ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

モダン・ライフ

2010-05-05 02:54:28 | ま行
タイトルと宣伝のビジュアルから
いまどき楽しき“スローライフ”映画かと
思ったら・・・

あら、違ってた。


「モダン・ライフ」71点★★★


あの“マグナム”に所属し
ピューリッツァー賞も取ってる
写真家レイモン・ドゥパルドンが


自分の出身地でもある
南仏の山間部の農村を
10年以上かけて取材&撮影したドキュメンタリー。



小規模農家の置かれている
決して明るくない現実を

淡々と徹底したリアリズムで描いた
出色の作品です。



映画は
村の農家を一軒、一軒訪ね
農夫たちをテーブルの前に座らせて

「最近、変わったことは?」
ってな感じの
会話を中心に構成されています。



厳しい農村の現状やらを
データや数字で訴えるわけじゃない。

監督がやっているのは
ただただ
「そこにあるものを、そのまま写す」作業なんです。

そこに写るものは
村から
だんだん羊や牛が減っていくさま。


年老いた夫婦が
酪農を続けることができなくなっていく現実。


都会からきた嫁とそりの合わない老農夫。


「農業をやりたいの」とやってきて
あっさり「やっぱり、大変だった」という若夫婦。


・・・もうすべてが
これ以上はないほどの“リアル”。


なにより驚くのは
カメラの前に「座らされた」人たち(特に年配の農夫たち)が
みんな、楽しそうでも
嬉しそうでもないってことです。


気の利いた言葉も、愛想笑いのひとつもなく
話の途切れた気まずい空気を
モノともしない。

いやー、観ている我々のほうがひるむほど。

てか、インタビューする立場でもある
自分から見るともう冷や汗もんです。


実際、最初は
「何年も通ってて、こんなにギコチないなんて
この監督のインタビューアーとしての
技量ってどうなの?」とか
ナマイキにも思っちゃった。


しかし
「週刊朝日」“ツウの一見”のインタビューで
農業流通の専門家・山本謙治さんの
お話を伺いつつ

よくよく考えると

これこそが
田舎で静かに暮らす人々の
ホントウの姿なのではないかと。


愛想よく話してくれる農家の人を
取材しているうちは
まだまだ甘いなー自分、と反省。


ということで
内容も、甘くない現実という面でも
渋~い映画に思えますが

それを補って余るのが
写真家ならではの画角、構図の完璧さ。


たいていは村人たちを
テーブルの前に座らせて
長回しでインタビューをしているんですが




ボソボソと話す彼らを
じーっと観察してるうち

後ろのキッチンにある雑貨やコーヒーポット
テーブルに置かれたグラス

そういうものがすごーくものすごーく
気になってくる。


そこから、彼らの普段の生活が
浮かび上がってくるんです。


お見事でした。

特に「田舎暮らし」や「農業」に興味がある人
必見です。


★6/26から渋谷シアターイメージフォーラムで公開。
 ほか全国順次公開。

「モダン・ライフ」公式サイト
コメント (5)
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