都市伝説・私のかわいい娘


都市伝説・私のかわいい娘
山口敏太郎
@過去の記事の蔵出し
2000年に入ったばかりの頃、Uさんは奇妙な体験をしている。
ある時、北海道の某山系にトレッキングに出かけた、無論、北海道の太陽と自然に興味
があったのは事実だが、男性との素敵な出会いを求めていた。
友人のYさんとYさんの彼氏、彼氏の友達に、そしてUさんという組み合わせだった。
つまり、ダブルデートってやつである。
無論、その頃はこんな酷い体験をするとは思っていなかったし、楽しい時間になる予定
であった、そうあのヒトに逢うまでは。
「ねえっ、うまくいけば、Uちゃんもカップルになれるかもよ」
友人のY子が冷やかしながら、肘で脇腹をつつく。
「そっ、そうかな」
そんな友人の言葉に、Uさんが淡い期待を抱いたのも事実である。
トレッキング当日、天気は快晴で、太陽は高かった。
「山の空気っておいしいね」
「ほんとうー最高だね」
皆、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
山の風景は目にやさしく、日頃の悩みや鬱積がちっぽけに見えた。
北海道に来てよかった、そうUさんは思っていた。
そして、仲間たちとUさんは、気分良くコースを歩き始めた。
花が咲き、草が匂う道は地平線まで続いている。
友人3人と一緒で楽しく歩いていると、途中道端にうずくまる女の人をみつけた。
見たところ50代前半ぐらいの小太りの女である。
ちょうど彼女たちの母親ぐらいの年齢であった。あたりには、異様な臭気が充満してい
た。
「あの人、なにをしているのかな?
Uさんが興味を示しただが、友人のYさんは露骨に嫌がった。
「ほっときなよ、あの女、普通じゃないよ」
繭をひそめ不快そうな顔をしている。
「そうかな」
確かに、女の服装は山登りの恰好とは思えず、半ズボンにTシャツだった。
真夏の山とはいえ、異常である。
しかも、髪の毛はバサバサ、横顔から覗く目は明らかに血走っている。
またTシャツが上にあがり、背中が一部見えている。
本人は服装など一切気にしてないらしい。
「可愛そうな人なら、保護してあげるのも私たちの義務よ」
「やめないよ Uちゃん」
真面目なUさんは、女の人の背後に回ると声をかけた。
「何してるんですか」
女は、ゆっくりとスローモーションのように、振り向くとこう言った。
「夫を…解体しているのです」
にやりと笑った歯茎には、何か生肉の断片が付着している。
「えっ?! 夫を解体?」
服が赤く染まっている。
ひょっとしたら、夫の返り血なのだろうか。
「いっいや~」
男女4人全員が悲鳴をあげた。
「おい、あれってなんだ!!」
Yさんの彼氏が震える手で指さす先には、ぶよぶよした肉塊がある。
女はその肉塊を愛おしいように、なでると
(にた~っ)
と笑った。
口元にも若干の血が滲んでいる。
「ウアー」
彼女たちは、後ろを省みず、そのままふもとまで逃げた。
あとで友人のYさんが、地元の知人に聞くと、夫を娘を事故で亡くし、精神を病んでし
まった女性であるという。
時々山に出ては、登山客を脅かして迷惑行為をしているらしい。
「この町ではウワサの有名人だよ」
Yさんに、このトレッキングを紹介した知人は電話でそう説明した。
この話を聞きYさんは若干安心したが、Uさんの恐怖は拭えなかった。
「どうしたのよ。単なる不思議なおばさんよ、ただそれだけ」
「いや、ちょっと気になることがあって」
あの時 Uさんは背中越しに女の奇妙な台詞を聞いていた。
「やっと帰ってきたのね。私の娘」
その媚びるような狂気の声は、今も耳にこびり付いている。
「あの人、多分私を娘だと勘違いしてる」
それから、数ケ月後Uさんは恐ろしいものを目撃してしまう。
自分のマンションの最寄駅のロータリーで、巨大なビニールに大きな肉塊を入れて赤い
汁を袋から垂らしながら、中年の女が通行人に聞き込みをしていたのだ。
「すいません、私の娘を捜してるんです。この駅の付近で見ませんか?」
中年女は間違いなく、北海道であった女であった。
勿論、探している娘とは自分の事なのだろう。
Uさんは、その次の週、すぐさま引越した。
だが、いつも背後にあの女の気配を感じてしまい、恐怖を払拭できないという
