ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン

2011-07-25 20:12:21 | た行

せっかく2011年まで生きたんだから、
この最先端映像は、見る価値ありますよ。

「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」3D版。71点★★★☆

S・スピルバーグ製作総指揮×マイケル・ベイ監督コンビが贈る
「トランスフォーマー」シリーズ第3弾です。


舞台は現代のアメリカ。

自在に変化する金属生命体=トランスフォーマーたちと
過去に二度も地球のピンチを救ってきたサム(シャイア・ラブーフ)。

大学を卒業し、新社会人として
新恋人カーリー(ロージー・ハンティントン=ホワイトリー)と
ラブラブ生活を満喫中……

と言いたいところだが、
実際はややショボショボな毎日。

表だって活躍したわけではないサムのことを
周囲はほとんど知らず、

サムはほかの学生と同じく
就職活動に奔走する日々に悶々としていた。


しかし、そのころ。

地球に対し、静かに
ある計画が始まっていた。

それが人類に最大の危機をもたらすことを
まだ誰も知らない――!



いやー、もうとにかく映像!観て!というくらい
ホントにスゴいです、ハイ。


あまりのことに
目が追い付いていかない。

まだギリギリ観られるけど、
あと10年もしたら、完全に目を回すと思われます。


予告は2Dで見てたので
2Dでも十分楽しめると思いますが、

これは3Dで見てもソンはないでしょう。


「アバター」の3Dカメラを使っているそうで、
ちゃんと奥行きもあるし、

なにより「3Dで見せる」という
意識がちゃんとある。


トランスフォームもスゴいんですが、

現役トップモデルでスタイル抜群の新ヒロインを
舐めるように撮ってて、これがまたスゴい(笑)。

3Dってアクションやバトルだけじゃなく、
こういう使い方もあるのね、という
新しさに気づかされました。

あとこのシリーズは
“音”が怖くてうまい。

あの独特の、機械が動くような
「クルクルクルッ」「カラカラカラッ」っていうんですかね。
あの音、怖いっすね。

常にドラマ部分が「薄っ」と言われがちな
マイケル・ベイ監督ですが、

確かにまあそうなんだけど、
今回のサムの境遇には、なかなか目を引くものがありました。

たまたま
トランスフォーマーと友達になり、

二度も体を張って地球を救ったのに、

しかし本人が兵士なわけでもなく
でも自尊心だけは持っている。


それでも
就職に四苦八苦する主人公、という心情と立場は

ある意味、実に“イマどき”な若者像であり
不思議な生々しさがありましたね。


まあ話はともかく、とにかく映像!ではありますが。


★7/29から全国で公開。

「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」公式サイト
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黄色い星の子供たち

