していて十分な注意指導教育をしてこなかったというような経緯がある場合には,重い懲戒処分は懲戒権濫用により無効(労契法15条)となる可能性がありますので,懲戒処分に処するにしても軽めのものにとどめるべきことが多いのではないかと思います。
 当該管理職の理解不足,マネジメント能力不足が原因で注意指導しても当該管理職の言動が改まらない場合は,十分に注意指導するだけでなく,管理職研修を受けさせるなどして教育していきます。いくら注意指導教育しても問題点を理解できないようであれば,管理職としての適格性が欠如していると考えられますので,人事権を行使して管理職から外すなどの措置が必要となります。入社当初から管理職として地位を特定して高給で採用したような場合は,人事権を行使して管理職から外し,他の職位に降格するあるいは異動するという対応では地位を特定して採用した意味がなくなりますので,退職勧奨や解雇で対処することを検討してもよいかもしれません。
 注意指導しても当該管理職の言動が改まらない原因が当該管理職の思い上がりによるものであり,「現場に口を出さないで下さい。」等と言って,経営者に対しても反抗的・挑戦的態度をとり続けるような場合は,懲戒処分に処するとともに,人事権を行使して管理職から外すなどの措置が必要となります。それでも態度が改まらない場合は,その都度,懲戒処分に処してから退職勧奨 又は解雇 を検討することになります。入社当初から管理職として地位を特定して高給で採用したような場合は,初めから退職勧奨や解雇での対応を中心に検討することになります。
 部下に対し,とても達成できないような過大なノルマを課したり,自分の意に沿わない部下の仕事を干したりする管理職がいる会社は,経営者が当該管理職に特定の部門を任せきりにして,十分なチェック機能を果たしていないことが多い印象があります。確かに,経営者が何もしなくても特定の人物が特定の部門をうまく取り仕切ってくれるのであれば,経営者としては楽かもしれませんが,経営者として当然行うべき職務を怠っていると言わざるを得ません。「いちいち管理せずに,現場のことは現場の自主性に任せた方がうまく行く。」等と言って,特定の管理職に特定の部門を任せきりにしていたところ,管理職の縄張り意識とか自分のお陰で会社が儲かっているという意識が強くなり,経営者の言うことを聞かなくなったり,情報を経営者に隠したり,顧客に対し経営者の悪口を言ったり,横領等の不正行為を行ったり,新入社員に仕事を教えず何人も虐めて辞めさせてしまったりして困っているといった相談を受けることは珍しくありません。
 このような管理職が出てこないようにするためには,会社経営者が管理職をしっかり監督し,問題があれば丁寧に注意指導して改めさせることが必要不可欠です。経営者は,新入社員が仕事を教えてもらうことができないまま上司に虐められて何人も辞めさせられてしまうといった事態にならないようにする責任を負っているのだという意識を強く持つ必要があります。



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ソーシャルメディアに問題映像を投稿する。

2015-09-18 | 日記

ソーシャルメディアに問題映像を投稿する。


1 ソーシャルメディアへの問題映像の投稿を防止するための事前対応
 ソーシャルメディア上の情報は拡散しやすいため,元の問題映像の投稿を削除しても,ソーシャルメディア上の情報を完全に消去することはできなくなることがあります。ソーシャルメディアには文字だけでなく映像を公開することができるものも多く,映像が極めて強いインパクトをもたらすことがあります。強いインパクトをもたらした映像に関し,後から弁解して信頼を回復することは難易度が高いです。したがって,ソーシャルメディアへの問題映像の投稿の対応としては,事前の対策を中心に考えていく必要があります。
 また,ソーシャルメディアに対する問題映像の投稿には悪意がなく,問題映像に伴うリスクを理解していないために行ってしまっているものも多い印象です。仲間内でのコミュニケーションに過ぎないと考えていて,全世界に向けて情報発信しているという意識が低いケースは珍しくありません。したがって,ソーシャルメディアに対する問題映像の投稿がもたらす大きなリスクを理解させることが重要となってきます。
 具体的には,
 ① ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを作成すること
 ② ガイドラインの遵守義務を就業規則で規定すること
 ③ ガイドラインに違反したことを懲戒事由として規定すること
 ④ ガイドラインを遵守する旨の誓約書を取得すること
 ⑤ ソーシャルメディアの適切な利用の仕方やガイドライン遵守の重要性について研修などで教育すること
 ⑥ ソーシャルメディアの適切な利用の仕方やガイドライン遵守の重要性について普段から注意指導すること
等が考えられます。
 上司が部下に対して必要な注意指導ができないと,部下が上司を軽く考えて,行動がエスカレートしやすくなります。部下の勤務態度等に問題がある場合に,上司が部下に対ししっかりと注意指導することは,問題映像の投稿を防止することにもつながります。
 最近ではアルバイトによる問題映像の投稿が事件となることが多くなっています。アルバイト等の非正規社員は正社員と比較して会社に対する忠誠心が低い傾向にあります。学生アルバイトの場合は,社会経験が乏しくて思慮が足りない傾向にあります。アルバイト等の非正規社員については,むしろ正社員以上に注意指導教育していく必要性が高いといえるでしょう。


