自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆佐渡金山を深堀りすれば

2022年01月31日 | ⇒ニュース走査

   去年秋に佐渡の金山を見学した。佐渡市で開催された「GIAHS(世界農業遺産)認定10周年記念フォーラム」(10月29-31日)のエクスカーションだった。中学生の歴史教科書にも出て来るように、佐渡金山は徳川幕府の直轄の天領として奉行所も置かれ、金銀の採掘のほか小判の製造も行われていて幕府の財政を支えた。

   ガイドの女性の案内で坑道に入って行き、最前線で鉱石を掘る「金穿大工(かなほりだいく)」と呼ばれた採掘のプロたちの説明があった。坑道で使われた器具の中で、「水上輪(すいしょうりん)」も興味深かった。長さが「9尺」(2.7㍍)ある円錐の木筒で、内部にらせん堅軸が装置されている。上端についたハンドルを回転させると、水が順々に汲み上げられて、上部の口から排出される仕組みになっている。紀元前3世紀にアルキメデスが考案したアルキメデス・ポンプを応用したものだという。

   水上輪は坑道の安全を守るために必要だった。地下に向かって鉱石を掘れば掘るほど水が湧き出るため、放っておけば坑道が水没する恐れがあった。そこで、手動のポンプである水上輪を導入し、水を汲み上げて排水溝に注いだ。ただ、ハンドルを回すのは相当な力仕事だった。水上輪だけでなく、桶でくみ上げる作業と合わせて坑道の排水作業は「水替人足(みずかえにんそく)」の仕事だった。

   そこで、ガイドの女性に質問した。「水替人足はどんな人たちだったのですか。島流しの人たちですか」と。すると、ガイドは「そうおっしゃる方もいますけど、佐渡金山は流刑の地ではありません。水替人足は無宿人(むしゅくにん)と呼ばれた人たちが行いました。無宿人は凶作や親から勘当を受けるなどさまざまな理由で故郷を離れ江戸や大阪にやってきた人たちで、江戸後期(安政7年=1778)から幕末までの記録で1874人が送られてきたそうです」と。重い罪で島流しになった「流人」とは異なる人たちだった。「そうなんですね。認識不足で申し訳ありません」と詫びた。

   幕府の鉱山開発の拠点となった佐渡へは日本各地から山師、測量技術者、商人などが集まり人口も急増した。食糧需要が増えて島の農民はコメに限らず換金作物や消費財の生産で潤った。豊かになった島の人々は武士のたしなみだった能を習った。いまでも島内の能舞台は33ヵ所あり、国内の能舞台の3分の1は佐渡にある。

   そうした佐渡金山について、岸田総理は28日、ユネスコ世界文化遺産の候補として推薦する方針を表明した。推薦期限となるあす2月1日に閣議了解を得て、2023年の登録を目指す。今回の推薦について、韓国は佐渡金山で「強制労働」があったと反発している。佐渡金山の申請対象は、韓国側の主張と直接関係ない「江戸時代まで」に限定している。登録までには紆余曲折も予想されるが、歴史遺産が対立の火種にならないよう願いたい。

⇒31日(月)午後・金沢の天気      はれ

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★大陸間弾道ミサイル発射再開の地ならしか

2022年01月30日 | ⇒ニュース走査

    ことしに入って7回目のミサイル発射だ。松野官房長官はきょう午前9時、臨時会見を行った。総理官邸公式ホームページに掲載された会見動画によると、北朝鮮はきょう7時52分ごろ、北朝鮮内陸部から弾道ミサイル1発を東方向に発射。最高高度はおよそ2000㌔、飛しょう時間は30分、およそ800㌔を飛しょうし、日本海側のEEZ外に落下したものと推定される。付近を航行する航空機や船舶および関係機関への被害などは確認されていない。

   気になるのは、最高高度が2000㌔ということは、打ち上げ角度を高くする、いわゆる「ロフテッド軌道」型の弾道ミサイルということだ。2017年5月14日に発射した中距離弾道ミサイル(IRBM)級の新型弾道ミサイルは、2000㌔を超える高度に達した上で800㌔飛しょうさせている。さらに、同じ年の11月29日に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)級新型弾道ミサイルは4000㌔を超える高度に達し、1000㌔を飛しょうした。ここから推測できることは、北朝鮮はICBMの発射の地ならしを始めたのではないか、ということだ。

