3.
その年の九月
兼続の父樋口惣右衛門兼豊が、米沢城下の屋敷で病のため世を去った。(テレビでは先週の最後の場面だ)
今週はこの続きからだね。
伏見にいた大国実頼は、父危篤の報を聞き、馬を飛ばして駆けつけたが、臨終はおろか、葬儀の席にさえ間に合わなかった。米沢にたどり着いたときには、惣右衛門の死から、すでに10日がたっていた。
「兄者に話がある」
濡れた目の奥に、思い詰めたような光がある。
「上方で噂を聞いた」
「噂・・」
「兄者が、本多佐渡守の息子を婿養子に迎えるという噂だ」
「・・・」
「しかも竹松を廃して直江家を継がせ、景勝さまにお世継ぎの男子なきときには、本多の息子を上杉家の世子にすえることまで考えていると聞いた。よもや、事実ではあるまいな、兄者」
・・嘘だな、兄者・・・嘘ではない・・・なに・・
「なぜ、本多ごときにそこまで媚びねばならぬ。おのれの保身のために上杉家を売ったか、兄者ッ」
・・おのれのためではない・・・ならば、なぜ・・
「関ヶ原のいくさがおわってから、わしは世の中というものを、いままでとは違う目で見つめ直すようになった。天下は誰のものか。この上杉家はいったい誰のものであるのか」
・・決まっている、天下は秀頼さまのもの・・上杉家は景勝さまのもの・・いや、そうではない・・
「天下は、天下の天下だ。上杉家もまた、景勝さまおひとりのものではない。国は、その国にもっともふさわしきものが治める。それが、道理だ」
・・徳川に喧嘩を売った兄者はどこへ行った。それほどまでして、生き残りたいか・・
「生き残りたい。いや、変わりゆく世のなかで、わしは命を賭け、上杉家を生きのびさせてみせる」
「徳川の諜者といわれる本多の次男に、上杉家を継がせる。それが兄者の考えた生き残りの策か」
「・・本多の後ろ盾があれば、上杉家は取りつぶしをまぬがれる。家臣たちの誰一人として、路頭に迷わずにすむのだ」
「笑わせる」 実頼は、あざけるような笑いを口もとに浮かべた。だが、その嘲笑とはうらはらに、涙が頬をつたい落ちている。
いいねえ。一気に書いたんだね。
読みながら泣いているのは私だけ?
そして、つづく