2 ソーシャルメディアに問題映像に投稿されているのが見つかった場合の初動
 ソーシャルメディアに問題映像が投稿されているのが見つかった場合,まずはその問題映像と記事をプリントアウトしたり,PDFの形式で保存したりして,証拠を確保します。
 次に,ソーシャルメディアに投稿された映像が会社にとって好ましくない内容がどうかを検討し,好ましくない内容のものであれば,投稿した社員・アルバイト等と話し合って削除させるべきでしょう。当該社員・アルバイト等が在職中であれば最終的には映像の削除に応じてくれる可能性が高いのではないかと思います。
 映像の内容が単に好ましくないというにとどまらず,会社の名誉・信用を著しく侵害している場合は,当該社員・アルバイト等の懲戒処分や損害賠償請求等の対応を検討する必要があります。当該社員・アルバイトが記事の削除を拒んでいるような場合は,ソーシャルメディアの運営者に対する記事の削除請求等を検討する必要もあるでしょう。


3 事実調査
 懲戒処分や損害賠償請求等を行う前提として,事実関係を十分に調査する必要があります。問題映像を確保した後の事実関係の調査としては,本人からの事情聴取が中心となります。当該社員・アルバイト等が問題映像を投稿したということで間違いがないか,動機・目的,会社が発見した問題映像以外の投稿の有無等を聴取して書面にまとめます。聴取書は,当該社員・アルバイトに内容を確認させてから,その内容に間違いない旨記載させます。
 本人に事情説明書・始末書等を作成させて提出させるという方法も考えられますが,重要な事実関係の確認については,十分な事情聴取を行い,漏れがないようにしておく必要があります。問題映像の投稿を行った社員・アルバイト等が作成・提出した事情説明書・始末書等の内容が不合理・不十分だったとしても,突き返して書き直させたりせずに,受領して会社で保管して下さい。事実関係の解明に役立つこともありますし,本人が不合理な弁解をしている証拠にもなります。不合理・不十分な点については,別途,追加説明を求めれば足ります。


4 謝罪
 問題映像の投稿がインターネット上で拡散したり,ニュース報道されたりして会社に対する批判が高まった場合は,ホームページ上で謝罪するなどの対応が必要となります。謝罪内容としては,アルバイトを含む社員教育を徹底し,再発防止に全力を尽くすこと等を約束することが多いところです。


5 懲戒処分
 問題映像投稿の悪質性の程度に応じて,懲戒処分を検討します。労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められており,懲戒事由に該当する場合であっても,懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
 懲戒処分が有効となるかどうかを判断するに当たっては,投稿した問題映像の内容のほか,問題映像の投稿を禁止する企業秩序がどれだけ厳格に形成されていたかも重視されます。同じような問題映像を投稿したとしても,ソーシャルメディアへの利用に関するガイドラインが存在するか,ガイドラインの遵守義務が就業規則で規定されているか,ガイドラインに違反したことが懲戒事由となる旨特に明記されているか,ガイドラインを遵守する旨の誓約書が存在するか,ガイドライン遵守の重要性について研修などで教育しているか,ソーシャルメディアの利用に関し普段から注意指導しているか等により,結論が別れる可能性があります。
 軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く,訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが低いケースが多いですが,退職の効果を伴う懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については,訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが高まりますので,慎重に検討する必要があります。本人が自主退職を求めてきた場合には,敢えて懲戒解雇等の処分まではせずに,自主退職を認めるべきケースもあるのではないかと思います。