   北朝鮮は今月19日に開いた朝鮮労働党の政治局会議で「アメリカ帝国主義との長期的な対決に徹底して準備しなければならない」とする方針を決定し、2018年に中止を表明していたICBMの発射実験や核実験については見直しを検討するとしている(1月27日付・NHKニュースWeb版)。

   このブログでは日本海側に住む者の一人の危機感として、北朝鮮のミサイル発射の動向をその都度記している。この1ヵ月で7回の発射は異常で、ミサイルの多様化には異様さを感じる。今月5日は極超音速の弾道ミサイルだった。11日の弾道ミサイルも極超音速型で、ミサイルから分離された弾頭が1000㌔先の目標に命中した。14日には鉄道から短距離弾道ミサイル2発を発射。17日に戦術誘導弾として弾道ミサイル2発を日本海上の島に「精密に打撃」した。25日にも長距離巡航ミサイル2発を「9137秒飛行し1800㌔先の島に命中」させている。6回目の27日は2発の戦術誘導弾を標的の島に「精密に打撃」、爆発威力は「設計上の要求を満たした」ものだった。

   そしていよいよ大陸間弾道ミサイル発射を再開させ、「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」(2017年9月、アメリカのトランプ大統領の国連総会演説)のステージに逆戻りするのか。

(※写真は、2020年10月の北朝鮮軍事パレードで登場した新型ICBMと見られる弾道ミサイル、令和4年1月・防衛省発表資料「北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について」より)

⇒30日(日)午後・金沢の天気    くもり時々はれ

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☆若者の地方移住は「デジタル田園都市構想」のチャンス

2022年01月29日 | ⇒トレンド探査

   総務省がきのう28日発表した「住民基本台帳人口移動報告」の報道資料を読むと、東京23区では、2021年の年間の転出者は38万2人、転入者は36万5174人で、初めて転出が転入を上回った。メディア各社は、東京一極集中の流れに変調などと報じているが、若者を中心に大都会から農山漁村への移住はこの時代のトレンドだと読んだ。そして、少々突飛かもしれないが、「デジタル田園都市構想」にチャンスが訪れたのはないか。

   現在のこのトレンドは、新型コロナウイルスの感染拡大で、テレワークという働き方の概念が急速に普及して、生活を地方に移す社員が増えたことが影響している。さらに、副業を認める会社では、社員が地方でやってみたいことにチャレンジするという副業型移住も増えている。

   身近な事例で言えば、能登半島へも「田舎暮らし」を求めて大都会からさまざまな感性や技能を持った若者たちがやって来ている。その顔ぶれは東京など大都会などからのIT企業の社員が多い。最近では企業そのものが本社機能を一部移転するカタチでやって来る。なぜ移住者の顔が見えるのかというと、2007年に金沢大学は社会人の人材育成事業「能登里山里海マイスター養成プログラム」を始め、自身も関わった。あれから15年、修了生は203人に及んでいる。15年間、移住の若者たちと接して、今回のコロナ禍における都会からの田舎暮らしのトレンドは第2波のように思える。

   その第1波は2011年の東日本大震災の後だった。それまで地元の若者が多かったこのマイスタープログラムに首都圏からの移住者が目立つようになった。そのときもITエンジニアやITデザイナーなどの技能を有する人たちだった。面接で彼らに移住の動機を尋ねると、「パーマカルチャー」という言葉が返ってきた。パーマカルチャー(パーマネント・アグリカルチャー、持続型農業)は農業を志す都会の若者たちの間で共通認識となっている言葉だった。天変地異が起きたとき、人はどう生きるか、それは食の確保だ。それを彼らは「農ある生活」ともよく言う。

   冒頭の「デジタル田園都市構想」は政府が目指している政策だ。「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』の実現」(内閣官房公式ホ-ムページ)だ。震災やコロナ禍で実際に田舎暮らしをしているITエンジニアやITデザイナーには「田園都市」という地方の実情がよく見えている。どう世界とつながる「デジタル田園都市」に変革すべきかという構想や提案を描いている人もいるはずだ。こうした若者たちに地方からのデジタル実装を託すビッグチャンスが到来しているのではないだろうか。

