上村悦子の暮らしのつづり

日々の生活のあれやこれやを思いつくままに。

8月 グリーフケア

2020-08-29 17:31:03 | エッセイ

最寄駅から7〜8分ほど歩いただけで、額から流れるような汗。
神戸のある修道院の大きなガラス張りのドアを開けると、
修道女の高木麗子さんが笑顔で迎えてくださった。
「まあまあ、暑かったことでしょう! 早くお上がりになって! 冷たいものを用意します……」と。

取材での初めての出会いなのに、
高木さんから不思議な「温もり」のようなものが瞬時に伝わってきて、
その言葉だけで私の心はほっこりとしてしまった。

グリーフケアの第一人者であり、上智大学グリーフケア研究所の名誉所長である高木慶子さんだ。

高木さんの存在を知ったのは、4〜5年前のこと。
一昨年に上梓した拙著『あなたが介護で後悔する35のこと』を
まとめている途中で、つまずいたことがあった。

この本は、介護者の後悔した体験から、後悔しない方法を学んでいく内容だが、
多くの方が一生懸命介護を続けて、大切な人を看取った後、
その「深い悲しみ・悲嘆」からなかなか立ち直れずに、その後の歩み方に戸惑ってしまわれるのだ。

こんな時、どうすればいいのか。
私は、立ち直るためのケアについて書きたいと思った。
医学が進歩した現代に何かサポートする方法はないのだろうか?
専門家はいないのだろうか?
その時、探し回って出会ったのが、高木さんの『悲しんでいい』という本だった。

「悲しみを一人でかかえ込んでいるだけでは悲嘆は癒されない。
表に出すことで少しずつ回復に向かう」という内容で、
「これだ!」と思った。

「1人では乗り越えられない悲嘆も、同じ喪失体験を持つ人に気持ちを打ち明けると、
辛いのは自分だけではないことが分かって、孤独から解放される」のだという。
さらに、
「人はそうした喪失体験をバネにして、以前より高いレベルの人生を送ることができる」と記されていた。

「なるほど」と納得できた。
私が取材させてもらった介護者も、懸命に介護をしてきた人ほど、同じ体験者に本音を聞いてもらい、
大泣きされた後は、一回りもふた回りも大きくなって、新しいことを始められたりするのだ。

35年間にわたって、大地震や大事故、大災害などの多くの被害者や加害者、
またホスピス病棟でのがん患者さんに寄り添い、
グリーフケアとターミナルケアを続けてこられた宗教家・高木さんならではの教えだった。

執筆の折には、本からの引用させていただいただけで、
今回、事後報告となったが、拙著も渡すことができた。

そして、間近でお顔をまじまじと拝見して、
取材中に思わず場違いな質問をしてしまった。
84歳という年齢を知っていたからである。
「なぜ、そんなにお綺麗なんですか?」
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