「12人の優しい日本人」 1991年 日本

監督 中原俊
出演 塩見三省 相島一之 上田耕一
二瓶鮫一 中村まり子 梶原善
大河内浩 山下容莉枝 村松克己
林美智子 豊川悦司 加藤善博
ストーリー
ある殺人事件の審議のために12人の陪審員が集められた。
ここに来た12人は、職業も年齢もバラバラな無作為に選ばれた人々。
陪審委員長を努める40歳の体育教師の1号、28歳の会社員の2号、49歳の喫茶店店主の3号、61歳の元信用金庫職員の4号、37歳の庶務係OLの5号、34歳のセールスマンの6号、33歳のタイル職人の7号、29歳の主婦の8号、51歳の歯科医の9号、50歳のクリーニング店おかみの10号、30歳の売れない役者の11号、そして同じく30歳の大手スーパー課長補佐の12号。
被告人が若くて美人だったことから審議は概ね無罪で始まり、すぐ終わるかに見えたが、討論好きの2号が無罪の根拠を一人一人に問い詰めたことから、審議は意外な展開へ。
有罪派と無罪派と分裂、さらに陪審員達の感情までもが入り乱れ、被告人が有罪の線が強くなっていく。
ところがその時、他の者から浮いていた11号が事件の謎解きを推測し始め、それによって事件の新たなる真実が判明する。
そして事態はまたまた逆転し、被告人は無罪となるのだった。
寸評
裁判員裁判が実施されているが、本作が撮られたころはまだ行われていなかった。
実際の裁判員による議論がどのような場所で、どのように行われているのか知らないが、「十二人の怒れる男」をモチーフにしているだけに、そこでのイメージを踏襲しているように思う。
モチーフは同じだけれど、シドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」はシリアスドラマとして深刻な作りなのに、こちらはやけに可笑しい。
林美智子の頼りなさなんて最高で、 何回見ても笑ってしまう。
平凡な小市民が陪審員として召集されているのだが、その小市民性が徐々に変化していく過程が愉快だ。
早く終って仕事に帰りたい男や、やたら議論好きの男がいたり、少し軽薄そうな女性や役者の卵(といっても最後に判明する)もいる。
全員一致であっけなく有罪になってしまい、それじゃまずいと一人があえて無罪を主張し話は進展していく。
有罪になったり、無罪になったりそれぞれの気持ちが揺れ動きながら、最終的には無罪で落ち着く。
守衛さんが全員を見送る場面で陪審員が去るたびにキャスティングが紹介され、木戸を閉めて奥へ引っ込んでいくとクレジットタイトルが流れ出すというすごく映画的なエンディングだった。
「氷室冴子読本」(徳間書店)での中原氏との対談で、各陪審員の設定についての面白い記事を発見したので引用してみる。
この対談によると、相島一之が演じる議論好きの人(陪審員2号) の人物設定は以下のように書かれている。
●中原・・・「彼は精密機械の会社の研究室勤務という設定で、12人が陪審 している事件の被害者である旦那さんの裏返しというか、結局は同じ状況になるんですね。いつも理屈で奥さんを説得していたんでしょう(笑)。」
山下容莉枝が演じる「もうすぐ5歳になるケンちゃん」という子供がいるおばさん(陪審員8号)について。
●中原・・・「彼女は旦那さんが防衛庁に勤めていて、防衛庁の団地に入っている主婦で、でも大学でピアノなんかをやっていて、自分の方が他の奥さんよりレベルは上だと思っている、でも団地の主婦がすっかり身についてしまっているという設定でしたね。」
上田耕一が演じるマスター役(陪審員3号)の人は、なんと婿養子で、さらに愛人がいるという設定だとか。
●中原・・・「最初は脚本を読んで、自分なりの履歴書を書いてきてくださいという役作りがあって、それで演技的に行き詰まってきたら、僕は役者さんと、その履歴書をもとに話す時間を持つんです。それで、彼の場合、婿養子なんですよ。」
そんなことは映画のどこにも出てこないが、そのような背景を持ちながら、あるいは意識しながら演出及び演技をしていたのだと知るだけでも愉快で、映画は奥深いものなのだと分かる。
裁判官による判決が市民感情とかい離があると言うことで始まった裁判員裁判であるが、本作を今見ると、特に死刑が絡んだ判断を一般市民に求めることの危うさも描かれていたのではないかと感じる。
陪審員に向いていないと自覚している人が選ばれていたり、死刑判決を下した時のトラウマとかが描かれていて、裁判員裁判の問題点を予見していたと思う。
ものすごい会話劇だが、くすぐったくなるユーモアを交えた脚本は上手い。

