水屋敷の火
水屋敷の火
岩手
岩手県を流れる川に、「安家川」というものがある。
この豊かな流れは、多くの伝説を生みだしてきた。
その下流沿いに、「下安家」という地域があるのだが、
その地域を流れる安家川の一角を
“コベ滝の淵”と呼んだ。
この淵に潜ると時々
―――奇妙なモノが見えるという。
その淵に飛び込み、水をかき分け
無数にわき上がる水中のあぶくの合間に
―――奇妙なモノが見えるのだ。
ちょうど、鰻の巣穴のような穴が確認できる。
川の岸壁の水面下にあたる部分に、穴がぽっかりと口を開けている。
その穴の中に、怪異があるのだ。
中をそっと覗くと、小綺麗な座敷と、暖かな灯火が見える。
水の中のあったかい座敷と…
ほのかな灯…
これは潜水時のささやかな幻覚なのであろうか。
人々はこれを、“水屋敷”と呼んだ。
無論、この世のものではない。
水中で窒息する脳、それが見せる仮初めの幸せなのだろうか。
死の寸前は、酷く気持ちよいものだ。
水屋敷は、今日も、客を招く。
出典 河童を見た人々 高橋貞子 岩田書院
岩手
岩手県を流れる川に、「安家川」というものがある。
この豊かな流れは、多くの伝説を生みだしてきた。
その下流沿いに、「下安家」という地域があるのだが、
その地域を流れる安家川の一角を
“コベ滝の淵”と呼んだ。
この淵に潜ると時々
―――奇妙なモノが見えるという。
その淵に飛び込み、水をかき分け
無数にわき上がる水中のあぶくの合間に
―――奇妙なモノが見えるのだ。
ちょうど、鰻の巣穴のような穴が確認できる。
川の岸壁の水面下にあたる部分に、穴がぽっかりと口を開けている。
その穴の中に、怪異があるのだ。
中をそっと覗くと、小綺麗な座敷と、暖かな灯火が見える。
水の中のあったかい座敷と…
ほのかな灯…
これは潜水時のささやかな幻覚なのであろうか。
人々はこれを、“水屋敷”と呼んだ。
無論、この世のものではない。
水中で窒息する脳、それが見せる仮初めの幸せなのだろうか。
死の寸前は、酷く気持ちよいものだ。
水屋敷は、今日も、客を招く。
出典 河童を見た人々 高橋貞子 岩田書院