将門怨霊伝説~各地知られざる将門怨霊エピソード

将門怨霊伝説~各地知られざる将門怨霊エピソード

                         山口敏太郎

@過去の原稿蔵出し

 平将門が日本を代表する怨霊になったのは荒俣宏氏の名著「帝都物語」によるところが大きいであろう。それまでは代表的な怨霊と言えば「菅原道真」であり、「崇徳上皇」であった。無論、「将門」への畏怖がなかったわけではないが、日本最強の名を冠するようになったのは「帝都物語」以降である。この小説が日本のオカルト観に与えた影響は大きく、陰陽道や安倍晴明ブームの遠因となったのは間違いない。現在も、この「帝都物語」でも触れられているいくつかのエピソードが将門の怨霊伝説として、現在広く分布している。その内容を整理してみよう。
 関東大震災のあと11月に、損害受け崩れた大手町にある将門の首塚の発掘調査が行われた。大熊喜邦博士たちによる発掘により、土中から小さな石室が発掘された。その石室は過去に盗掘された跡があり、再び補修された形跡があったが、伝説どおり平将門のものかどうか判別できなった。結局調査の後に、不要と判断された石室は破壊され、上に大蔵省が新たに仮庁舎を建てた。しかし、この暴挙に対し、将門の怨霊が天誅をくらわした。当事の大蔵大臣・早速整爾以下、関係者十名が次々と急死し、大蔵省はパニックになった。また武田政務次官・荒川事務官以下、多数の関係者もの怪我を足に負ってしまう事件が頻発した。
 自体を重く見た上層部は、昭和2年(1927年)4月27日、平将門の供養が行われることになった。富田理財局長が中心となり、神田明神平田宮司が祭主となって実施され、ようやく祟りは沈静化する。だが、将門の怒りは解けてはいなかった。昭和15年6月の出来事である。雷雨の中、突如雷が落ちた。大蔵省敷地内の将門の首塚付近に落下した雷は、火事に引き起こし再び将門の祟りが噂された。そこで河田大蔵大臣のもと「将門公没後千年を奉じる壱千年祭」が開催された。更に、大正期の関東大震災により破壊されていた碑を新しく創り直し、御霊の慰霊に勤めたという。
 更に戦後も祟りは続く、GHQが焼け野原の東京を整地した。当然「首塚」の付近も例外でなく、整地されプールにされそうになったが、首塚を解体しようとしたブルドーザーが、突然横転し日本人作業者に死傷者が出る事件が発生した。職人たちが震え上がっているのを怪
しんだGHQに通訳が、「古代の大酋長の墓だから壊すと祟りがある」と説明したところ、マッカーサーの了解もあり、工事が中止された。
 なお、首塚の前には大きな池があったとされているが、この池は埋め立てられたものの、その一部が三井物産ビルの「カルガモ池」に名残を留めている。
 以上が現代語られている将門がらみの奇怪な怪談、現代民話の全てであるが、京都でらされた場所にはどんな伝説が残っているのであろうか。天慶三年2月14日、俵藤太によって討ち取られ壮絶な最後を遂げた逆賊・将門の首は京都七条河原にさらし首にされた。だが
将門の妄念は消えてはいなかった。「太平記」によると、哀れにもさらし首になった将門の首は、目を開けたまま毎晩毎晩叫び続けた。
「斬られしわが五体、いづれの所にか有るらん。ここに来たれ。首ついで今一戦せん」
また翌月になっても、生首は腐食せず生きたままのようであり、怪しい光を放ちながら、ついには虚空を飛びあがり、関東を目指して飛び始めた。そして、首が落ちた場所が武蔵国豊島郡芝崎村(現在の大手町の首塚)である。他にも京都での将門のさらし首に纏わる怪談は記録されている。「平治物語」によると、さらし首にされた将門の前で、藤六という人物が頓知のある歌を詠んだところ、将門の首が「カラカラ」と笑い、忽ちしゃれこうべになったとある。
 ”将門は米かみよりぞきられける、俵藤太がはかりことにて”つまり、俵は米をはかったという駄洒落である。因みにこの将門の首がさらされた場所であるが、京都下京区の新町通と西洞院通の間の「膏薬の図子(こうやくのずし)」という通りの民家の玄関横に組み込まれている。現在は神田神宮と呼ばれているが、実際に見ると意外に小さい祠で仰天するのは間違いない。筆者が3年前に取材した時は、大勢の参拝者おり、将門人気を裏付けていた。
