西郷四郎 姿三四郎のモデル”西郷四郎”大陸で死す?!

西郷四郎 姿三四郎のモデル”西郷四郎”大陸で死す?!

                         山口敏太郎

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 幕末の頃、格闘家の嘉納治五郎は天神真楊流と起倒流柔術を学び、柔術をスポーツである柔道に変革した。1882年に、東京下谷北稲荷町・永昌寺の一角に講道館を創立した。講道館と言っても当時は、小さな町道場でしかなかった。
 後年は講道館は他流試合に対して消極的であったが、設立当時は、様々な流派のエッセンスを取り入れていたらしく、空手の船越義珍、合気道の植芝盛平らと、格闘技技術の交流が行われていたと言われている。現代でいうところの総合格闘技のように柔軟な練習が行われていたという。
 設立当初の講道館のエースだったのが西郷四郎である。周囲には新進の講道館を心良く思わない連中も多く、数多くの格闘家が殴り込みをかけてきた。だが西郷四郎は、その猛者どもをことごとく投げ捨てて、まるで天狗さまのような強さは明治の東京で伝説になったと言われている。
 あの有名なベストセラー小説「姿三四郎」のモデルは実は西郷四郎であるのだ。(異説によると、姿三四郎のモデルは、西郷四郎一人だけではなく、西郷四郎に柔道家・徳三宝のイメージを加えたものであるという話も残されている)
 ちなみに小説「姿三四郎」の著者・富田常雄は、柔道家・富田常次郎の息子である。富田常次郎は嘉納治五郎と共に講道館を設立した創設メンバーの一人であり、西郷四郎の異常なまでの強さを知る一人であった。つまり、「姿三四郎」とは実話をもとにした小説といえる。また、小説にも登場する西郷の必殺技「山嵐」も実在し、この技で多くのライバルを葬ったと言われている。片足を相手の前に真横に伸ばし、残る軸足一本で相手を前のめりに回転させた大技は、相手に致命傷を与える文字どおり必殺技であった。
 西郷のベストバウトと語り草になっているのは1886年(明治19年)に開催された警視庁武術大会での激闘であった。同大会のルールは、30分1本勝負というハードなもので、警視庁の指南役を決定する大事な試合であった。この大舞台で、宿敵・楊心流戸塚派の昭島太郎を、激戦の上くだした結果が、講道館発展の起因となったのは間違いない。
 だがこの英雄であった西郷四郎は、講道館を去ってしまった。その理由は暴力沙汰であったと言われている。西郷の気性の激しさは有名で、稽古帰りに、毎日待ち伏せをしている者と果たし合いをしていた。ある時など、相撲の力士と諍いとなり、力士を投げてしまい大問題となった事もあった。この一件が原因とも断定はできないが、西郷は講道館を去っている。
一方、実家とのトラブルを指摘する説もある。実家の西郷家と四郎が柔道をめぐって揉めたというのだ。西郷四郎の養父である西郷頼母は、会津藩の家老であり、御式内(おしきうち・城内で主君を護る格闘技)の伝承者であった。当然、息子である西郷四郎は伝承者として実家から期待されており、講道館で柔道なる新競技をやる事に対し、実家の圧力がかかったというのだ。
 講道館を去った後、西郷四郎は長崎へ移住し、ジャーナリストになっている。「東洋日の出新聞」の創刊に携わり、同紙の記者となっているのだ。更に、西郷四郎は、政治に対し意欲を示し、革命家・宮崎滔天と親交を結んでいる。
 その一躍大陸に渡る。この大陸時代に西郷四郎が何をしていたかは不明である。孫文らと連絡をとり政治活動をやっていたとも、日本軍の密偵となって大陸を調査していたとも言われている。
 しかし、大陸での活動中、西郷四郎の体を突如病魔が襲う。リューマチにかかってしまったのだ。大正9年病気療養のため無念の帰国、尾道の吉祥坊で養生につとめていたが、惜しくも56才の若さで大正11年に死去している。
 同地には講道館館長の筆による「西郷四郎逝去の地」の石碑が建っている。こうして、西郷四郎は柔術から柔道という競技を確立させ、その後大陸で政治活動をやった後、悲劇的な死を迎えるのである。

 
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