6 損害賠償請求
 問題映像の投稿により会社が損害を被った場合は,書き込みを行った社員・アルバイト等やその身元保証人に対し,損害賠償請求をすることも考えられますが,損害の性質上,損害額の立証が困難なことが多いところです。
 賠償を求めることができる損害の範囲は,原則として通常生ずべき損害に限られ(民法416条1項),特別の事情によって生じた損害は,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときに限り,その賠償を請求することができます(民法416条2項)。食材廃棄に伴う損失とか店内の清掃・消毒作業の費用であれば,通常損害として相当因果関係が認められる可能性が高いものと思われます。他方,店舗の営業を停止・閉店した場合の休業損害・事業閉鎖に伴う損害まで損害賠償請求が認められる事案は限定され,仮に損害賠償請求が認められたとしても賠償額はその一部に限定される可能性が高いものと思われます。
 裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため,損害額の立証ができない場合であっても,損害が生じていることの立証ができれば,相当な損害額は認定してもらえる可能性もありますが,認定してもらっても思ったほどの金額にならないケースも十分に想定されます。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員・アルバイト等が問題映像を投稿した場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。


7 ソーシャルメディアの運営者に対する削除請求・損害賠償請求等
 問題映像を投稿した社員・アルバイト等が問題映像の削除を拒んでいる場合は,ソーシャルメディアの運営者に対し,問題映像の削除を請求することも考えられます。ソーシャルメディアの運営者は,一定の場合には,問題映像を削除する条理上の義務を負うものと考えられます。
 プロバイダ責任制限法3条1項が,権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,かつ,運営者が当該問題映像の投稿によって他人の権利が侵害されることを知っていたか,知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ,ソーシャルメディアの運営者は損害賠償責任を負わない旨定めていることからすれば,ソーシャルメディアの運営者が問題映像の投稿を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,かつ,運営者が当該問題映像の投稿によって他人の権利が侵害されることを知っていたか,知ることができたと認めるに足りる相当の理由があることを主張立証できるようにしておく必要があります。ソーシャルメディアの運営者に対し問題映像の削除を請求するに当たっては,削除すべき問題映像を明示するとともに,問題映像の投稿により会社の名誉・信用等が侵害されていることを具体的に説明するようにして下さい。
 ソーシャルメディアの運営者に対し,削除すべき問題映像を明示するとともに,問題映像の投稿により会社の名誉・信用等が侵害されていることを具体的に説明して問題映像の削除を請求したにもかかわらず,ソーシャルメディアの運営者が問題映像を削除しない場合には,問題映像を書き込んだ社員・アルバイト等とソーシャルメディアの運営者を共同被告として訴訟を提起し,問題映像の削除を請求したり,損害賠償請求したりすることも検討せざるを得ません。



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ホウレンソウ(報・連・相)ができない。

2015-09-18 | 日記

ホウレンソウ(報・連・相)ができない。


1 ホウレンソウ(報・連・相)の重要性
 いわゆるホウレンソウ(報・連・相)は,「報告・連絡・相談」の略語です。一般的には,部下が仕事を遂行する上で上司との間で取る必要のあるコミュニケーションの手段を表す言葉として,ホウレンソウ(報・連・相)が用いられることが多いようです。
 報・連・相が適切に行われれば,仕事の進捗状況や会社の問題点についての情報を共有することができるようになります。その結果,個々の社員としてではなく,組織として問題点に対処することができますので,リスクを管理したり,仕事を効率的に処理したりしやすくなります。
 逆に,報・連・相が適切に行われていない組織においては,問題点が上司等に伝わらない結果,十分なリスク管理ができずに会社が大きな損害を被ることになりかねません。また,仕事の処理能力が不十分な社員が孤立した状態で仕事をすることになりがちのため,仕事の効率が悪くなったり,成果が上がりにくくなったりしやすくなります。
 現在,報・連・相が適切に行われることの重要性は,ますます高まっているといえるでしょう。