⇒29日(土)夜・金沢の天気       くもり時々あめ

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★狙い撃ちの北朝鮮ミサイルに「遺憾」で済むのか 

2022年01月28日 | ⇒ニュース走査

   大寒のこのごろは、「水沢あつく堅し」の言葉をあいさつ文で使ったりする。沢の水も暑く堅く凍ってしまうほど冷え込みが厳しいという季節の表現だ。きのう27日、北朝鮮から弾道ミサイルが日本海に発射されたことを受けて、岸田総理は会見を行ったが=写真・上=、その言葉も厚く堅くフリーズ状態だった。

   以下、総理官邸公式ホームページから引用。記者から「北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるものが発射されたとの情報について」と問われ、「まず、韓国の報道については承知しております。政府としては引き続き情報収集に努めてまいります。今、確認できているのはそこまでです。そして6度目となる発射についてですが、これは弾道ミサイル等の発射が含まれておりますので、これは国連決議違反であり、これは抗議もいたしましたし、大変遺憾なことであると思っております」と。

   さらに記者から「今回日本側からミサイルの発射の速報がなかった理由について」と問われ、「それも含めて今確認をいたします。情報収集中であります」と。最後に、記者から「航空機や船舶の被害などについて」と問われ、「少なくとも私のところには、そうした被害の報告は届いておりません。それも含めて、今情報収集中であると認識しております」と。

   これは一国の総理が発する言葉だろうか。「大変遺憾」と「情報収集中」としか言っていないのだ。「6度目の発射」「国連決議違反」と言うのであれば、その異常事態にどう対応するのか、為政者としての矜持が感じられない。

   朝鮮新報Web版(28日付)=写真・下=は、27日の短距離弾道ミサイルについて、「地対地戦術誘導弾通常戦闘部の威力を実証するための試射を行った。発射された2発の戦術誘導弾は、標的の島を精密に打撃し、通常戦闘部の爆発威力が設計上の要求を満たしたことが実証された」と記載している。また、25日に発射した巡航ミサイル2発についても、「発射された2発の長距離巡航ミサイルは、朝鮮東海上の設定された飛行軌道に沿って9137秒を飛行して、1800㌔界線の標的の島を命中した」と報じている。

   25日と27日の発射は島を狙い撃ちしたもので、それぞれ「命中」そして「精密に打撃」したと記載している。その島は同じ島なのかはわからないが、これまで日本海に向けての打ち放しの「誘導」から、一点を狙撃する「戦術誘導」へと転換している。これは何を意味するのか。発射地点から東京は1300㌔の範囲だ。「大変遺憾」「情報収集中」で済む話なのか。

⇒28日(金)午後・金沢の天気    くもり

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☆先が読めないニュースあれこれ

2022年01月27日 | ⇒ニュース走査

   日々のニュースに接していて、この先どうなるのだろうかと考え込んでしまうことがある。きょうもふとそのような心境に陥った。NHKニュースWeb版(27日付)によると、北朝鮮はきょう午前8時ごろ、南道ハムン(咸興)周辺から日本海に向けて短距離弾道ミサイルと推定される飛しょう体2発を発射した。北朝鮮は、ことしに入ってからミサイルの発射を極めて高い頻度で繰り返していて、5日と11日に飛しょう体を1発ずつ発射し、その翌日に「極超音速ミサイル」の発射実験を行ったと発表したほか、今月14日と17日にも日本海に向けて短距離弾道ミサイルと推定される飛しょう体を2発ずつ発射している=写真・上は1月6日付・朝鮮新報Web版=。

