新そばが出る頃、毎年、蕎麦の産地で行われる「新そば祭り」は、待ち遠しかったものだ。
「・・・かった」と言うのも、去年からはコロナのおかげで、どこにも出かけることが出来ずにいるからである。
中には、とても珍しいそばの打ち方があるのを知った。
ずいぶん前になるが、桧枝岐(福島県)の新そば祭りに出掛けたことがあった。
「裁ちそば」という独特のそば打ちで、その地の伝統的は方法なのだという。
普段我々は、そば粉に水を加え、煉り、伸ばし、たたんで、細く切って麺にしたものを食べている。
なんと、「裁ちそば」は、伸ばしたそばをたたむという工程がない。
どうするのか・・・?
大きく伸ばした麺生地を何枚も重ね、その重ねたものを、包丁で向こうから手前に引いて切る。
織物の生地を裁つようにすることから、「裁ちそば」と言われるようになったそうだが、その時初めて知った。
地元のオバちゃんたちの熟練した技に、思わず見とれてしまったことを覚えている。
まるで丸太のように太い麺棒にも驚かされた。
今では桧枝岐へ行くのに苦労はないが、かつては秘境とも言われていたという。
昔は、つなぎにする小麦粉が高価なため、そば粉100%で打っていたという。
そのためそばがつながりにくく、折りたたむと切れやすいので「裁ちそば」の方法が生まれたと聞いた。
新そば祭りでは、そんな十割の「裁ちそば」が食べ放題だった。
新そばの、挽きたて・打ち立て・ゆでたてを思う存分楽しめたのだった。