山口敏太郎
@過去の記事の蔵出し
2000年に入ったばかりの頃、Uさんは奇妙な体験をしている。
ある時、北海道の某山系にトレッキングに出かけた、無論、北海道の太陽と自然に興味
があったのは事実だが、男性との素敵な出会いを求めていた。
友人のYさんとYさんの彼氏、彼氏の友達に、そしてUさんという組み合わせだった。
つまり、ダブルデートってやつである。
無論、その頃はこんな酷い体験をするとは思っていなかったし、楽しい時間になる予定
であった、そうあのヒトに逢うまでは。
「ねえっ、うまくいけば、Uちゃんもカップルになれるかもよ」
友人のY子が冷やかしながら、肘で脇腹をつつく。
「そっ、そうかな」
そんな友人の言葉に、Uさんが淡い期待を抱いたのも事実である。
トレッキング当日、天気は快晴で、太陽は高かった。
「山の空気っておいしいね」
「ほんとうー最高だね」
皆、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
山の風景は目にやさしく、日頃の悩みや鬱積がちっぽけに見えた。
北海道に来てよかった、そうUさんは思っていた。
そして、仲間たちとUさんは、気分良くコースを歩き始めた。
花が咲き、草が匂う道は地平線まで続いている。
友人3人と一緒で楽しく歩いていると、途中道端にうずくまる女の人をみつけた。
見たところ50代前半ぐらいの小太りの女である。
ちょうど彼女たちの母親ぐらいの年齢であった。あたりには、異様な臭気が充満してい
た。
「あの人、なにをしているのかな?
Uさんが興味を示しただが、友人のYさんは露骨に嫌がった。
「ほっときなよ、あの女、普通じゃないよ」
繭をひそめ不快そうな顔をしている。
「そうかな」
確かに、女の服装は山登りの恰好とは思えず、半ズボンにTシャツだった。
真夏の山とはいえ、異常である。
しかも、髪の毛はバサバサ、横顔から覗く目は明らかに血走っている。
またTシャツが上にあがり、背中が一部見えている。
本人は服装など一切気にしてないらしい。
「可愛そうな人なら、保護してあげるのも私たちの義務よ」
「やめないよ Uちゃん」
真面目なUさんは、女の人の背後に回ると声をかけた。
「何してるんですか」
女は、ゆっくりとスローモーションのように、振り向くとこう言った。
「夫を…解体しているのです」
にやりと笑った歯茎には、何か生肉の断片が付着している。
「えっ?! 夫を解体?」
服が赤く染まっている。
ひょっとしたら、夫の返り血なのだろうか。
「いっいや~」
男女4人全員が悲鳴をあげた。
「おい、あれってなんだ!!」
Yさんの彼氏が震える手で指さす先には、ぶよぶよした肉塊がある。
女はその肉塊を愛おしいように、なでると
(にた~っ)
と笑った。
口元にも若干の血が滲んでいる。
「ウアー」
彼女たちは、後ろを省みず、そのままふもとまで逃げた。
あとで友人のYさんが、地元の知人に聞くと、夫を娘を事故で亡くし、精神を病んでし
まった女性であるという。
時々山に出ては、登山客を脅かして迷惑行為をしているらしい。
「この町ではウワサの有名人だよ」
Yさんに、このトレッキングを紹介した知人は電話でそう説明した。
この話を聞きYさんは若干安心したが、Uさんの恐怖は拭えなかった。
「どうしたのよ。単なる不思議なおばさんよ、ただそれだけ」
「いや、ちょっと気になることがあって」
あの時 Uさんは背中越しに女の奇妙な台詞を聞いていた。
「やっと帰ってきたのね。私の娘」
その媚びるような狂気の声は、今も耳にこびり付いている。
「あの人、多分私を娘だと勘違いしてる」
それから、数ケ月後Uさんは恐ろしいものを目撃してしまう。
自分のマンションの最寄駅のロータリーで、巨大なビニールに大きな肉塊を入れて赤い
汁を袋から垂らしながら、中年の女が通行人に聞き込みをしていたのだ。
「すいません、私の娘を捜してるんです。この駅の付近で見ませんか?」
中年女は間違いなく、北海道であった女であった。
勿論、探している娘とは自分の事なのだろう。
Uさんは、その次の週、すぐさま引越した。
だが、いつも背後にあの女の気配を感じてしまい、恐怖を払拭できないという