2 適切な報・連・相とは
 もっとも,部下が上司に対して報・連・相すべき対象を吟味せずに何でも報・連・相すればいいというものではありませんし,効率的に報・連・相ができるよう工夫する必要もあります。何でも報・連・相しなければならないとしたのではあまりに業務効率が悪くなりますし,部下が自主的に判断して仕事を進める能力が鍛えられにくくなってしまいます。また,報・連・相の仕方について工夫しないと,部下が上司に報・連・相したいことがうまく伝わらなかったり,余計な時間がかかってしまったりしがちになります。
 何を報・連・相すべきかは,ケース・バイ・ケースの判断が求められることが多いですが,上司から部下に対して何らかの指標を示してやらないと,適切な報・連・相ができるかどうかは,部下個人の資質により大きく左右されてしまいます。上司と部下でよくコミュニケーションを取って認識を共有し,何を報・連・相すべきなのかについて部下が判断しやすくなるよう努力すべきでしょう。例えば,部下からの報・連・相を待つだけでなく,定期的に報・連・相のための時間を取り,部下が報・連・相しやすくするといった工夫も考えられます。
 可能であれば,必ず報・連・相すべき事項や,どのような方法で報・連・相すべきかについてのルールを整備しておきたいところです。また,報・連・相に用いる書式を作成し,効率的に報・連・相できるようにするといった工夫も考えられます。
 一般論としては,会社にとって都合の悪い情報ほど,直ちに報・連・相する必要性が高くなります。会社にとって大きな問題とならないような情報であれば,定期的に直属の上司に対して報・連・相するようにさせれば足りますが,会社にとって大きな問題となりそうな悪い情報の場合は,緊急に上司ひいては経営者が把握できるようにしておく必要があります。
 部下の上司に対する報・連・相の具体的なやり方について少しお話ししますと,まずは結論を簡潔に伝えた上で,具体的経過等の説明を行った方が,上司は情報を把握しやすいのが通常です。「事実」と「意見」を明確に区別して報告等を行うことも重要で,自分の意見や感想をあたかも客観的事実であるかのように報告すると,上司が正確な判断をすることができなくなってしまいます。単純な内容のものや急いで報告しなければならないことはまずは口頭で報告すべきですし,重要で記録に残しておく必要性が高いものや複雑で書面に記載しないと分かりにくいものは,口頭で説明するだけでなく,できる限り書面も作成して説明する必要があります。電子メールは有用なツールですが,頼りすぎるとコミュニケーション不足に陥るなどして,かえって効率が悪くなることがありますので,重要なものや緊急のものについては,対面又は電話での報・連・相と併せて電子メールを利用すべきでしょう。


3 報・連・相ができない社員の対処法
 上司と部下でよくコミュニケーションを取って認識を共有する努力をしていれば,部下が最低限の報・連・相もできないということは,仕事に不慣れな新入社員のケースでもない限り,そう多くはありません。部下が報・連・相しようとしない場合,まずは上司である自己の言動が,部下の報・連・相を抑制させる結果になっていないか,よく考えてみるべきでしょう。部下が当然,報・連・相すべきときに報・連・相したのに対し,上司として当然行うべき対応を怠ることが度重なれば,部下も上司に対して報・連・相しなくなります。
 部下が報・連・相できない場合,上司が当該部下とよくコミュニケーションを取って,報・連・相すべき事項について繰り返し指導教育する必要があります。それでもなお,部下が報・連・相しない場合には,部下に報・連・相する意思がないのか,いくら教育しても理解できない程度の能力しか有していないのかを見極める必要があります。
 部下に報・連・相する意思がない場合は,厳重注意書を交付したり,懲戒処分に処したりして対応します。懲戒処分を繰り返しても態度が改まらない場合は,退職勧奨 解雇 も検討せざるを得ないでしょう。
 部下の理解能力不足が原因の場合は対応が少々やっかいです。本人は精一杯,報・連・相しようとしてもする能力がないわけですから,賞与等の査定において低く評価することはできても,懲戒処分に処することはできません。また,裁判所は,一般的には,地位や職種を特定して高額の賃金で採用したような場合を除き,能力不足を理由とした正社員の解雇をなかなか認めない傾向にありますので,本人が退職に同意しない限り,辞めさせることも困難なケースが多いというのが実情です。
 後になってから言っても仕方がないことかもしれませんが,部下の理解能力不足については採用の段階でチェックすることができたはずです。筆記試験の成績が悪かったり,会話の受け答えがちぐはぐな応募者を採用しないようにすれば,極端に理解能力が不足した社員を採用せずに済むのではないかと思います。縁故採用の場合は理解能力のチェックが甘くなりがちですが,最低限の能力があるかどうかについてはチェックしないと,大きな問題を抱えることになりかねません。仮に,採用時には理解能力不足を見抜けなかったとしても,試用期間 満了時までには理解能力不足を把握して本採用拒否できるようにしておきたいところです。