 また興味深いことに飛行中の将門の首に関する伝説もある。岐阜県大垣市にある御首神社にはこんな逸話が残されている。将門の首が京都から関東を目指して飛行していると聞き、南宮大社が怨霊調伏の祈祷を行った。すると南宮の隼人神の放った矢が上空を通過する将門の首を射落としたという。それを奉ったのが御首神社であるらしい。
 他にも将門の首塚と呼ばれるものは多く、静岡県掛川市にある十九首塚は将門一族郎党19名の首が埋まっていると言われているし、同市内の池辺神社も、将門の首が埋葬されており、将門の剣、犬の掛軸、薬師如来などが将門の宝物が奉納されているという。この宝物に関しては祟りが生じた事がある。現地では「将門の犬屏風」事件というものが伝えられているのだ。江戸初期・寛永の頃、十九首の東光寺で将門の宝物の御開帳が行われた。当時、将門の宝物は東光寺にあったのだが、特に名品「将門の犬屏風」は大層な人気で、大勢の見物客で賑わった。
 ところが評判を聞いた盗賊により、全ての宝物が盗まれてしまう。寺は大騒ぎしたが、宝物は以前として行方不明。その頃、宝物を盗んだ盗賊は、江戸へ出て某旗本家の家来・喜太郎という人物に宝物を売りさばいた。その直後、喜太郎の精神が錯乱し、将門の霊が憑依し大騒動になった。そして、二言目には大声でこう叫んだという。
「この犬の絵を、早く八幡宮へ返せ…返せすのだ…」
これは将門公の祟りであろうと、喜太郎の身内が、盗品を、もとの宮に奉納するとおさまった。この宝物のうち、特に犬の屏風は何度盗まれても帰ってくると言われている。知られざる将門の祟り伝説である。
 また埼玉県幸手市神明にある将門の首塚は愛馬が主人・将門の首を加えてきたとされている。また将門の胴塚が茨城県岩井市神田山・延命院にあり、同市内の国王神社も首無しの胴体が埋まっていると伝えられる。他にも将門がらみの体の一部や道具などが神社になっていることも多い。東京都兜町にある兜神社は、将門の兜を奉っているとされているが株式の町である兜町の地名にもなっている。日野にある塚は(現在は某公会堂)、元々は将門の墓であるとされ、武具を埋めたとも言われていた。千葉県関宿町の駒形神社は、将門の愛馬を葬ったとされている。「新編武蔵風土記」によると平将門が植えた梅の木が残されている。金剛寺(東京都青梅)の境内にある梅は、この地に立ち寄った将門が、一枝の馬の鞭を地面に刺して「我願い成るなら栄え、成らぬなら枯れよ」と願掛けをしたところ、青いままで熟さない梅ができたと言われている。この故事から「青梅」という地名がはじまったとされているのだ。筆者も実際にこの梅を検分したのだが、間違いなく青い梅であった。誠に不思議である。
 もうここまで来ると将門に関するものはなんでも奉っている状態であり、いかに彼が東日本の英雄であったのかよくわかる。他にも将門寄進の五重塔(山形県東田川郡羽黒町羽黒山)に、将門手植えの桜(千葉県関宿町白山神社内)将門の屋敷跡が平将門公苑(茨城県石下町)となり、将門の信仰が厚かった竜禅寺三仏堂(茨城県取手)も将門信奉者には敬われている。
 またこんな祟り伝説もある。明治維新後、明治天皇が遷都により京都から、江戸(東京)に移ってきた。そこで江戸の鎮守である神田明神の主祭神が天皇に刃向かった逆賊・将門ではまずいということになり、主祭神からはずされてしまう。流石にこの待遇では、将門の怨霊が激怒したのであろう。江戸にやってきた明治天皇が、江戸三大祭である神田明神の三社祭を見に行くと、それまで晴天であった空が俄かに黒くかき曇ったという。これを見た江戸っ子たちは、将門公の怨念によるものだと語り合った。の為であろうか、将門は昭和59(1984)年には見事に主祭神に復帰している。他にも知られざる将門伝説は多い、彼は東日本の庶民の神様であるのだ。

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