2011-07-23 21:42:37 | か行

フランスってナチスドイツに
「静かに」抵抗したイメージだったんですが
実際はそうでもなかった、ということを
明らかにする映画です。


「黄色い星の子供たち」73点★★★★


1942年、ナチスドイツ支配下のフランス、パリ。

ユダヤ人は黄色い星のワッペンを
つけることが命じられていた。

少年ジョーも黄色い星をつけて
学校に行く。

学校の先生は
「こんな星で人を差別しちゃいけない」と
生徒たちに教えるが、
町の大人たちのなかには
ジョーを汚いモノのように追い払う人もいる。

だが、ジョーの家族も
誇りを失わず、楽しく暮らしていた。

しかしそのころフランス政府は
パリ地区に住むユダヤ人、
2万4千人を検挙することを決めていた。


そして、7月16日の早朝。

パリの町でユダヤ人一斉検挙が始まった――。


悲惨な歴史ではありますが、
悲壮感ばかりでなく、

市井の人々の体験記として
有益な作品と感じました。


圧巻はやはり
1万3千人のユダヤ人が一時収容された
冬季競輪場のシーン。

スタジアムのなかの
溢れんばかりの人いきれ、

食事も水もなく、
床は汚物にまみれている様子は
見たことのない迫力と衝撃です。


特に我々には
震災直後の被災地での
避難場暮らしの様子がどうしても思い浮かび、
より切実に感じられます。


そんな絶望的な状況で、
正しい行いを選択しようとする人間の
美しさも映っていて、

極限のなかで立ち現れる
“人間の質”を深く考えさせられました。


この一斉検挙の話は
長らくフランスでも明らかにされず
「あれは、ナチスドイツがやったこと」と
されていたんだそう。


1995年にシラク大統領が
正式に「フランス政府がやったこと」と認めるまで
50年もホカされてたんですが、

今回、ジャーナリストである女性監督が
綿密なリサーチを行って映画化。

なによりジョー少年のモデルになった
生存者の証言が大きかったようです。


ラストシーンがすごく好きですわ。


★7/23からTOHOシネマズシャンテ・新宿武蔵野館で公開。ほか全国順次公開。

「黄色い星の子供たち」公式サイト
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グッド・ハーブ

2011-07-20 23:31:35 | か行

主人公の女性が
沖縄に住む友人に似ていて(笑)

まあそれはともかく、
女性の地力というか“根”を思わせるところが
すごく印象的な映画でした。


「グッド・ハーブ」69点★★★☆


メキシコで唯一、
女性を主人公に撮り続けている
女性監督マリア・ノバロの、10年ぶりの新作です。


30代の主人公ダリアは
息子コスモと暮らすシングルマザー。

ダリアの母親は薬草の研究者として有名で、
植物園のような自宅に住んでいる。

そして彼女もまた
ダリアの父親とはすでに別れ、独り身だった。

ある日、母親がダリアを呼びつけ
「家の鍵がなくなった」と言う。


ダリアは母親の異変に気づき、
病院に連れていく。


その結果、母親は
アルツハイマー型認知症だとわかる。

「人に依存したくない」という母親の面倒を
みることになるダリアだが……。



世代を超えた女たちの
“治癒”をテーマにした映画です。


植物が豊富に登場する鮮やかな映像は
力強く、美しく

スペインともブラジルとも違う
独特の色彩と風土が実に興味深かった。


メキシコって男性優位社会で
女性監督そのものが、珍しいそう。

しかも中絶が認められていないので
シングルマザーがすごく多いんだそう。


そんな状況のなかでこそ、なのか
女性からの視点と感性が花開いたような
印象を受けました。


ダリアのアパートの
カラフルで若々しいインテリアと、

母親の住む植物園のような庭や
シックな調度の対比もおもしろいし、

全編を覆う
優しげなメロディの音楽もよかった。


それに女優たちに
なんともいえない魅力があります。

主演・ダリア役のウルスラ・プレネダは
メキシコ生まれの40歳で、
13本の映画に出演する人気女優。

母親役のオフィリア・メディーナは
晩年のヘプバーン似の美人!
しかも彼女は社会活動家としても有名な人なんですって。


さらに映画には
メキシコの社会状況も織り込まれている。

ただ特に声高な主張や説明はないので、
そのへんの状況を知りつつみると、
より深みが増すかもしれません。


★7/23からシネマート新宿で公開。ほか全国順次公開。

「グッド・ハーブ」公式サイト


余談。

この主人公に似てるという友人は
「魔女の宅急便」に出てくる
森に住んでいる画家志望の女の子にも似てるんですが、

あの女の子の名前はウルスラ、といい
そしてこの主演女優もウルスラ、という。

やっぱルーツ、一緒?!

……すいません、個人的な話で。
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人生、ここにあり!

2011-07-18 18:17:47 | あ行

イタリアには
精神病院がないって、知ってました?!

「人生、ここにあり!」84点★★★★


1978年、イタリアで
精神病患者を病院や施設に閉じ込めるのでなく、

「社会のなかで治療しよう」という法律ができ
精神病院が、閉鎖されたそうな。

本作はそんな時代に起こった
実話をもとにしたフィクション。

これが、おもしろくてジンとくる!


舞台は1983年のミラノ。

病院が閉鎖されたものの、
行くアテのない精神病患者たちは
便宜上の「組合」に集められ、
無気力な日々を送っていた。

そこに組合長として赴任したネッロは
彼ら個々の能力に気づく。

そして彼らに仕事をさせ、
ちゃんと給料を払い
社会活動をさせることにするが、
これがドタバタの連続で――?!


コミカルで楽しくて、胸がジンジンする良作!