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営業社員が営業中に仕事をサボる。

2015-09-18 | 日記

営業社員が営業中に仕事をサボる。


1 営業中に営業社員が仕事をサボっている情報を入手した場合の対応
 営業中に営業社員が仕事をサボっている情報を入手した場合,まずは当該営業社員が何月何日の何時頃どこでどのようにサボっていたのかといった事実関係を整理するとともに裏付け証拠を収集します。
 それが会社として容認できない程度のものである場合は,当該営業社員から事情を聴取して下さい。事情を聴取するのは気まずいとか,職場の雰囲気が悪くなるとかいった理由で,当該営業社員から事情も聞かずに放置してはいけません。
 当該営業社員が仕事をサボっていることを認め,反省の態度を示した場合は,基本的には勤務時間中は仕事に集中するよう注意指導して改善を促せば足りるでしょう。もっとも,何度注意指導してもサボり癖が直らない場合は,本気で反省しているとは考えられませんので,懲戒処分も検討せざるを得ません。
 他方,当該営業社員が仕事をサボっていることを認めなかった場合は,より慎重な対応が必要となります。日報の記載内容について当該営業社員に質問したり,当該営業社員が担当している顧客から情報収集したりして,当該営業社員の説明に矛盾や不自然な点がないかをチェックします。当該営業社員が仕事をサボっていることを証拠により立証できない場合には,当該営業社員に対して強い注意指導や懲戒処分をすることはできませんが,当該営業社員が仕事をサボっていることを証拠により立証できる場合には,当該営業社員が正直に事実を説明した場合よりも厳しく注意指導していく必要がありますし,懲戒処分に処せざるを得ないケースも多くなるのではないかと思います。
 懲戒処分を繰り返してもサボり癖が改まらない場合は,最終的には退職勧奨 又は解雇 して辞めてもらうことも検討せざるを得ません。