   直近では25日午前に巡航ミサイルを2発したと報じられていた。射程距離が2000-1万3000㌔の弾道ミサイルに比べ、巡行ミサイルは1500㌔と射程は狭く速度も遅いが、日本や韓国では脅威だ。北朝鮮は今月19日に開かれた朝鮮労働党の政治局会議で「アメリカ帝国主義との長期的な対決に徹底して準備しなければならない」とする方針を決定し、2018年に中止を表明していた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験や核実験については見直しを検討するとしている(同)。ICBMが発射されれば、アメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入る。かつて、アメリカのトランプ大統領が国連総会(2017年9月)で「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」と演説したが、その状況が蘇ってきた。

   新型コロナウイルスの感染拡大が止まない。全国で7万人の新規感染者(26日)が出て、石川県内でも一日の新規感染がついに500人を超えた(504人)。ここまで人数が増えてくると感染経路そのものが多様化して、防ぎようがない。県内の504人のうち感染経路調査中が337人、感染者の濃厚接触者などが122人、残りがクラスター関係で7件45人だ(県発表)。 また、入院や宿泊療養などの療養先が決まっていない人は1000人を超えて1013人となっている。感染者が確認された保育園や小学校など学校では臨時休校が相次いでいる。中学では高校受験を控えた3年生はオンライン授業に切り替えているが、生徒たちは感染と受験の「二重苦」にさいなまれているに違いない。県内ではきょうから「まん延防止等重点措置」の適用に全県域が入る(2月20日まで)=写真・下=。

   もう一つ先が読めないニュース。きょうの東京株式市場は、日経平均が午前中、一時700円を超える値下がりとなった。午前の終値は前日の終値より690円安い2万6321円。アメリカのパウエルFRB議長がきのう理事会でインフレ抑制を優先する姿勢を打ち出し、量的緩和の3月終了を決定したことで金融引き締めへの警戒感、それに伴う経済の回復傾向にマイナスになるという懸念が広がった。ダウ平均もこのところ一時800㌦を超える大幅な値下げがあるなど乱高下が続いている。

   では日銀はどうか。黒田総裁が2013年に就任以降、2%の消費者物価指数を政策目標に掲げて大規模な金融緩和策を粘り強く続けている。ここにきて、物価上昇が顕著になってきた。これに賃上げが加われば、ひょっとして「金融政策の正常化」へと回帰するのではないかとも考えたりする。ただ、中国不動産開発の中国恒大のデフォルト問題が象徴するように中国経済が今後どうなるかによって暗雲が漂うかもしれない。経済の先も読めない。

⇒27日(木)午後・金沢の天気     はれ

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★アッと思わず手を打つ「英語の語源」

2022年01月26日 | ⇒ランダム書評

   面白い本を紹介してもらった。小泉牧夫著『アッと驚く英語の語源』(サンマーク出版)だ。日常でなにげなく使っているカタカナ英語の由来を知ると現代も見えてきて実に興味深い。

   本の内容をいくつか紹介すると。英語で「銀行」は「bank」だが、イタリア語のbancaが語源で「銀行」のほかに、「ベンチ」「土手」という意味がある。さらにそのツールをたどると、ゲルマン語のbanKōn「バンコーン」に行きつく。「土で盛り上がった平たい場所」という意味だ。キリスト教では利息を取って金を貸すことは教義に反するとされていた。しかし、中世後半に入ると、ローマ・カトリック教会はサン・ピトロ寺院の再建費用などに「免罪符」を大量発行し、それを高利貸しが販売を引き受けるという構図が出来上がる。これにドイツの神学者マルティン・ルターはローマ教会の堕落と非難し、宗教改革を起こす。賛同した画家ルーカス・クラーナハは『金貸しを神殿から追い出すキリスト』という木版画を描いた=写真、Wikipedia「金貸し」=。

   当時は地中海貿易で諸地域の通貨が流通するようになり、高利貸しは「両替商」も兼ねるようになる。彼らは教会前の広場でベンチに座り、勘定台を置いて金のやり取りをした。そうした勘定台での金銭の扱いをイタリア語でbancaと呼ぶようになった。bankの語源をたどるだけで、世界史に記されている歴史ドキュメントが浮かんで来る。

