自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆長崎旅記~下~

2009年09月23日 | ⇒トピック往来

 22日正午、ハウステンボスの入り口から歩いてJRハウステンボス駅に移動中に大粒の雨が。傘の用意を怠っていたので急ぎ足で駅に駆け込んだ。実は「長崎」にはちょっとした思い入れがある。宴席でカラオケの順番が巡ってきて、「何か歌って」とせかされて歌うのが、内山田ひろしとクールファイブの「長崎は今日も雨だった」だ。前川清のボーカルをまず歌って、カラオケの喉ならしをするのがすっかり定番になった。最近では、リクエストをする前に「長崎、入れときましたよ」と周囲が気を利かせてくれる。長崎の雨を恨むどころか、旅情に浸り軽く口ずさみながら、福岡・博多に向かった。

        「屋台の出勤風景」に博多の勢い

  博多の駅は2011年の完成を目指し、リニューアル工事が行われている。完成予想図を見ると、京都駅のイメージがわいた。宿泊はグランド・ハイアット福岡。ホテルの立地が面白い。この一区画が「キャナルシティ博多」と呼ばれる、ビジネスとエンターテイメント(映画館など)、ショッピングセンターが渾然一体となった再開発エリアになっていて、その中心にホテルがある。ホテルの玄関は駅に背を向けた格好になっているので、博多駅から歩いてくると、建物と入り口が実に分かりにくい。恥をしのんで別のホテルに入り、フロント係りの人に場所を尋ねたくらいだ。

  ようやくたどりつくと、大音響に迎えられた。たまたま「キャナル・アジアン・ウイーク」というイベントがホテル隣接の野外ステージで行われていて、早業で次々と顔が変わる「変面」や、陶器のツボを頭上で自在に動かす「壷回し」といった中国雑技が会場を沸かせていた。「アジア最高峰のテクニック」と銘打ったこのショーもさることながら、毎時定時に音楽に合わせて踊る噴水のダンス「ダンシング・ウオーター」=写真・上=に技というものを感じた。リズムに乗って、30メートルも水を吹き上げるかと思えば、小刻みに腰を振るイメージの演出もあって、大技小技の利かせた噴水ショーなのである。人出も多い。あれやこれやで、エンターテイメントを生み出す「博多の勢い」というものを感じた。

  一方で、変わらぬ勢いも垣間見た。夕方、ホテルの近くを散歩していると、後ろに屋台を連結させて中州の方向へ走る何人ものバイク乗りの姿が目についた。空き地に折りたたんだ屋台が整然と並べてあって、それを運び出しているのである。焼き鳥、ラーメン、一杯飲み屋などの屋台がそれこそ次々と。その姿はさながら「屋台の出勤風景」のようでもあり、これから稼ぎに行くぞとの意気込みにも感じられたくましい。

 ⇒23日(水・秋分の日)朝・博多の天気  くもり 

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★長崎旅記~中~

2009年09月22日 | ⇒トピック往来

 17世紀のオランダの街並みをモチーフに設計されたというハウステンボスを歩く。石の道は何度歩いても歩きにくい、これもヨーロッパたたずまいかと思うと妙に納得したりする。前回ハウステンボスを訪れた2006年3月とは何が異なるか、自問自答すると一点ある。それは中国語と韓国語の人たちがめっきり減ったということだ。前回は四方八方に2つの言語が飛び交い、日本語は肩身が狭いほどだった。

       歴史を創ったファシリテーター  

  これは2008年9月の「リーマンショック」以来、為替レートに異変が起きているからだろう。現在、韓国ウォンの為替レートは日本円100円に対して、1300ウォンほどだが、3年前の為替レートは800ウォンで推移していた。円に対してウォン高だった。この円安の流れで日本には韓国や台湾、中国からどっと観光客が押し寄せた。ところが、最近の円高はアジアからの観光客を遠ざけている。九州きっての観光地であるハウステンボスに来れば、マネーの流れが実感できる。さしずめ「東アジアの経済センサー」と言ったところか。

  ハウステンボスのある長崎は今、「坂本龍馬」で盛り上がっている。ハウステンボスの街にも観光ポスターが貼られている=写真=。「龍馬、長崎で待つ」。2009年は「安政の開港」(安政6年=1859年)から150年目に当たる。ここから日本は230年にもおよぶ鎖国から開国へと大きく転換し、明治維新という大改革化の時期に入る。この歴史的な節目で、2010年のNHK大河ドラマのテ-マは「幕末史の奇跡」と呼ばれた坂本龍馬33年の生涯を描く「龍馬伝」に決まった。そのドラマの主たる舞台となる長崎が熱い。しかも、その龍馬役を長崎市出身のシンガーソングライター、福山雅治が演じるとあって、当地ではヒートアップしているというわけだ。

