ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

無言歌

2011-12-14 22:06:05 | ま行

1960年、中国で起こった事実を描いた作品。

しかしタブーであり、
本国では上映されることはないであろう、と
監督は言っているそうです。

……中国って・・・・・・!


「無言歌」70点★★★★


中国インディペンデント界で
ドキュメンタリーの実力派として知られる
ワン・ビン(王兵)監督、初の長編劇映画です。


映画の背景を簡単に言うと

1956年、毛沢東は
「自由な批判を歓迎する」と言ったくせに、
その数ヶ月後、批判した者を逮捕し、ゴビ砂漠の荒野に収容した。

本作は1960年に
その不毛の大地に送られた人々の過酷な日々を、
証言を元に再現したものです。


彼らは土の下に掘った洞穴で、冷たい土のベッドに眠り、
ネズミを潰してお湯で煮たりして、
なんとか生きながらえている。

慢性的な食糧難で、
夜の間に1人また1人死んでいき
朝になると布団にくるまれて、死体が運び出されていく。

でも、もうそんなこと日常で
誰も驚かない。

しかし
なにがもっとも悲惨かって、
生産的なことが何も無いことですよ。


彼らは名目上、開墾の労働をさせられているんだけど、
こんな荒野をいくら耕したって
何にもならないのは誰の眼にも明らか。

なので
監督する側もやる気ゼロ。

究極のいやがらせって
こういうことだろうな、って思います。


終始、悲惨で
土くれ土まみれで、
何一つよきことは起きない映画なんですが、

その状況を延々見ていると、
そんな異常事態が慢性になっていき、

「悪いことしかないんだったら、もういっそ何も起こらないでくれ」と、
つまらない日々にさえ
妙に安心感を憶えはじめてしまうんですねえ。


教養があり、おそらく志のあった人々が、
政治的な話をするでもなく、
食欲に支配され、ただ眠る、その姿に
真実の「生きる人間」を見る。

そんな映画です。

最近の中国のいわゆるメジャー映画は
はっきりいって
全然おもしろくない。

そんななかで
唯一光を放つのは、こうした
インディペンデント系だと思います。
(香港・フランス・ベルギー合作映画だけどね)


★12/17(土)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「無言歌」公式サイト
コメント
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