   もう一つ。英語のschool「学校」は、ギリシア語のskholē「スコレー」、ラテン語のschola「スコラ」が語源で、もともとは「暇」「余暇」という意味だ。古代ギリシアや古代ローマは奴隷制で成り立っていたが、その分、貴族や市民は暇な時間を政治や哲学、芸術に費やした。英語で「学者」という意味のscholarは、ギリシア・ローマでは文学を専門とする「古典学者学」のことで、ラテン語で「学校の」という意味のscholāris「スコラーリス」から派生した。

   ここで著者は述べている。元来「暇」という意味だった「学校」が、日本ではまったく逆の「忙しく余裕のない場所」になっている。受験戦争が激化して、ゆとりというものがなくなった。古代ギリシア人やローマ人のように、時間的にも精神的にも余裕を持って勉強することができないものだろうか、と。なるほど、これは時空を超えた問題提起かもしれない、と思わず手を打った。

⇒26日(水)午前・金沢の天気   

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☆「金継ぎ」「kintsugi」に読む世界の潮流

2022年01月25日 | ⇒トレンド探査

    器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する金継ぎのことを今月23日付のブログで書いた。能登半島の珠洲市にある「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」で展示してあった松の木とツルとカメの絵が描かれた大皿だった。東京パラリンピックの閉会式でのアンドリュー・パーソンズ会長の言葉「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」が日本人の心にも響いて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになったと述べた。

   このブログを読んでくれた知人女性が「金継ぎの茶碗を持ってます」と写真添付のメールを送ってくれた。写真は、紅葉の絵の抹茶碗に細かく金継ぎが施されている=写真=。メールによりと、若いころ茶道を習っていて、茶碗をうっかり落としてしまった。茶道の先生からいただいた思い出のある茶碗だったので修復を依頼したそうだ。そして、メールには「パーソンズ会長の発言以前から世界ではkintsugiがトレンドになっています」と、Forbes JAPANのWeb記事「ビジネスマインドとしても注目 なぜ今、世界はキンツギに魅了されるのか」(2021年12月12日付)を紹介してくれた。記事を読むと、欧米人がkintsugiをどのように考察しているのか丁寧に書かれてあった。以下記事をかいつまんで紹介する。

   Googleトレンドによると、「kintsugi」の検索数は2012年頃から徐々に増え続けいるが、2015年に飛び抜けて検索数が増加した。アメリカの人気インディーロックバンドDeath Cab for Cutieが楽曲アルバム「Kintsugi」を発売した頃に重なる。前年に1人の重要なメンバーが離脱してから初めてのアルバムとなったが、過去を受け止め、自己を修復し、この先も活動していく意思を示したものとなった。楽曲についての賛否は様々だったようだが、金継ぎという哲学について世界の多くの人が知るきっかけとなった。

   2017年にはハイエンドファッションブランドのヴィクター&ロルフが金継ぎをテーマにした春夏のクチュールを発表。2019年後半にはGoogleトレンドの注目度が加速する。これは同年12月に公開された映画『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』によるものとみられる。本編の中で印象的なのは、メインキャラクターのひとり、カイロ・レンの壊れたマスクが修復され、再び登場するシーン。前作で本人によって破壊されたこのマスクだが、傷を隠したりなかったことにするのではなく、傷跡やヒビが赤いラインで縁取られている。これは過去の物語を受け止め、自分の一部として受け入れ、前に進むための象徴として描かれており、日本の金継ぎにインスピレーションを受けたものだという。

   2020年には玩具メーカーLEGO社がグローバルマーケティングキャンペーン「Rebuild the World」の中で、金継ぎをテーマにした「レゴツギ」キャンペーンを展開。壊れたものを直す楽しさと創造性を、金継ぎの考え方とともに世界に向けて発信した。

   ではなぜ、欧州やアメリカを中心に世界はkintsugiに注目しているのか。その理由の一つとして、サステナビリティとサーキュラーエコノミーを各国が推し進めていることが背景にある。サーキュラーエコノミーとは資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済だ。このサーキュラーエコノミー実現において、製品をできるだけ長く使い続けることは特に重要視されており、修繕はその要となる。金継ぎは、一度は壊れてしまった製品をただ巻き戻して壊れていない状態にするだけではなく、美しいアートを施し、歴史というストーリーとともに芸術的価値をともなった製品に仕立て上げる。その発想がサーキュラーエコノミーと符丁が合う。