  坂本龍馬の最大の功績は、当時の薩摩と長州の2大勢力をどちらの藩の利害も代弁せずに、ただ外圧に対抗するために「薩長連合」の実現へと奔走したことだと思う。これが明治維新へと歴史を突き動かす原動力になったからだ。最近、シンポジウムなどでファシリテ-ター(Facilitator)という役割が重んじられる。主役ではないが、会議の流れを読み、合意形成へと導く役回りのことである。歴史的な政権交代の時期に出てきた日本のファシリテーター、それが龍馬という人物なのだ。

  司馬遼太郎ら作家が龍馬をさまざまに描き、その生涯はテレビや映画のドラマにもなった。単なる長崎の観光キャンペーンに終始することなく、名も無き若者が国を動かす龍馬の物語が、夢を失ったといわれる現代の日本の若者を勇気づけるきっかけとなってほしい。このポスターを見ながら、そんなことを思った。

 ⇒22日(火・国民の休日)長崎の天気  くもりのち雨

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☆長崎旅記~上~

2009年09月21日 | ⇒トピック往来

 「シルバーウィーク」とは考えたものだ。ネーミングがいい。この連休を利用して20日から長崎にやってきた。小松空港から羽田空港、そして長崎空港と空路を乗り継ぎ、長崎空港から海路でハウステンボスに入った。機体は大村湾をめがけて降下し、海に浮かぶ滑走路に向けて一直線に滑り込む。海上空港には航路の発着場があり、ハウステンボスへは海路で一直線。空から海へのトランスファー(乗り換え)がなんとも心地よい。

        空から海へのトランスファー

  プライベートでの長崎旅行は1994年8月、2006年3月と今回の3度目となる。空から海へのアクセスはこれが初めて。これまでは小松空港から博多空港に、それからJRに乗り継いでの陸路だった。波しぶきを上げて走る高速船の窓から湾の風景を眺めながら、ふと、「この高速船はどうなのだろう」と脳裏をよぎった。

  民主党がマニフェストで打ち出している「高速道路の無料化」のことである。長崎空港からハイステンボスまでは、安田産業汽船の「オーシャンライナー」が所要時間ほぼ50分、料金は片道大人2000円。これに対し、西肥バスは所要時間ほぼ50分で大人片道1100円となり、比べると料金がはるかに安い。バスは高速道路利用の直行便ではないが、もし高速道路の無料化が実現すると長崎自動車道(大村IC-東そのぎIC)が無料となり、バス会社は高速道路を使うだろう。すると高速船より、「早く安く、予約が要らない」の3点で競争力を増すことになる。

  すでに実施されている「ECT搭載車の通行料上限1000円」の割引制度でフェリー業界はどこも経営が青息吐息の状態といわれる。高速道路の無料化で観光客は増えるかもしれないが、フェリー業界の淘汰や再編が加速しそうだ。

  そんなことを考えているうちに、高速船はハウステンボスのマリンターミナルに着いた。海から見るハウステンボスは壮観である。山々が海にせり出したリアス式海岸と、山をバックして海に面する建物群のコントラストが際立つ。陸路からでは味わえない風景だ。

 ⇒21日(月・祝)午後・佐世保の天気   はれ

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★選挙の余波と余談

2009年09月03日 | ⇒トピック往来
 あの「政権交代選挙」から4日目、仕事や日常で交わされた会話やメールから。8月31日に東京のメディア誌編集長から届いたメール。「かつての角福戦争の怨念は、05年には小泉チルドレンの数となり、09年では小沢選挙戦法となって国会に分け入ってきました。この09総選挙は、一つの歴史を刻みました。大敗した自民にとって、結果論として世代交代になるチャンスという見方ができるでしょうか。彼らのそんなエネルギーがあるでしょうか。また、大勝の民主は冷静な政権政党としての振る舞いと、政策の裏付けを示すことができるのでしょうか」

 同じく31日、かつて広告業界にいた知人との会話から。「自民よりましだと思って民主党に入れた人が多かったと思う。でも、民主が本当に日本の政治を変えるかは疑問だね。小沢さんたちは自民の大幹部だったしね。労組が応援しているとなると政治がちょっと左に動く程度じゃないかな」「当選者の数を見ると面白い現象が現れている。自民党が強いところほど当選者が多い。石川は7人もいる。福井も7人。これって自民と民主が互角で惜敗率が高かったせいで、比例で上がったんだね。石川に7人も代議士がいるんだから、使い倒さなきゃな。次の選挙のために、みんな必死に地元のために働くよ。これからが本当のドブ板だね」