2 営業中に営業社員がサボるのを防止する方法
 まずは,新規採用時によく選んで営業社員を採用することが重要です。履歴書や職務経歴書の書き方がルーズで,短期間で転職を繰り返しており,採用面接時にだらしない印象を受けた応募者を採用すれば,仕事中にサボる可能性が高いことは容易に予測できることです。
 事業場外労働のみなし労働時間性(労基法38条の2)を適用している営業社員については使用者の具体的な指揮監督が及びませんので,営業中にサボっているのかどうかを厳密にチェックすることは困難です。営業中にサボっているのかどうかを厳密にチェックする場合は,営業社員を事業場外労働のみなし労働時間性の適用対象から外し,使用者の具体的な指揮監督が及ぶようにする必要があります。
 場合によっては,営業社員を事業場内の部署に配置転換して仕事をサボれないようにするといったやり方も考えられなくはありませんが,営業社員以外の人員は既に足りていて事業場内の配転先がないことも多いものと思われます。また,営業社員の職種が限定されていないとしても,主に営業に従事させる目的で採用した営業社員を営業以外の仕事に就けるのは,社員の適正配置の観点から現実的でない場合もあります。
 一概に言えることではありませんが,営業中にサボっている営業社員は営業成績も悪い傾向にあります。営業成績の悪い営業社員については,営業中にサボっていないかのチェックを特にしっかり行う必要があります。
 毎日,営業の時間,場所,面会者,面談内容等を具体的に日報に書かせて下さい。日報には毎日目を通し,疑問点が見つかった場合には,その都度営業社員に問い合わせて,疑問点を解消するようにして下さい。サボっていることが疑われる営業社員については,営業社員の説明をその都度,記録に残しておいた方がいいかもしれません。
 毎日数回,営業社員からどこで何をしているのか電話で報告させ,報告内容をメモに残しておいてもいいかもしれません。自分がどこで何をしているのか,何度も会社に報告しなければならないことを意識していれば,仕事をサボりにくくなるのではないかと思います。
 ときには上司が自ら,営業社員が担当している顧客のところへ営業に赴くというのも,虚偽報告を予防する上で有効なやり方です。上司が顧客と直接話して営業社員の営業状況を確認する可能性があるとなれば,営業社員は虚偽の報告をしにくくなります。顧客に電話で問い合わせる方が楽かもしれませんが,実際に顧客と会って話した方が実態をつかみやすいと思います。信頼できる営業社員がいるのであれば,その営業社員に同様のことをさせることも考えられます。
 営業車やスマートフォンにGPSをつけて営業社員の位置情報を管理するという方法も,サボり防止には有効なのではないかと思われます。日報や電話等であれば,営業社員は自分の行動を虚偽報告することもできますが,GPSでは会社は客観的に営業社員の位置情報を把握することができます。GPSの記録から日報等の内容が虚偽であることが判明することもあるかもしれません。
 サボり防止に直結するわけではありませんが,賃金に占める歩合給の比率を高めることで,営業成績を向上させることに対する営業社員のモチベーションを高めることができます。仕事をサボっていたのでは営業成績を向上させることはできませんから,結果としてサボり防止に役立つことがあります。もっとも,このやり方は全ての営業社員について有効なわけではありませんし,営業成績向上に直結しない仕事を怠る風潮を助長しかねないといった問題点もあります。


3 営業社員に求める優先順位の検討
 営業社員の中には,結果が出せるかどうかが問題なのであって,どこでどれだけ息抜きするかは大きな問題ではない,仕事をサボった結果は最終的には自分に跳ね返ってくる,といった発想を持つ人がいます。このようなタイプの人は,仕事をサボって結果を出せなければ高い給料は稼げないということについては納得してくれやすいのですが,営業社員の行動に対する管理を強めようとすると強く反発することがあります。個々の営業社員が結果を出すことを最も重視するのか,それとも,営業社員がサボらずに誠心誠意会社のために仕事をすることを最も重視するのか,営業社員に求める優先順位をよく検討し,優先順位に合致したやり方で営業社員の管理を行っていくとよいでしょう。



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退職勧奨しても退職しない。

2015-09-18 | 日記

退職勧奨しても退職しない。


 退職勧奨 の法的性格は,通常は,使用者が労働者に対し合意退職の申込みを促す行為(申込みの誘引)と評価することができます。
 労働者が退職勧奨に応じて退職を申し込み,使用者が労働者の退職を承諾した時点で退職の合意が成立することになります。

 退職勧奨を行うにあたっては,担当者の選定が極めて重要となります。
 退職勧奨が紛争の契機となることが多いこともあり,相手の気持ちを理解する能力を持っている,コミュニケーション能力の高い社員が退職勧奨を担当する必要があります。
 退職勧奨を受ける社員と仲の悪い上司が退職勧奨を行うとトラブルが多いので,できるだけ避けることが望ましいところです。
 同じようなケースであっても,退職勧奨の担当者が誰かにより,紛争が全く起きなかったり,紛争が多発したりします。

 解雇 の要件を充たしていなくても退職勧奨を行うことができますが,有効に解雇できる可能性が高い事案であればあるほど,退職勧奨に応じてもらえる可能性が高くなります。
 退職勧奨に先立ち,問題点を記録に残し,十分な注意,指導,教育を行い,懲戒処分を積み重ねるなどして,解雇する際と同じような準備をしておく必要があります。

 退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいます。
 退職勧奨を行う場合は,感情的にならないよう普段以上に心掛け,無断録音されていても不都合がないようにして下さい。

