庭の木に見慣れない大輪の花が咲いているのに気付きました。
白い大きな花びらが小雪の舞う雪空をバックに、溶けて滲んで墨絵のような風情です。
春にはまだ早い如月の、歌の文句にある “春と知ればせかるる胸の思い” もまだ芽生えぬ寒い日のことです。
眼鏡をかけて見つめなおすと、なんと枝先に花開いたそれは、積もった雪の塊が造りだした華の造形でした。
湿った二月の雪は淡く丸みをおびていて、春を待つ自然の贈り物みたいです。
見誤ったおかしさよりも嬉しくなってしまいました。
盛んな若いころには、頭の片隅にもとまらない些細なことまで思いが巡るのは、歳のせい、などではなく
乾いた世の中をしなやかに生きるために与えられた魔法のメガネで
またも見せつけてくれました。
これは本当にうれしいメガネなのです。
都合のよいことしか目に映らないよう、瞬時に善し悪しを判断し
醜いものは美しく、不要なものは切り捨てるのを何より得意としている、世にも優しいメガネです。
その逆も沢山あるでしょうけど、それはこの際考えたくありません。
しばらくの間、乾いた情感がゆっくり起ちあがり、快く広がってゆくのを感じました。
人は、他人には決して破壊されないものを持っているといいます。
体は衰えても、人間の最も崇高な部分、精神(魂)の中核は不死であり、再生を繰り返しながら永遠に生き続けていくといいます。
魔法の眼鏡をかけて聞きとった声ではありませんが、、
その話をしたとき、10代の若者はまるで理解できない異星人を見るような目で眺めました。
メガネをかけると魔女のba~さんにでも変身するのかもしれません。