 来年度予算をめぐって大学内で事務スタッフとの会話(9月2日)。「来年度の概算要求は民主政権下で全面的に見直しになるので、これまで文科省(文部科学省)と積み上げてきた概算要求については白紙状態だね。9月の補正予算でもストップがかかっているらしい」

 再びメディア誌編集長から届いたメール(2日)。テレビメディアと放送法をめぐる講演を要約したもの。「民主党は日本版FCCへの移行を提唱するが、この問題を巡って議論が本格化する可能性もある。日本版FCCが期待通りの機能を果たすには、二大政党下での政権交代の可能性や、委員会を監視する諸集団の存在などが必要だが、日本にはそうした条件が成熟しているか疑問もある」

 FCCはアメリカの連邦通信委員会の略称。日本版FCCについては説明が必要だ。以下、民主党のマニフェストから引用する。「通信・放送行政を総務省から切り離し、独立性の高い独立行政委員会として通信・放送委員会(日本版FCC)を設置し、通信・放送行政を移します。これにより、国家権力を監視する役割を持つ放送局を国家権力が監督するという矛盾を解消するとともに、放送に対する国の恣意的な介入を排除します。また、技術の進展を阻害しないよう通信・放送分野の規制部門を同じ独立行政委員会に移し、事前規制から事後規制への転換を図ります」。つまり、テレビ業界を放送法や電波法で監督しているを総務省からテレビ業界を切り離すというもの。これで政治権力から表現の自由など守るとしている。ただ、日本のテレビ業界は日本版FCCを望んでいるだろうか。むしろ、規制に守られた「最後の護送船団」と称され、これ以上テレビ局が増えないように政治に働きかけてきたのはテレビ局の方ではなかったか。

 最後に、2日付の朝日新聞の紙面から。衆院選の結果を受けた世論調査から。「新政権に期待」74%。民主大勝の要因についての問い、「有権者の政権交代願望が大きな理由か」81%、「政策への支持が大きな理由か」38%。意外だったのは、自民について。「民主党に対抗する政党として立ち直ってほしい」76%。民意は優しいのか、厳しいのか…。

⇒3日(木)午前・金沢の天気  くもり
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☆09総選挙の行方~5

2009年09月01日 | ⇒トピック往来

 私の知人の話である。知人は10年ほど前、インドを旅行した。コルカタ(かつてカルカッタと称した)の広場で、群集が静かに、ある一点をじっと見つめていた。その目線の向こうはカメだった。「異様な光景だった」という。ところが人々の様子をつぶさに観察すると、静かな群集なのだが、手は盛んに動いていた。お金を右に左に手渡している。カメがどちらの方向に動くかで、賭けをしていたのだ。

        1か0か、デジタル政権の時代に

  この話を聞いて、今回の総選挙を連想した。政権というカメがどちらの方向に向くかをじっと観察している有権者が静かに手を動かす(投票)。これまでの選挙は、闘牛やスポーツを観戦するかのごとく国民は熱狂した。お祭り騒ぎをした。だから、誰が、どんな世代が何を政治に求めているのかが見えやすく、実感でき、論議もでき、そして自らの投票行動の基準が分かりやすかった。ところが、今回の選挙は政権交代で誰が何を求めているのか見えにくい、分かりにくい、可視化できなかった。

  この選挙期間、テレビメディアでも取り上げられたエピソードがある。選挙期間中、民主党の鳩山由紀夫代表が青森・八戸市で演説していたら、前列にいた女性が泣き出した。後で鳩山氏が尋ねると、「仕事がなく帰郷した息子が自殺した。この政治を何とかしてほしい」と訴えたという。テレビではたまたま鳩山氏が婦人の話に耳を傾ける姿が映されていた。このエピソードにも象徴されるように、訴えは個々である。ある党のマニフェストに異議を申し立てる団体とか、あるいはマニフェストに賛同して行動する「勝手連」とか、有権者側の行動が見えにくい選挙だった。

  こうした静かなる選挙はある意味で怖い。もちろんこれまでも、争点らしきものはなく静かなる選挙はたびたびあった。しかし、勢力図を完全にひっくり返すような静かな選挙はなかった。が、世界を眺めれば、政権交代は普通のことである。その意味で、日本もようやく「普通の国」になったと言える。日本の場合、議会制民主主義なので、アメリカ大統領選や、韓国の大統領選のような熱狂はない。民意は反映されるが、その民意は見えにくい。308議席のマンモス政党といえども、またひっくり返される可能性も十分にある。有権者の静かで激しい民意を汲み取らねば政権が維持できない時代に入ったのだろう。民意は移ろいやすい。長期政権の時代の終焉である。あるいは、1か0か、政権のデジタル化と言えるかもしれない。

 ⇒1日(火)朝・金沢の天気  はれ

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