   以上、Forbes JAPANの記事で感化されたことは、金継ぎの発想はサーキュラーエコノミーに代表されるように世界の潮流になりつつあるということだ。ひょっとしてSDGsの「18の目標」として追加されるのでは。

⇒25日(火)午後・金沢の天気    くもり

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★保守三つどもえ 石川の「マンボウ知事選」

2022年01月24日 | ⇒メディア時評

   「マンボウ」という言葉が身近で再び使われている。今月26日に対面での会議が予定されていたが、さきほどスマホのショートメールで「すみません、マンボウでリモートとさせていただきます」と主催者から連絡があった。マンボウは「まん延防止等重点措置」のことだが、石川県は県内で新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないことから、きのう23日、国に対して同措置の適用を要請した=写真=。今回で3回目だ。1回目は去年5月16日から6月13日、2回目は8月2日から9月30日だった。言葉は不謹慎かもしれないがすっかり慣れっこになった。マンボウの呼び方はそれを現している。

   ただ、これまで2回のまん延防止等重点措置と異なるのは、対象地域はこれまで金沢市だったが、今回は県内全域を対象としている。というのも、県の発表によると、感染者数が今月21日は229人、22日は過去最多の263人、23日も226人と3日連続で200人以上、そしてきょう24日は193人だ。金沢市を中心に県内全域に感染が広がっていて、きょうだけで高齢者施設や保育園、幼稚園などで8つのクラスターが新たに発生している。

    県内ではこれまでに9913人の感染が確認され、このうち140人が死亡している。このペースだと、あすは感染者が1万人の大台を突破しそうだ。谷本知事は緊急の対策本部会議(23日)で、「かつてない規模とスピードで感染者が増加している。断腸の思いではあるが、厳しい措置を講じる必要がある」と述べた(24日付・NHKニュースWeb版)。具体的には、飲食店への時短要請や県民旅行割の予約受付などを停止する。

   そして病床使用率についても23日時点の病床使用率は31%だが、谷本知事は「病床使用率が50%を超えるかもしれない。法律上できる限りの対策をとって感染者数の増加に歯止めをかけたい」と危機感を募らせた(同)。

   そして気になるのは、来月24日は知事選の告示、3月13日は投開票だ。2回目のまん延防止等重点は2ヵ月続いた。3回目も2ヵ月続けば、マンボウ下での選挙戦をどう進めていくのか。立候補を表明しているのは、元プロレスラーで自民党の前衆院議員の馳浩氏(60)、元農林水産審議官で自民党前参院議員の山田修路氏(67)、そして金沢市長の山野之義氏(59)の3人で「保守三つどもえの戦い」となっている。

   候補者が感染したり、後援会事務所でクラスターが発生するとその陣営はアウトだろう。マンボウと知事選は今後どう絡んで展開していくのか。注目したい。

⇒24日(月)夜・金沢の天気     くもり

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☆「光で再生した古い家」と「金継ぎの皿」

2022年01月23日 | ⇒トピック往来

   能登半島の珠洲市で開催された「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)現代芸術の国際展部会シンポジウム」の続き。2日目(最終日)はバスで常設作品を見学するエクスカーションだった。印象的だったのは中島伽耶子作『あかるい家   Bright  house』。珠洲は珪藻土で屋根瓦や七輪などを生産する工場がいまもある。使われなくなった相当古い戸建ての事務所に入ると、まるで銀河の世界のようだった=写真・上=。外壁や屋根に無数の穴が開けられていて、穴から太陽光が差し込んでくる。

    よく見ると、穴の一つ一つには穴と同じ直径の透明の円柱のプラスチックが埋め込まれていて、雨や風などが入ってこないように工夫されている。それにしても、星空のごとく無数の穴を創るだけで相当の労力だ。柱や梁がしっかりと造られているものの、古いこの家をアートとして再生させた作家のモチベーションを聴きたくなった。