 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)は,「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),退職勧奨による退職は会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,労働者が失業手当を受給する上で不利益を受けることにはなりません。
 失業手当の受給条件を良くするために解雇する必要はありません。
 退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがありますので,丁寧に説明し,誤解を解くよう努力して下さい。
 なお,助成金との関係でも,会社都合の解雇をしたのと同様の取り扱いとなることには注意して下さい。

 退職届等の客観的証拠がないと,口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇したと認定されたり,職場復帰の受入れを余儀なくされたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は漫然と放置せず,退職届を提出させて証拠を残しておいて下さい。
 印鑑を持ち合わせていない場合は,差し当たり,署名したものを提出させれば足ります。
 押印は,後から印鑑を持参させて面前でさせれば十分です。

 退職勧奨を受けた労働者が退職届を提出して合意退職を申し込んだとしても,社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が退職を承諾するまでの間は退職の合意が成立しておらず,労働者は信義則に反するような特段の事情がない限り合意退職の申込みを撤回することができます。
 退職勧奨に応じた労働者から退職届の提出があったら,退職を承認する権限のある上司が速やかに退職承認通知書を作成して当該労働者に交付して下さい。
 退職承認通知書は事前に写しを取って保管しておくとよいでしょう。

 後日,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等を理由として,合意退職の効力が争われることがありますが,退職届が提出されていれば,合意退職の効力が否定されるケースはそれほど多くはありません。
 錯誤,強迫の主張が認められ,退職の効力が否定される典型的事例は,「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。ただ,退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇 できる事案であることを主張立証できなかったケースです。
 退職勧奨するにあたり,「懲戒解雇」という言葉は使うべきではありません。
 同様の話は,普通解雇 についても当てはまります。

 退職勧奨を行うことは,不当労働行為に該当する場合や,不当な差別に該当する場合などを除き,労働者の任意の意思を尊重し,社会通念上相当と認められる範囲内で行われる限りにおいて違法性を有するものではありませんが,その説得のための手段,方法がその範囲を逸脱するような場合には違法性を有し,使用者は当該労働者に対し,不法行為等に基づく損害賠償義務を負うことになります。



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精神疾患を発症したのは長時間労働や上司のパワハラ・セクハラのせいだと主張して損害賠償請求してくる

2015-09-18 | 日記

精神疾患を発症したのは長時間労働や上司のパワハラ・セクハラのせいだと主張して損害賠償請求してくる。


 長時間労働や上司のパワハラ ・セクハラが原因となって労働者が精神疾患 を発症した場合,使用者は安全配慮義務違反(労契法5条,民法415条)又は使用者責任(民法715条)を問われ,損害賠償義務を負うことがあります。
 過去の裁判例,心理的負荷による精神障害の労災請求事案において労業務上外を判断する際に用いられる「心理的負荷による精神障害の認定基準(平成23年12月26日基発1226第1号)」(認定基準)等を参考にして,損害賠償義務の有無,賠償額等について検討することになります。

 認定基準は,心理的負荷による精神障害の労災請求事案について,行政機関が業務上外の判断に用いる内部基準に過ぎず,裁判所を拘束するものではないし,労災認定における相当因果関係や安全配慮義務違反等を理由とした民事損害賠償請求における相当因果関係と同じものではありません。
 しかし,認定基準は,最新の臨床経験上の知見を踏まえて作成されたものであり,労災認定における相当因果関係や安全配慮義務違反等を理由とした民事損害賠償請求における相当因果関係の判断に当たり,認定基準を参考にすることには合理性があるものと考えられます。
 訴訟や労働審判 になっていない場合は,労災申請を促して労基署の判断を仰ぎ,審査の結果,労災として認められれば労災として扱い,労災として認められなければ私傷病として扱うこととすれば足りることが多いのではないでしょうか。