人が生きていくためには
やはり「生きがい」と、そして「働く」という行為が
どんだけ大事か、ということ

そして“障害”なんて
ホント、個々の“差”でしかないんだという
真理を実感できます。


患者たちは確かに独特の雰囲気をまとい、
初対面ではビビったり、ひくかもしれない。


でも、仕事が始まり
適材適所にそれぞれが収まると、
俄然生き生きしてくるんです。


ある人には「超退屈な仕事」でも
「ワタクシ、忍耐には自信あり!お任せを!」
という人がいたり、


自閉症で感情や言葉を表に出せず
仏頂面に見える人は
交渉相手をビビらす「責任者」という役職にピッタリだったり(笑)


もちろん、現実はもっとシビアだろうし、
映画もハッピーだけではない。


でも、概ねハッピー!
とにかく笑えるのがいいんです。


実話だということがこんなにも嬉しい作品は
ちょっとないですね。

この鑑賞後感、夏の空に負けないくらい
爽快っす!


★7/23からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「人生、ここにあり!」公式サイト
コメント (4)
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いのちの子ども

2011-07-16 22:40:46 | あ行

何度聞いても、よくわかんなくなっちゃう
パレスチナ問題。

この映画はいままでで一番
「そこで何が起こってるのか」が
わかりやすかったです。


「いのちの子ども」75点★★★★


1948年の建国以来、
もう63年(!)も続いている
イスラエル人(ユダヤ人)VSパレスチナ人(アラブ人)の対立。

そんななか、ある病気のために
余命を宣告された
パレスチナ人(アラブ人)夫婦の赤ん坊が
設備の整ったイスラエルの病院に運ばれる。


紛争を20年取材してきた
イスラエル人のジャーナリストと、イスラエル人医師が
その命を救おうと奔走する。

その経緯を追ったドキュメンタリーです。


パレスチナ人の夫婦が
「敵に助けてもらうのか」と
同胞からいやがらせを受けたり、

はたまた
やっと見つかった移植ドナーが
いきなり始まった砲撃によって来られなくなったり。

リアルにハラハラさせられます。


また「我が子の命を救いたい」と
涙を流す母親が、
同時に
「エルサレム奪回のために、殉職するのは普通」と語ったり
(ここのシーンは見せ場です)


子の命、という明快な題材のなかで
いままでにないほど身近に
「パレスチナ問題って何なのか」
「彼らの心情って何なのか?」を知ることができます。


映画は特に詳しく
事情を説明するわけじゃないんですが、
さすがベテランジャーナリストだけあって
ツボを心得ていて、とてもわかりやすい。


ただ、ベテランにしては
取材対象に入り込みすぎ、
やや感傷的になりすぎな部分もある。

でもワタクシには
これは現地で20年間、生と死を“見つめ続けてきた”
彼のひとつの「贖罪」なのかもしれないと思えました。


赤ん坊を助けようとするイスラエル人医師が
「いつかうちの息子と遊ばせたいね。
いま叶わなくても、次の世代でも」というシーンが
猛烈に心に響きました。

おすすめです。


★7/16からヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。

「いのちの子ども」公式サイト


来週発売の『週刊朝日』(7/29号)「ツウの一見」で
パレスチナ取材経験も豊富な
APF通信社の山路徹さんに
本作についてお話を伺っています。

すごくわかりやすく、的確なお話なので
ぜひご一読ください

え?山路さん、どういう方だったかって?

いや、けっこう
好きになってしまいましたよ……(ギャー!)


なにより共感できたのは
「僕、専門分野ってないんですよ」という話。
(これは誌面に載ってないので、いいよね)

ニュース配信会社は
そのときに求められる“売れる”ネタを撮らなきゃ
テレビ局に買ってもらえないのが実状であり、

ゆえにこの作品には
映画にしかできない意味がある、という話なんですが


それって雑誌でもまったく同じ。

我々フリーランスは常に
「そのとき求められるネタ」を
キャッチして取材することをやってきたわけで、

まあその過程で
ひとつの分野に精通するケースもあるし、
それが理想なんですが

いまひとつうまく
専門を絞りきれないっていうジレンマがある。


これは私自身、ずっと感じてるモヤでもあるんですが、
山路さんがそう話すと
「あ、やっぱりそうなんだ!」って
なんか励まされた。

ここで働かせてもらおうかしら(笑)
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