   6作品をめぐるエクスカーションの最後は「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」。このミュージアムのコンセプトは「大蔵ざらえプロジェクト」。半島の尖端にある珠洲は古来より農業や漁業、商いが盛んだったが、当時の民具などは時代とともに使われなくなり、その多くが家の蔵や納屋に保管されたまま忘れ去れていた。市民の協力を得て蔵ざらえした1500点を活用し、8組のアーティストと専門家が関わって博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館としてミュージアムがオープンした。日本海を見下ろす高台にある廃校となった小学校の体育館だ。

   奥能登は「キリコ祭り」という伝統的な祭り行事がいまでも盛んで、人を料理でもてなすことを「ヨバレ」と言う。そのヨバレで使われたであろう古い食器などが展示されているコーナーを見学した。目に止まったのが「金継ぎ」の大皿だった=写真・下=。松の木とツルとカメの絵が描かれ、めでたい席で使われたのだろう。それを、うっかり落としたか、何かに当てたのだろうか。中心から4方に金継ぎの線が延びている。

   東京パラリンピックの閉会式でアンドリュー・パーソンズ会長が発した言葉を思い出した。器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する日本の金継ぎの技術について、「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」と述べて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになった。

   この家の大正か昭和の初めのころの皿だろうか。金継ぎの皿からその家のにぎわいやもてなし、そして「もったいない」の気持ちが伝わる家風まで見えてきたような思いだった。

⇒23日(日)夜・金沢の天気        くもり

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★アートとSDGs

2022年01月22日 | ⇒トピック往来

   前回の能登半島の珠洲市で開催された「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)現代芸術の国際展部会シンポジウム」の続き。シンポジウムの前半は奥能登国際芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏の基調講演。後半は「里山里海×アート×SDGsの融合と新しいコモンズの視点から」をテーマにパネル討論だった。このテーマのキーワードは「里山里海×アート×SDGs」。能登半島は2011年に国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS)に認定された。そのタイトルが「能登の里山里海」だった。さらに市は独自に2017年に奥能登国際芸術祭を開催し、2018年には内閣府の「SDGs未来都市」に登録されるなど、「持続可能な地域社会」を先取りする政策を次々と打ち出している。

   討論会のファシリテーターは自身が務め、パネリストは泉谷満寿裕珠洲市長、国連大学サスティナビリティ高等研究所OUIK事務局長の永井三岐子氏、金沢21世紀美術館学芸部長チーフ・キュレーターの黒澤浩美氏、金沢市都市政策局SDGs推進担当の笠間彩氏の4人。前回のブログの冒頭でも述べた、「アートとSDGsは果たしてリンクできるのか」とパネリストに投げかけた。里山里海とアートはこれまでもこのブログで紹介してきたようにインスタレーション(空間芸術)でつながる。SDGsは貧困に終止符を打ち、地球の環境を保護して、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを呼びかける国連の目標だが、SDGsの17の目標の中に「アート」「芸術」という文字はない。

   アートとSDGsは果たしてつながるのか。すると、討論の中で「アーチストもSDGsをどう創作・表現するか迷っている」という言葉が出た。ハタと気がついた。アーチストもSDGsを表現しようと試行錯誤している。珠洲市は「SDGs未来都市」に登録されている、作家もそのコンセプトを表現しようとするはずだ。思い当たる作品が浮かんだ。

   インドの作家スボード・グプタ氏の作品「Think about me(私のこと考えて)」がある。大きなバケツがひっくり返され、海の漂着物がどっと捨てられるというイメージだ=写真=。プラスチック製浮子(うき)や魚網などの漁具のほか、ポリタンク、プラスチック製容器など生活用品、自然災害で出たと思われる木材などさまざまな海洋ゴミだ。ガイドブックによると、これらの漂着ごみのほとんどが実際にこの地域に流れ着いたものだ。地域の人たちの協力で作品が完成した。グプタ氏の創作の想いが海洋ゴミを無くして海の自然と豊かさを守ろうという意味と解釈すれば、まさにSDGsだ。

   奥能登国際芸術祭ではインスタレーションの視点で楽しんだが、SDGsの視線で作品を見たことはなかった。アートには無限の可能性や、社会を豊かに変えていくことができる芸術の力があるのではないか、と今さらながら感じ入った次第だ。

⇒22日(土)夜・金沢の天気      くもり

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