 労災保険給付がなされた場合,使用者は,同一の事由については,その価額の限度において民法の損害賠償の責を免れることになりますが(労基法84条2項類推),労災保険給付は,慰謝料は対象としておらず,休業損害や逸失利益の全額を補償するものではないため,労災保険給付がなされている場合であっても,使用者は,労働者から,慰謝料,休業損害や逸失利益で補償されなかった金額について,損害賠償義務を負担する可能性があります。
 精神疾患の発症が労災として認められた場合,業務と疾病等との間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められたことになります。
 業務と疾病等との間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があるにもかかわらず,民事損害賠償請求における相当因果関係,結果の予見可能性・回避可能性がない事例や,使用者が結果を回避しないことが違法と評価できないような事例は,それほど多くはありません。
 業務起因性が肯定されて労災保険給付が行われた場合は,使用者は民事損害賠償請求においても,安全配慮義務違反や使用者責任を問われて損害賠償義務を負う可能性が高いというのが実情です。

 電通事件最高裁第二小法廷平成12年3月24日判決は,「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは,周知のところである。」としており,長時間労働により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合において労働者の心身の健康を損なうことを通常損害と捉えていると考えられます。
 とすると,長時間労働により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した事実が認められれば,通常は労働者の心身の健康を損なうことの一態様であるうつ病等の精神疾患発症との間に相当因果関係が認められることになる可能性が高いものと思われます。

 認定基準では,長時間労働との関係では,
① 発病日直前の1か月におおむね160時間を超えるような,またはこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働(週40時間を超える労働時間数)を行った場合(休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等,労働密度が特に低い場合を除く。)
② 発病直前の連続した2か月間に,1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合
③ 発病直前の連続した3か月間に,1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合
④ 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価される場合であって,出来事の後に恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合
⑤ 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価される場合であって,出来事の前に恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められ,出来事後すぐに(出来事後おおむね10日以内に)発病に至っている場合,又は,出来事後すぐに発病には至っていないが事後対応に多大な労力を費しその後発病した場合
⑥ 具体的出来事の心理的負荷の強度が,労働時間を加味せずに「弱」程度と評価される場合であって,出来事の前及び後にそれぞれ恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。

 男女雇用機会均等法11条は,第1項において,「事業主は,職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう,当該労働者からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定め,第2項において,「厚生労働大臣は,前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して,その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。」と定めています。
 第2項を受けて定められた指針が,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」(セクハラ指針)です。
 セクハラ指針は,行政指導の根拠規定であって,直ちに安全配慮義務違反の有無を判断する際の基準となるわけではありませんが,使用者にはセクハラ指針が定める措置を講じる義務がありますし,その内容にも合理性が認められますので,安全配慮義務違反の有無を判断する際にも参考にされるものと考えられます。

 認定基準では,セクハラとの関係では,
① 強姦や,本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた場合
② 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって,継続して行われた場合
③ 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって,行為は継続していないが,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかった又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合
④ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって,発言の中に人格を否定するようなものを含み,かつ継続してなされた場合
⑤ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって,性的な発言が継続してなされ,かつ会社がセクシュアルハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく,改善がなされなかった場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。

 認定基準では,「② いじめやセクシュアルハラスメントのように,出来事が繰り返されるものについては,発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも,発病前6か月以内の期間にも継続しているときは,開始時からのすべての行為を評価の対象とすること。」とされています。
 また,認定基準では,以下のような留意事項が定められています。
① セクシュアルハラスメントを受けた者(以下「被害者」という。)は,勤務を継続したいとか,セクシュアルハラスメントを行った者(以下「行為者」という。)からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから,やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや,行為者の誘いを受け入れることがあるが,これらの事実がセクシュアルハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと。
② 被害者は,被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが,この事実が心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。
③ 被害者は,医療機関でもセクシュアルハラスメントを受けたということをすぐに話せないこともあるが,初診時にセクシュアルハラスメントの事実を申し立てていないことが心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。
④ 行為者が上司であり被害者が部下である場合,行為者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合等,行為者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素となり得ること。

 違法なパワハラに該当するかどうかは,行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうかにより判断されることになります。
 平均的な心理的耐性を有する者に心理的負荷を過度に蓄積させると客観的に評価されるような行為は,原則として違法となります。
 ただし,その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として違法性が阻却される場合があります。

 認定基準は,パワハラとの関係では,
① 部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた場合
② 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた場合
③ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
④ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
⑤ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。



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