監督 中原俊
出演 塩見三省 相島一之 上田耕一
二瓶鮫一 中村まり子 梶原善
大河内浩 山下容莉枝 村松克己
林美智子 豊川悦司 加藤善博
ストーリー
ある殺人事件の審議のために12人の陪審員が集められた。
ここに来た12人は、職業も年齢もバラバラな無作為に選ばれた人々。
陪審委員長を努める40歳の体育教師の1号、28歳の会社員の2号、49歳の喫茶店店主の3号、61歳の元信用金庫職員の4号、37歳の庶務係OLの5号、34歳のセールスマンの6号、33歳のタイル職人の7号、29歳の主婦の8号、51歳の歯科医の9号、50歳のクリーニング店おかみの10号、30歳の売れない役者の11号、そして同じく30歳の大手スーパー課長補佐の12号。
被告人が若くて美人だったことから審議は概ね無罪で始まり、すぐ終わるかに見えたが、討論好きの2号が無罪の根拠を一人一人に問い詰めたことから、審議は意外な展開へ。
有罪派と無罪派と分裂、さらに陪審員達の感情までもが入り乱れ、被告人が有罪の線が強くなっていく。
ところがその時、他の者から浮いていた11号が事件の謎解きを推測し始め、それによって事件の新たなる真実が判明する。
そして事態はまたまた逆転し、被告人は無罪となるのだった。
寸評
裁判員裁判が実施されているが、本作が撮られたころはまだ行われていなかった。
実際の裁判員による議論がどのような場所で、どのように行われているのか知らないが、「十二人の怒れる男」をモチーフにしているだけに、そこでのイメージを踏襲しているように思う。
モチーフは同じだけれど、シドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」はシリアスドラマとして深刻な作りなのに、こちらはやけに可笑しい。
林美智子の頼りなさなんて最高で、 何回見ても笑ってしまう。
平凡な小市民が陪審員として召集されているのだが、その小市民性が徐々に変化していく過程が愉快だ。
早く終って仕事に帰りたい男や、やたら議論好きの男がいたり、少し軽薄そうな女性や役者の卵(といっても最後に判明する)もいる。
全員一致であっけなく有罪になってしまい、それじゃまずいと一人があえて無罪を主張し話は進展していく。
有罪になったり、無罪になったりそれぞれの気持ちが揺れ動きながら、最終的には無罪で落ち着く。
守衛さんが全員を見送る場面で陪審員が去るたびにキャスティングが紹介され、木戸を閉めて奥へ引っ込んでいくとクレジットタイトルが流れ出すというすごく映画的なエンディングだった。
「氷室冴子読本」(徳間書店)での中原氏との対談で、各陪審員の設定についての面白い記事を発見したので引用してみる。
この対談によると、相島一之が演じる議論好きの人(陪審員2号) の人物設定は以下のように書かれている。
●中原・・・「彼は精密機械の会社の研究室勤務という設定で、12人が陪審 している事件の被害者である旦那さんの裏返しというか、結局は同じ状況になるんですね。いつも理屈で奥さんを説得していたんでしょう(笑)。」
山下容莉枝が演じる「もうすぐ5歳になるケンちゃん」という子供がいるおばさん(陪審員8号)について。
●中原・・・「彼女は旦那さんが防衛庁に勤めていて、防衛庁の団地に入っている主婦で、でも大学でピアノなんかをやっていて、自分の方が他の奥さんよりレベルは上だと思っている、でも団地の主婦がすっかり身についてしまっているという設定でしたね。」
上田耕一が演じるマスター役(陪審員3号)の人は、なんと婿養子で、さらに愛人がいるという設定だとか。
●中原・・・「最初は脚本を読んで、自分なりの履歴書を書いてきてくださいという役作りがあって、それで演技的に行き詰まってきたら、僕は役者さんと、その履歴書をもとに話す時間を持つんです。それで、彼の場合、婿養子なんですよ。」
そんなことは映画のどこにも出てこないが、そのような背景を持ちながら、あるいは意識しながら演出及び演技をしていたのだと知るだけでも愉快で、映画は奥深いものなのだと分かる。
裁判官による判決が市民感情とかい離があると言うことで始まった裁判員裁判であるが、本作を今見ると、特に死刑が絡んだ判断を一般市民に求めることの危うさも描かれていたのではないかと感じる。
陪審員に向いていないと自覚している人が選ばれていたり、死刑判決を下した時のトラウマとかが描かれていて、裁判員裁判の問題点を予見していたと思う。
ものすごい会話劇だが、くすぐったくなるユーモアを交えた脚本は上手い。